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大坂なおみが米人気スポーツ誌水着特集号の表紙に選ばれたワケ 昔の自分にアドバイスしたいこととは?

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
東京五輪に出場する大坂なおみ。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 大坂なおみがまた歴史を刻んだ。

 “時の人”が表紙を飾るアメリカの人気スポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」。中でも、毎年大きな注目を集めている同誌の水着特集号の表紙に登場することはアメリカではステイタスと言える。その表紙(アメリカで7月22日発売)に大坂が登場するのだ。

 ビジネスインサイダーが「大坂なおみ、スポーツ・イラストレイテッド水着特集号の表紙を飾る初の黒人女性アスリートになる」というタイトルで報じる他、ピープルマガジンも「大坂なおみほど(今年が)ビッグな年になっている者はいない」と大坂がテニスを超えて、ファッションブランドとコラボしたり、ネットフリックスのドキュメンタリーに登場したりするなど様々な分野で活躍していることを紹介している。

「スポーツ・イラストレイテッド 2021年水着特集号」の表紙を飾って注目されている大坂なおみ。その姿からは大きな自信が漂う。写真:pagesix.com
「スポーツ・イラストレイテッド 2021年水着特集号」の表紙を飾って注目されている大坂なおみ。その姿からは大きな自信が漂う。写真:pagesix.com

 大坂は同誌の表紙モデルに抜擢されたことにエキサイトしているようだ。同誌のウェブサイトの動画でこう話している。

「表紙の1つを飾る初の日本人とハイチ人女性であることを誇りに感じているわ。私がすることにはみな、多文化的背景が存在しているような気がする。私はすべてに多文化的背景を組み込もうとしているの。だから、それがわかってもらえるといいな。

 (スポーツ・イラストレイテッドについて)思い出すのは、賞賛している人々が雑誌に登場していたということ。タイラ・バンクスやビヨンセが出ていた号が思い出深いわ。とてもたくさんの素晴らしい女性たちが表紙を飾るのを見て育ったから、私にとっては、(表紙を飾るのは)夢のようだわ」

 同誌の表紙で微笑む大坂からは大きな自信が漂うが、大坂は他の人と比較しないこと自信を持つことの大切さについても言及している。

「昔の自分に1つアドバイスをするとしたら、プロセスを信じて、自分を他の人とは比較するなということかな。とても自信があるなってあなたが思う人も、少し不安を抱えていると思うの。多くの人が“自信がつくまで、自信があるフリをしろ”(自信があるフリや成功しているフリをしていれば、実際にそうなるという考え方から)と言っている。それに、多くの人がとても上手にそうしていると思う。自信を持てば、いつかは自信がついてきて、自信のある人間になるような気がする。そんな感じの思いでテニスをしようとしているの」

 スポーツ・イラストレイテッドのウェブサイトでは、大坂とタイラ・バンクスのオンラインでのやりとりも紹介されている。ちなみに、バンクスは1997年に同誌水着特集号の表紙を飾った初の黒人女性だ。大坂はバンクスに「スポーツ・イラストレイテッド誌は美の壁や美のステレオタイプというものを打ち破ってきた。水着特集号の表紙に出る初の黒人女性アスリートになってどう感じてる?」と問われ、その感激をこう吐露している。

「初めての人物になるとは思っていなかった。壁が打ち破られて嬉しいわ」

 同誌編集長のMJデイ氏も、プレスリリースで、大坂が様々な壁を打ち破ってきたことを彼女を表紙に選んだ理由としてあげている。

「平等、社会正義、心の健康に関して、一貫して壁を打ち破っているなおみの情熱、勇気、そしてパワーを賞賛している」

 大坂は昨年、「私はアスリートである前に黒人女性だ」と言って大会を途中で棄権したり、警察の暴力により亡くなった人々の名前を入れたマスクをつけてプレイしたりすることで人種差別に抗議し、注目された。また、先日は、フレンチオープンを棄権し、心の健康の大切さを訴えた。いずれも、とても勇気のある行動だ。

 大坂は「私はこれまで声をあげてこなかった。でも、たくさんのことが起きた。この1年、誰かが不快なことに対して声をあげなくてはならないと感じていたの」と同誌で話しているが、言葉だけではなく行動で何が大切かを毅然と訴える大坂が世界に与える影響は大きい。

 大坂の表紙登場について、保守系のコメンテイターが「内向的過ぎてメディアと話せないと言っているのに、表紙を飾っている」などと揶揄して今波紋が起きているが、そんな批判以上に、大坂が心の問題を抱えながらもアクティブに行動することで世界に何を伝えようとしているのか、大坂の活動がどんな意味を持っているのか、そのことに、私たちは目を向けるべきではないだろうか。

 ちなみに、今年の同誌の水着特集号の表紙は、大坂以外に、トランスジェンダーやラッパーの女性も初めて登場している。イスラム系のモデルを表紙に初めて登場させて話題を呼んだ同誌は、美は多様であることを重視しているのだ。

「表紙のモデルに共通していることが1つあるとすれば、それは彼女たちには1つも共通点がないということ。彼女たちはルックスが違い、違った環境で育ち、異なる情熱やインスピレーションを持っている。彼女たち1人1人が、美にはたくさんの形があることを思い出させてくれるの」

とデイ編集長は話している。

 人はみなそれぞれ違い、その違いを受け入れる。それは、大坂が重視していることだろう。大坂はファッションへの情熱も見せ、水着ブランド「フランキーズ・ビキニズ」ともコラボしているが、ファッションブランドも違いを重視すべきだと話している。

「ブランドはある特定のサイズや形、ボディの人のためだけでなく、すべての女性のためにデザインすることが大切だと思うの。私にとっては、多様性を優先しているブランドと提携することが重要だわ」

 大坂の考え方を反映するように、「フランキーズ・ビキニズ」のウェブサイトにはふくよかなモデルも登場している。

 アメリカではトランプ政権後も分断が続いている。人種の違いによる分断は黒人差別だけではなく、アジア人差別やユダヤ人差別も生み出し、考え方の違いによる分断は保守的な“赤いアメリカ”とリベラルな“青いアメリカ”を生み出している。そこには、違いを受け入れない人々がいる。

 しかし、人はそれぞれが違っている。そして、それでいい。

 身をもってそれを教えている大坂は、これからも、様々な文化が争うことなく共存できる多文化社会の実現に向けて、壁を打ち破り続けるのだろう。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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