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北朝鮮はロシアと“同じ世界”を見ている

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
過去のミサイル発射に関する韓国側報道(写真:ロイター/アフロ)

 ロシアのウクライナ侵攻で緊張が高まるなか、北朝鮮は27日早朝、弾道ミサイル発射を強行した。米欧がロシアに対する制裁措置を講じるなか、北朝鮮側はロシアを擁護する立場を示唆して「米国の強権と専横がその根本原因にある」と主張している。米国がウクライナ情勢への対応で手が回らない状況にあるだけに、北朝鮮はその隙を突いて米国を圧迫し、譲歩を引き出そうと試みているように見える。

◇北京冬季五輪中は“自粛”

 韓国メディアの情報を総合すると、北朝鮮は27日午前7時52分、平壌・順安一帯から日本海に向けて弾道ミサイルと推定される飛翔体1発を発射した。順安は、北朝鮮が1月にも短距離弾道ミサイル2発を発射した飛行場がある場所だ。今年に入って8回目の軍事デモンストレーションとなった。

 北朝鮮は1月に弾道ミサイル6回と巡航ミサイル1回の計7回のミサイル発射を強行している。同月30日には米領グアムへの攻撃が可能な中距離弾道ミサイル「火星12」型まで発射。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が、2018年に宣言した核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)実験の「モラトリアム解除」まで示唆し、軍事的緊張を高めていた。

 だが、北京冬季五輪期間(2月4~20日)中には、これといった軍事的行動を見せず、国内の結束にだけ集中した。「盛大に祝う」と予告していた金総書記の父・金正日(キム・ジョンイル)氏の誕生日(2月16日)も軍事パレードなどは実施せず、内部行事が中心だった。金正日時代の核・軍事分野の業績に関する発信も限定的だった。

 五輪閉会により、北朝鮮は中国に配慮する必要を感じなくなり、北朝鮮は軍事的デモンストレーションを再開した。3月には米韓合同軍事演習や韓国大統領選が控えており、その動向を見ながら、次の措置を繰り出すものとみられる。

◇ここでも「二重基準」批判

 北朝鮮外務省は今月26日付でホームページに、ロシアによるウクライナ侵攻に関する国際政治の専門家名義の論文を掲載した。論文はウクライナ侵攻を「ウクライナ事態」と表現している。

 論文では「ウクライナ事態は、世界覇権と軍事的優位のみを追求し、一方的な制裁圧迫にだけこだわってきた米国の強権と専横にその根本原因がある」と主張した。

 プーチン露大統領はウクライナを「歴史的にロシアと不可分」と位置づける。そのウクライナが北大西洋条約機構(NATO)加盟を推進した。ロシアは米国にウクライナのNATO非加盟の確約を求めたが、拒否された経緯がある。

 論文は「国際的なメディアや専門家」の見解を引用する形をとって「ウクライナ事態が発生した根本原因は、NATOの一方的な拡大と脅威により欧州の勢力均衡が破壊され、ロシアの国家安全が厳重に脅威にさらされたことにある」と記述している。そのうえで「ロシアの合法的な安全上の要求を米国が無視した」と書き、ロシアの主張を擁護している。

 この際、北朝鮮が米国を批判する際に用いる「二重基準」という用語を持ち出し、「内政干渉を『世界の平和と安定のための正義である』と美化し、他の国の自衛的措置を『不正』『挑発』と追い立てるのが米国式の傲慢さと二重基準だ」と、米国に非難の矛先を向けた。

◇個人名義の寄稿

 論文は北朝鮮外務省のホームページに掲載されたものではあるが、当局者の談話・声明ではなく、あくまでも「学者の個人名義の寄稿」という形で、ロシアによるウクライナ侵攻を擁護している。北朝鮮としては、国際社会の反応や事態の推移を慎重に見極めたうえで、公式的見解を示すものとみられる。

 北朝鮮やロシアから発信されるメッセージを見る限り、両国の国際社会に対する認識は似ているように思える。

 米国が単独で国際社会の秩序を維持するのは難しいため、国連やNATOを動かし、パートナー国との関係強化を図る。

 北朝鮮情勢に通じる在日朝鮮人の研究者は次のように解説する。

「厳しい国際環境の中で、もはや大国とはいえないロシアが生き延びていくには、ある時は強権を使い、ある時は対話をしてという形しかない。こうした視点は北朝鮮と共通するものがある。北朝鮮には『ロシアとしては仕方なかった』と映っているはずだ」

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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