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漫才頂上決戦『M-1グランプリ』敗者復活戦の歴史と今年の見どころは?

ラリー遠田作家・お笑い評論家
(写真:アフロ)

本日12月24日、漫才日本一を決める『M-1グランプリ2023』の決勝が行われる。18時30分から生放送される決勝に先立って、準決勝敗退者の中から1組だけ決勝に上がる芸人を決める「敗者復活戦」も15時から行われる。

敗者復活戦に臨むのは、ヘンダーソン、ママタルト、ぎょうぶ、ロングコートダディ、華山、20世紀、ニッポンの社長、オズワルド、豪快キャプテン、エバース、ナイチンゲールダンス、鬼としみちゃむ、トム・ブラウン、スタミナパン、フースーヤ、バッテリィズ、シシガシラ、ななまがり、きしたかの、ダイタク、ドーナツ・ピーナツの21組。この中から1組だけが決勝に進み、すでに決勝進出が確定しているファイナリスト9組と並んで、優勝を争うことになる。

決勝経験者のロングコートダディ、オズワルド、トム・ブラウンをはじめ、実力者がひしめいていて、ハイレベルな戦いが行われるのは間違いない。

今年の敗者復活戦の舞台となるのは「新宿住友ビル 三角広場」である。『M-1』の敗者復活戦は長く屋外の会場で開催されてきた。屋内での開催は2004年大会以来となる。これは大会の歴史の中でも大きな変化である。

『M-1』の敗者復活戦は、2002年の第2回大会から始まった。会場は何度か変わっているが、2005年以降は一貫して屋外で行われてきた。真冬の寒さが厳しい時期に屋外でお笑いライブをやるというのは、芸人にとっても観客にとっても過酷な状況である。

私自身も何度か足を運んだことがあるが、本当に厳しいコンディションだった。特に、2010年までの第一期『M-1』では、近年よりも敗者復活戦に出る芸人の数が多かった。60組前後の出場者がいたので、敗者復活戦はだいたい5時間超の長丁場だったと記憶している。

スポーツ競技場や競馬場などの平坦で広々とした会場で、風が吹きさらしになり、気温以上に寒く感じられる環境だった。一度はそこで体調を崩して熱を出し、朦朧とした状態で自宅のテレビで決勝を見たこともあった。

それでも、スタッフが屋外の敗者復活戦にこだわってきたのは、そこにドラマ性を求めていたからだろう。

敗者復活戦から『M-1』史上最大のドラマが生まれたのは、2007年。サンドウィッチマンが初めて敗者復活戦から勝ち上がって優勝を果たしたのだ。サンドウィッチマンがそれまで世間にほとんど知られていなかったこともあり、見る人に与えた衝撃は大きかった。『M-1』という大会が一段と盛り上がるきっかけにもなった。

敗者復活戦の会場は「地獄」と呼ばれていた。かつては敗者復活戦の模様がテレビで放送されることもなく、世間にも注目されていなかった。

敗者復活戦の環境が過酷だったからこそ、そこから這い上がって活躍する芸人がより輝いて見えた。スタッフはそのドラマ性を重視していたからこそ、屋外開催を続けてきたのだろう。

しかし、今年ついにそれが変わることになった。個人的には全面賛成である。出場する芸人が万全の状態でネタを披露して、観客が万全の状態でネタを楽しむ。そのためには落ち着いた環境である屋内の方が良いに決まっている。

特に、2015~2022年の敗者復活戦会場だった六本木ヒルズアリーナは、都会の真ん中で近くに大きい道路もあり、さまざまな騒音がネタの妨げになることもあった。

そもそも、出演者や観客に一定の身体的負担をかけてまで大会を盛り上げるというやり方が、今の時代の空気に合わなくなっているという感じもする。

屋内会場に変更されるからといって、敗者復活戦のドラマ性がなくなるわけではない。第二期の2015年以降でも、トレンディエンジェルが敗者復活からの優勝を成し遂げたり、敗者復活戦を制したハライチがラストイヤーで力のこもった漫才を見せたり、印象的な場面はいくつもあった。

今年の敗者復活戦では、初めて芸人審査員による審査も導入されることになった。このことによって今まで以上に審査が公平なものとなり、純粋にその日の漫才の出来だけで勝負が決まることになりそうだ。

敗者復活戦から決勝まで目が離せない熱い戦いが行われる。今年はどんなドラマが待ち受けているのだろうか。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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