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交通事故の遺族を苦しめたSNS中傷 その後に次々と届いた投稿者からの謝罪

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
交通事故で亡くなった仲澤勝美さん(当時50)の遺影を見つめる妻と長女(筆者撮影)

 2月3日に発信した、【「遺族は、結婚してはだめなのですか?」 事故被害者へのSNS中傷と二次被害の現実(柳原三佳) - 個人 - Yahoo!ニュース】には、大きな反響がありました。

 寄せられた声の多くは、それぞれの人生を歩みはじめた遺族(交通事故で父を亡くした子どもたち)の結婚や妊娠を否定するかのような書き込みをした人たちへの、以下のような批判でした。

「遺族にも自身の人生を生きる権利がある」

「遺族が『遺族らしさ』を求められるのは絶対におかしい」

 その一方で、

「自分も同じく理不尽な書き込みに苦しめられたことがある」

 という深刻な投稿も複数ありました。

 事故で我が子を亡くした後に新しい命を授かった人、再婚して新たな人生を歩み始めた人、事故状況について誤った情報を書き込まれ、いわれのない批判をされたという人。

 また、「遺族のくせに笑っていた」「応援していたけど(幸せそうで)がっかりした」といった書き込みをされ、深く傷ついたという方もおられました。

 家族が事故や犯罪の被害に遭うと、これほどの生きづらさを強いられることがあるのだと、あらためて思い知らされました。

 しかし、理不尽な中傷にただ傷つき、引きこもっているだけでは何の解決にもならないのです。

■中傷された辛さ、書き込んだ相手に直接送信

 実は、記事が出た直後、上記記事で取り上げた被害者の長女・杏梨さん(29)から、こんなメッセージが届きました。

『例のツイートをした方々から、続々と謝罪のメッセージが届きました』

SNSの中傷コメントに真正面から向き合った長女の杏梨さん(筆者撮影)
SNSの中傷コメントに真正面から向き合った長女の杏梨さん(筆者撮影)

 杏梨さんはその経緯について、こう語ります。

「『あのような酷い書き込みをするような人たちのことは相手にしない方がいいよ』という声もありました。でも私は、ミカさんのYahoo!の記事が出てからすぐ、ツイッターで批判の書き込みをした人たちに、『この記事、よかったら見てください』とURLを書いてリプで飛ばしたんです。きっと彼らも、本人から直接メッセージが来て驚いたでしょうね」

 すると、その直後から、杏梨さん宛てのダイレクトメッセージに次々と以下のような謝罪メッセージが寄せられたというのです。

「軽率なツイートで不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

「自分なら……という軽い気持ちで、なんとなく書いただけで、批判するつもりはありませんでした」

「ツイート、削除いたしました」

 いずれも、丁寧に謝罪したうえで「安易な気持ちで書き込んだだけ」と弁解していたといいます。

 そして、投稿されていた大半の中傷コメントは、書き込んだ本人によってすみやかに削除、もしくはロックがかけられたそうです。

「謝罪のメッセージを送ってこられた方々には、『あのような書き込みをされると、私のような被害者や遺族が声を上げられなくなるので、これからは気を付けてください』と返信しました。と同時に、今後、自分自身も気をつけないといけないと思いました」(杏梨さん)

刑事裁判の後、メディアの囲み取材に応じる長女・杏梨さん(左)と次女・マリンさん(筆者撮影)
刑事裁判の後、メディアの囲み取材に応じる長女・杏梨さん(左)と次女・マリンさん(筆者撮影)

■「遺族アピール」とはなんなのか?

 しかし、それでも批判的な匿名の書き込みが皆無になったわけではありません。

 上記記事が出てからも、

『遺族アピールをしてるから、このようなことを書かれるんだ』

 といった内容の書き込みも散見されました。

 杏梨さんは語ります。

「『遺族アピール』と言われますが、それをアピールしても得なことはなにもありません。私たちも事故の直後から、事実ではないことを色々コメントされてきました。でも、たとえさまざまな誹謗中傷を受けることになっても、遺族が騒がないと、警察も何にも動いてくれないんです。遺族が名前を出して訴えている意味を、ぜひわかってほしいと思います」

 杏梨さんたちのお父さんは交通事故で亡くなりましたが、事故直後は、お父さんの一方的な過失で起こったと判断されていました。まさに「死人に口なし」の捜査でした。

 しかし、遺族はその理不尽さをメディアに出て訴え、目撃者を募り、加害者の嘘を突き止めたのです(*以下の記事参照)。

●事故死した父の走行ルートが違う! 誤った捜査と報道を覆した家族の執念(2019.6.3)

 杏梨さんが言う通り、遺族が自ら動かなければ、間違いをただすことができなかったでしょう。

記事が出た日に杏梨さんが発信した自身のツイッターより(筆者撮影)
記事が出た日に杏梨さんが発信した自身のツイッターより(筆者撮影)

■善意の応援メッセージに支えられて

「ただ、今回はものすごい数の応援メッセージもいただきました。大半の人がおかしいと感じてくださっていたようです。そして、同じ思いをされた遺族の方、加害者になった人、これから免許を取るという若い子からも真剣なメッセージが届きました。メディアに出て、訴えることで、こういう事故の理不尽さを知ってもらえたことはとてもよかったと思っています」

 この事故の特集が全国ネットのテレビで特集されてから約2週間、遺族には様々な出来事が押し寄せ、傷つくこともありました。事故や事件に遭ってからの、二次被害、三次被害は深刻なものがあります。

 しかし、理不尽な中傷に負けず、毅然と対処したその姿勢はとても立派だったと言えるでしょう。

 しかし、一度傷つけられた心、見えない他者への不信感は、簡単に癒えるわけではありません。

 匿名でSNSにコメントを書き込む人には、当たり前のことではありますが、たとえ軽い気持ちで書いたことであっても、こんなに深く人の心を傷つけることがある……、ということを、ぜひ知っていただきたいと思います。

亡くなった父のために闘った記録が綴られたノート(筆者撮影)
亡くなった父のために闘った記録が綴られたノート(筆者撮影)

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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