水道水の水質基準が変わる「水質管理目標」に発がん性が指摘される有機フッ素化合物
4月1日から水道水の水質基準、水質管理目標設定項目が変わる
水道水は、水質基準に適合するものでなければならず、水道法により、水道事業体等に検査の義務が課されている。
水質基準以外にも、水質管理上留意すべき項目を水質管理目標設定項目、毒性評価が定まらない物質や水道水中での検出実態が明らかでない項目を要検討項目と位置づけ、必要な情報・知見の収集を行っている。
水質基準、水質管理目標設定項目、要検討項目の関係は以下のようにまとめられている。
そして、項目の設定や基準値、目標値の設定は、最新の知見により常に見直されている。
厚生労働省「水質基準項目と基準値」(水道水質基準、水質管理目標設定項目、要検討項目に設定されている項目一覧)
このうちの複数の項目が、2020年4月1日から改正される。
六価クロム化合物の基準が強化
水質基準項目での対象は、六価クロム化合物で、現行0.05mg/Lから0.02mg/Lと強化される。
2018年9月18日に食品安全委員会委員長から厚生労働大臣に対し、食品健康影響評価の結果が通知された。この結果に基づき、2018年11月15日に開催された水質基準逐次改正検討会で検討を行い、「現行評価値を強化することが適当」という方針をとりまとめた。
六価クロムの健康への影響には、一般的に、嘔吐、下痢などの急性毒性、肝炎、腎機能障害などの慢性毒性があるとされる。
目標値の強化される農薬、緩和される農薬
水質管理目標設定項目(26項目)のなかには、農薬類という分類があり、対象農薬とその目標値が定められている。
今回改正されるのは、対象農薬リストに掲載される農薬3種と、その他農薬4種である。以下にまとめた。
<対象農薬リスト掲載農薬類>…浄水で検出される可能性の高い農薬
カルタップ 0.3mg/L → 0.08mg/L(強化)
ジクワット 0.005mg/L → 0.01 mg/L(緩和)
プロチオホス 0.004mg/L → 0.007 mg/L(緩和)
<その他農薬類>…浄水から検出される可能性が小さく、検討の優先順位が低い農薬
セトキシジム 0.4mg/L → 0.2mg/L(強化)
チアクロプリド 0.03mg/L(新規設定)
チオシクラム 0.03mg/L→ 0.05mg/L(緩和)
ベンスルタップ 0.09mg/L→ 0.06mg/L(強化)
強化されたカルタップは、食品安全委員会評価によると「体重(増加抑制)及び神経系(振戦等)に認められた」とされている。緩和されたプロチオホスは「脳及び赤血球ChE活性阻害、神経系(振戦等)並びに体重(増加抑制)に認められた」とされている。緩和されたことを受け、水質基準逐次改正検討会の委員のなかには「よく検出される農薬なので引き続き注意」という意見もあった。
発がん性が指摘される有機フッ素化合物が水質管理目標設定項目に
水質管理目標設定項目で検討された有機フッ素化合物は「ペルフルオロオクタンスルホン酸」(以下PFOS:ピーフォス)、ペルフルオロオクタン酸(以下PFOA:ピーフォア)である。
PFOSは、残留性有機汚染物質について定められた「ストックホルム条約」で2009年5月に使用制限の対象物質に登録された。国内では化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律「化審法」において2012年4月以降は特定の用途を除き製造・輸入・使用等が禁止されている。
PFOAは、2018年4月から2019年5月にかけて開催されたPOPs条約第9回締約国会議において、附属書Aに追加され、特定の用途を除き廃絶することが決定され、化審法に基づく所要の措置について検討が行われている。
フッ素およびその化合物の人体の影響としては、一般的に、斑状歯、骨硬化症、甲状腺・腎障害などが懸念されている。しかしながら、極めて安定的な物質であるため、環境中でほとんど分解されないという特徴がある。
近年、国内の水道水でも、原水および浄水から検出されている状況が続いていた。東京の水道原水からも検出されている。
参考記事「東京の水道原水から有機フッ素化合物 地下水汚染は時空を超える」
すぐに健康に影響を与える量ではないが、PFOS、PFOAが定量下限以上で検出された水道原水、浄水は以下のとおりである。
これまで国内ではPFOS、PFOAの水道水質に関する目標値を設定していない。現時点ではWHO(世界保健機関)においても、PFOS、PFOAの飲料水のガイドライン値は設定されていない。
PFOS、PFOAについては、カナダ、欧州食品安全機関、オーストラリア、米国などが有害性評価値を定めている。安全の観点からPFOS、PFOAについて最も厳しいものが採用された。PFOSについては20ng/kg/day(オーストラリア、米国の数値)、PFOAについては20ng/kg/day(米国の数値)を採用し、暫定目標値として1リットル当たり50ナノグラム(PFOS、PFOAの合計値)とされた。
PFOS、PFOAの健康への影響は未解明な点が多いが、いまのところ水中のフッ素イオンを90%以上の除去率で除去するためには、イオン交換樹脂か逆浸透膜を用いるしかない。PFOS、PFOA以外の有機フッ素化合物も含めて、引き続きモニタリングが必要だろう。
東京都水道局ではPFOS、PFOAの検出された浄水場が取水する井戸を調査し、高めの濃度を検出した井戸からの取水を停止するなどして対策を図っている。
【修正】「ジクワット 0.05/L → 0.01 mg/L(緩和)」は誤りだったため「ジクワット 0.005mg/L → 0.01 mg/L(緩和)」に修正しました。(2020年3月30日19時3分)