韓国の法相任命と日産の社長辞任が同じ日に起きた因縁
フーテン老人世直し録(462)
長月某日
韓国の文在寅大統領は9日、娘の不正入学に絡む疑惑で批判を浴びる側近のチョ・グク氏を法相に任命した。チョ氏は文政権を支える革新勢力の中心的存在で、金大中政権以来革新勢力の悲願である「検察改革」に取り組むことになる。
一方、チョ氏には8月に法相に指名されてから、娘の大学入学を巡る不正や投資ファンドを巡る疑惑が噴出し、そのため野党の厳しい追及と世論の反発に遭ってきた。チョ氏が国会の聴聞会で追及を受けた6日深夜には、検察当局がチョ氏の妻を時効ぎりぎりで在宅起訴に持ち込む異例の捜査を行った。
にもかかわらず大統領がチョ氏の法相任命を強行したことは、文政権の「検察改革」に賭ける並々ならぬ意欲を示すとともに、野党と検察当局との戦いを先鋭化させ、権力闘争の正念場を覚悟したとみることができる。
この一連の騒ぎをなぜか日本のメディアは大々的に報道し、おかげで韓国社会における検察権力がいかに強大で政治的であるかを勉強させてもらった。メディアは文政権の「反日姿勢」がどうなるかにしか興味はないようだが、フーテンは一連の報道から韓国と同じく政治的で強力な日本の「特捜検察」の今後に思いを馳せた。
奇しくも韓国の法相任命が強行された9日、昨年のカルロス・ゴーン逮捕劇を主導した日産自動車の西川広人社長が来週辞任することになった。西川氏は6月に発売された月刊誌で報酬を4700万円上乗せして不正に受け取っていたことを告発され、社内の監視委員会が調査した結果、不正の事実が発覚し、その報告が9日の取締役会に報告された。
6月の株主総会で西川氏をトップとして続投させる人事が承認されたばかりで、後任候補がいる訳でもないが、ゴーン前会長の不正を追及した人間が不正報酬を得ながらトップに君臨するのでは国民の理解を得られず、肝心の企業業績も低迷したままである。辞任しなければ逆にゴーン逮捕の責任を追及される可能性もあると考えたのだろう。
世界を驚かせたあのゴーン逮捕劇は誠に不思議な事件である。ゴーン前会長の不正によって日産自動車の業績が悪化したというのなら、それは取締役会で問題にすべき事柄であり、外部の検察に告発し逮捕してもらう筋合いではない。しかも当時の日産はそれほど業績が低迷していたわけでもなかった。
例えば株価だけで見ると、ゴーン逮捕当日の2018年11月19日の終値は1005円50銭だった。それまで高値は1300円程度、安値でも900円台だったのが、2019年9月9日現在の終値は672円である。事件以降の株価は半値程度下がりし株主にとっては大損失だ。
特捜部は逮捕の日時を朝日新聞社だけに漏らしたのか、朝日新聞1社だけがゴーン前会長の自家用機が羽田空港に着陸し、検事たちが飛行機に乗り込む様子を撮影していた。そして同夜西川社長が一人だけで記者会見を行う。会社に損失を与えた経営者が逮捕されれば、幹部が揃って会見するのが普通である。一人だけというのは異様だった。
尋常でない事件の始まりを見てフーテンは外部の力を感じた。するとフランス政府が日本政府との話し合いを求め、世耕経産大臣が「民間の問題だ」として話し合いを拒む。このやり取りで何が外部の力かが分かった。当事者は絶対に認めないだろうがゴーン逮捕には経産省が関与したのである。
経産省が関与したとなれば官邸が関与したと同意義だ。なぜなら安倍総理を操るのは今井尚哉秘書官であり、彼は経産省出身の官僚だからである。実は日産の経営陣の一角には必ず経産省出身者がいる。そこからフランスのルノーによる日産の子会社化の野望を知り、それを阻止するため検察の力を借りゴーン逮捕計画が練られた可能性がある。
ロッキード事件を捜査する東京地検特捜部を取材した経験のあるフーテンには、検察がどのようなやり口で事件を作り上げ、メディアを使って国民を洗脳していくかをつぶさに見た経験がある。「まさか」と思わせる大胆な逮捕劇をやると、国民は疑うより検察に拍手喝采することを彼らはロッキード事件から学んでいる。
そして国民が拍手喝采すれば、裁判は検察の主張が通る。無罪はありえない。殺人事件など物証が決め手になる事件でなければ、どんなに被告が無実を訴えても有罪判決が覆ることはない。裁判所は検事が作成した調書を信用し検察の描いたストーリー通りの判決を下す。
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