英国王室の商標登録について調べてみた
エリザベス女王崩御に関連した報道で、英国王室が膨大な資産を所有し、日本の皇室とは異なり、様々な事業活動を行っていることに触れていました。「業として」の活動を行っている以上、商標権はどのようになっているのか簡単に調べてみました(参考文献:Trademarks Owned by the British Royal Family)。
まず、当然ではありますが、紋章(エンブレム)や王族の肖像等、王室と関係があるかのように見える商標は法律の規定により英国王室の許諾なしには使用できません(英国王室によるガイドライン)。
これとは別に英国王室(法人名で言うとThe Crown Estate)は、英国で数十件の商標登録をしています。たとえば、"Café Royal"といった登録があります(タイトル画像参照)。宿泊施設の提供が指定役務に含まれているので、ロンドンの有名なホテルHotel Café Royalとの関係が気になりますが、おそらくは許諾を受けているのでしょう(この点を明確に書いた情報は見付けられませんでした)。一方、たとえば、Royal Bank of Scotlandは1727年に国王の勅許状により設立された銀行であり、その時点でRoyalという言葉の使用が許可されているという歴史的経緯が同行のウェブに載っています。
なお、王侯貴族(の資産管理団体)、たとえば、The Royal Foundation Of The Duke And Duchess Of Sussex of Wales(ウィリアム王子夫妻の財団)等も普通に商標登録を行っています。慈善活動も含めて「業として」の活動を行っているので当然でしょう。
この件に関連して、ちょっと前になりますが、ヘンリー王子夫妻の資産管理財団(Sussex Royal The Foundation Of The Duke And Duchess Of Sussex)が、衣服や文房具等を指定商品とした”SUSSEX ROYAL”の商標登録出願(おそらくは土産品目的)を行ったことで一悶着ありました(関連過去記事)。この出願は、いったん登録前公告状態となり、英国王室が異議申立するのかと胸熱状態だったのですが、結局出願人が自主的に取り下げることで消滅しています。異議申立が何件かあったことはわかっているのですが、異議申立の手続に入る前に出願自体が取り下げられてしまったので誰が申し立てたのかはわかりません。同時期に米国で行われていた出願もUSPTOのオフィスアクションに出願人が応答しなかったため取り下げになっています。また、英国の出願を基礎出願として、マドリッドプロトコルを通じて他の国にも国際商標登録出願が行われていましたが、今WIPOのサイトを見ると履歴が綺麗さっぱり消えています。おそらく、こちらも自発的に取り下げたものと思われます(マドプロは審査開始前に出願を取り下げると履歴が残らない運用なのかもしれません)。
参考までに日本の状況も調べてみました。言うまでもなく、日本の皇室は「業として」の活動をしていませんので商標登録出願することはないでしょう。宮内庁関連では唯一、宮内庁生活協同組合を権利者とする「御苑(みその)」という酒を指定商品とした商標登録(5078943号)がありました。皇居内でしか買えないレアなお酒のようです。しかし、コロナ禍により宮内庁生協自体が解散してしまうそうなので(参照記事)、この商標登録も更新されず消滅する可能性があります。
さらに余談ですが、別件の調査中に、米国企業による”TENNO”という、飲料等を指定商品とした商標登録出願を偶然発見しました。国際登録1206961を通じて、日本にも出願されていたのですが、「天皇」という読みになってしまうので公序良俗違反であるとして商標法4条1項7号により拒絶されています。この件、造語、あるいは、どこかの国の言葉が偶然TENNOになってしまったのかと思いましたが、関連出願書類をよく読むと、出願人は元より「天皇」という意図で出願していたようです。なお、この出願の基礎である米国出願は登録査定が出ていましたが、出願人が商標の使用証拠を提出しなかったため取り下げになっています(それに応じて国際登録の方も取り消しになっています)。事業自体がなしになったのか、出願人が国際問題化を恐れて自主的に使用をやめたのかはよくわかりません。
なお、余談続きで商標から話を変えると、著作権については無方式主義なので創作行為をしただけで特に出願等の手続なしに、自動的に権利が発生します。上皇后様をはじめとする皇族の方が作詞した楽曲がJASRACの作品データベース(J-WID)に登録されている件については過去に書きました。ただし、これはデータベースに登録(クレジット)されているだけであって、JASRACには無信託状態なので、これだけで皇族の方に著作権が発生していることを意味するものではありません。