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「水道の耐震化率の低さ」を訴える国交省の点検結果に対する自治体の反応。はたして耐震化率は上がるのか?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
国土交通省資料より筆者作成

国土交通省の緊急点検結果

 国土交通省が公表した「上下水道施設の耐震化状況に関する緊急点検結果」によると、重要施設に接続する水道管路の耐震化率は約39%、下水道管路は約51%、上下水道の両方が耐震化されている施設はわずか約15%にとどまった。

 同省は、すべての自治体に2025年1月末までに上下水道耐震化計画を策定するよう要請し、技術的・財政的支援を通じて耐震化を促進する方針を示している。

 一方で、各地の水道事業者にヒアリングを行ったところ、以下のような課題や懸念が浮き彫りになった。

自治体の主な反応

1. 耐震化率への疑問

 耐震化率だけを目標とするアプローチに対し、現場からは「数値が独り歩きしているのでは」との懸念がある。急所施設や主要管路の耐震化はコストと時間がかかる一方で、耐震化率の向上に直結しにくい。一方、重要でない管路の耐震化は比較的容易であり耐震化率を上げやすい。多くの事業者が重要施設の耐震化を優先している中で、耐震化率のみを目標とすると各事業者の努力や取り組みを正確に評価できないという声がある。

2. 上下水道の一体化への懸念

 上下水道が一体として機能する必要性は理解するが、「実際の工事では水道と下水道は別々の対応を要する」という声があった。水道は布設替工事、下水道は管路更正工事が主であり、新設でない限り一体的な工事は現実的ではない。耐震化計画を上下水道で一緒に策定することには、実効性が乏しいという意見が多い。

3. 財源不足と補助金の制約

 耐震化にかかる費用は1メートル当たり約20万円にも及び、数十~数百キロの管路更新には膨大な予算が必要となる。特に、独立採算制を原則とする水道事業において、収益が低迷する小規模事業体は耐震化費用を捻出するのが困難である。さらに、中山間地域では管路が長くなるため工事費が増大し、財政的な負担がさらに重くなる。

 国の補助制度では、事業費の25~50%程度が支給されるものの、水道料金を全国平均以上に設定するなどの条件が付されており、利用しにくいという指摘がある。

4. 人材不足

 一定規模の水道事業体では耐震化工事を進める能力はあるが、人材を増やすことは難しく、現在以上のペースでの耐震化は困難である。小規模事業体では技術者が不足しており、そもそも耐震化を進める体制が整っていない場合も多い。このため、予算や補助金があっても対応能力が不足し、耐震化のスピード向上は困難である。

5. 調査前提のばらつき

「重要施設」の定義や選定基準が事業体ごとに異なっており、10数施設程度を選定する自治体もあれば、数百施設を挙げる自治体もある。このため、耐震化率の比較自体に統一性を欠き、現状の評価が難しいという声がある。

今後の課題と提案

 特に人口が少なく広い面積を持つ自治体では、財政負担が重く、耐震化の進捗が遅れる可能性がある。こうした状況を踏まえ、すべての上下水道を耐震化するのではなく、被災したとしても復旧しやすいしくみの検討や、周辺自治体と連携し、災害時に給水体制を維持できる仕組みを構築することも重要だろう。

 また、現場の実態に即した柔軟な支援策が求められる。たとえば、耐震化率だけでなく実際の取り組みを評価する指標を導入し、現場の声を反映した政策を進め、住民とのコミュニケーションを図ることも望まれる。

 耐震化は一朝一夕には進められないため、長期的な視点で取り組みを続ける必要があるだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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