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難民キャンプ出身のイスラム系モデルが水着姿を披露 米人気スポーツ誌史上初

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
イスラム系モデルのハリマ・アデンさん。写真:Sports Illustrated

 アメリカを代表するスポーツ誌「スポーツ・イラストレイテッド」が毎年発売して好評の水着特集号に、イスラム系のモデルが水着姿で登場、アメリカの人気スポーツ誌史上初のこととあって、話題となっている。

2つの史上初が与えた勇気

 ブルキニという、イスラム教徒の女性が身につける全身を覆い隠す水着を着て登場したのはハリマ・アデンさん。アデンさんはソマリア出身の両親の下、ケニアの難民キャンプで生まれ、7歳の時に米国に移住、ミネソタ州で育った。中学時代は、ヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭や身体を覆うために身につける布)をまとっていたためにからかわれたアデンさんだが、高校時代には、ホームカミング・クィーン(高校や大学でホームカミング・デイの時に行われるミスコン形式のイベントで優勝した女性)に選ばれる。

 

 そんなアデンさんが違和感を覚えていたことがある。それは、雑誌をめくっても、ヒジャブをまとっている女性を目にしなかったこと。

 アデンさんは「スポーツ・イラストレイテッド」のビデオでこう話している。

「アメリカで育ったけれど、雑誌をめくってもヒジャブを着ている女の子を見たことがなかったから、全然自分たちのことが表現されていないと感じていたわ」

 そんなふうに感じていたアデンさんは、19歳の時、2016年度ミス・ミネソタUSAコンテストのステージに、アメリカでは初めて、ヒジャブやブルキニを身につけて登場し、一躍、注目を浴びた。

 その後、著名モデルエージェンシーIMGと契約、現在、ファッションショーやファッション誌で活躍している。

 米国のミス・コン史上初めてブルキニ姿を披露し、今回は、米国の人気スポーツ誌史上初めてブルキニ姿で登場したアデンさん。“2つの史上初”を打ち立てたアデンさんは、イスラム系の女性たちはもちろん、多くの女性たちを「恐れずに、初めて何かに挑戦する人になろうよ」とインスパイアし、自信と勇気を与えている。

 ミネソタ州の民主党下院議員イルハン・オマル氏は、そんなアデンさんをツイートで賞賛。

「スポーツ・イラストレイテッドで、初めてブルキ二を身につけたモデルとなったことを祝福します。同じミネソタ州の人間同士であり、ソマリア難民同士として、あなたが、頑張ってここまできて、前進していることを誇りに感じています」

スポーツ誌の承認は不要

 一方で、疑問視する声も上がっている。

 イギリスの「スタイリスト」誌は「ブルキニが受け入れられるのに、スポーツ・イラストレイテッドの承認はいらない」というタイトルで「アデンはイスラム系女性の素晴らしいロール・モデルだけど、スポーツ・イラストレイテッドのお祝いムードは不快だ」とし、その理由として、2つの点を指摘している。

 第1に、同誌が女性をモノ化していること。

 第2に、女性は何を着ても認められるべきなのに、政治的に着用が許されなかったこともあったブルキニを着た女性が、たくさんの白人読者を抱える「スポーツ・イラストレイテッド」に載って、突然受け入れられ、たくさんの祝福のツイートが寄せられたという違和感。そこには、“イスラム系の女性はイスラム系ではない人々から承認される必要がある”という考え方が根本にあるのではないか。

 「スタイリスト」誌は、着るものが何であれ、他人の承認を得る必要はないのだと主張している。

フランス南部ではブルキニ禁止令も

 ブルキニは実際、政治的問題から、受け入れられない憂き目にもあっていた。

 2016年7月14日、「バスティーユ・デイ」の祝日に、ニースで、イスラム系男性がテロ事件を引き起こし、84人が亡くなった。そのため、カンヌなどフランス南部の自治体は、イスラム系女性に対する嫌がらせを防ぐため、イスラム系だとすぐにわかるブルキニ着用を禁止する法律を発令。ニースでは、警察官らがブルキニを着た女性を取り囲み、ブルキニを脱ぐよう強制している姿も目撃されて問題となった。しかし、同年8月末には、ブルキニ禁止令は服を選択する自由に反することから、違憲となった。

 また、2017年には、ジュネーブでブルキニのプールでの着用を禁じる動きも起きた。

ブルキニ禁止令が発令されたフランス南部のビーチでは、警察官に取り囲まれ、ブルキニを脱ぐイスラム系の女性の姿も目撃された。写真:New York Yimes
ブルキニ禁止令が発令されたフランス南部のビーチでは、警察官に取り囲まれ、ブルキニを脱ぐイスラム系の女性の姿も目撃された。写真:New York Yimes

 そんな背景を考えると、白人社会が禁止したこともあるブルキニを身につけたイスラム系のモデルが、読者の多くが白人男性のスポーツ誌に突然登場して賞賛されたことに矛盾を感じるという声が出てくることも理解できる。「スタイリスト」誌はイスラム系の女性は何を着たっていい、白人社会に左右される必要はないと言いたいのだろう。

混ざり合う2つの世界

 もちろん、アデンさんは何を着るのも自由だ。しかし、アデンさんが、ブルキニを着た意味はやはり大きい。

 アデンさんはアメリカ文化の1つであるミス・コンで、イスラム系の女性のための水着であるブルキニを着た時のことについてこう話している。

「ミス・コンに出ることに親戚は驚いたけど、そうすることで、彼らにアメリカのライフ・スタイルを見てもらいたかったの。私は人が持つすべての側面を大切にしたいの。ミネソタ州で育った人間である一方、ソマリア人でもあるから。2つの世界が混ざり合っているのを見るのは素晴らしいことだわ」

 アメリカは、トランプ大統領の下、アメリカが標榜してきた「人種のるつぼ」が意味する多様性とは逆の方向に向かっている。異人種に対する憎悪に起因するヘイト・クライムが増加し、メキシコ国境では異人種を排除するような行動が取られ、異人種に対して非寛容な社会へと突き進んでいる。それだけに、今ほど、アメリカは様々な人種や価値観が混ざり合ったところなのだと表現することが重要な時はない。

 違いを受け入れなくなったアメリカに、ブルキニを着ることで、違いが混ざり合うことの素晴らしさを示して見せたアデンさんは、アメリカ社会に大きなインパクトを与えたのだ。

参考記事:

“It shouldn’t take Sports Illustrated to approve the burkini for it to be acceptable”

Halima Aden Makes History as the First Model to Wear a Hijab and Burkini in Sports Illustrated Swimsuit

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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