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ドライバーの労働時間短縮へ 秋田から首都圏市場への農産物輸送で集荷・幹線輸送分離の実証実験

森田富士夫物流ジャーナリスト
悩める野菜の長距離トラック輸送(写真:イメージマート)

 トラック運送業界では「2024年問題」という課題を抱えているのをご存じだろうか。

 大型トラックドライバーの年間労働時間は全産業平均より約20%も長く、年間所得額は約7%少ない(厚労省「賃金構造基本統計調査」2020年)。そのためドライバー不足で荷物が運べなくなるのではと懸念されている。その危機を回避するためにはトラックドライバーの労働時間を短縮し、収入も増やす必要がある。

 「2024年問題」は働き方改革関連法で2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限を年960時間にするというもの。一般則ではすでに年720時間になっているが、それでも多くの運送会社では時間外労働時間の上限をクリアするのが厳しい状況にある。

 とくに地方から大都市圏などへの長距離輸送では、ドライバーは長時間労働を余儀なくされている。その一つに農産物輸送がある。青果物は収穫から市場のセリまでの時間が限られているため、ドライバーの労働時間を短縮するには輸送の仕組みを再考する必要がある。

 そこで「秋田の未来の物流を考える協議会(以下は協議会)」では、県のJAグループの協力を得て昨年11月7日(日)~13日(土)に、県南部に中継基地を設けて集荷と幹線輸送を分離することで幹線輸送ドライバーの労働時間を短縮する実証実験を行った。

 協議会はトラック運送事業者だけでなく、陸海空の運輸企業(地元支社)、県倉庫協会、全農県本部、県商工会議所連合会、県内の各業種の業界団体、秋田県の関連部署、国交省の地元運輸支局や港湾事務所などで構成されている。いわば物流に関係するオール秋田に近いメンバーだ。

 秋田県は人口減少が進み、物流市場の縮小も危惧されている。そのような中でトラック運送業界は深刻なドライバー不足にある。秋田県トラック協会が2020年1月に会員を対象に行ったアンケート調査(n=278)によると、ドライバーが「不足している」37.8%、「今は足りているが、今後足りなくなる」39.6%という結果になった。

 一方、秋田県が県内の荷主企業に行った調査(n=141)では、物流従事者の人手不足感は「現在ある」35.5%、「今後あるだろう」63.8%だった。

 そのような中でサスティナブルな物流を構築していくにはどうすべきか。物流関係者だけではなく、県レベルで考えなければならない重要課題という共通認識が必要だ。

葉物野菜などは収穫から大都市の市場までの輸送時間が限られ、ドライバーの労働時間短縮には輸送方法の再検討が必要に

 青果物は九州から首都圏市場には3日目販売(関西市場は2日目販売)、東北から首都圏市場は2日目販売が一般的だ。東北6県の各中央卸売市場から東京・大田市場までの距離をみると青森県が731キロメートルで一番長く、次いで秋田県の552キロメートルとなっている(東北自動車道経由)。労働時間短縮には、1人のドライバーで運ぶのではなく、中継輸送などの仕組みを導入しなければ難しい。

 実証実験では、①ドライバーの時短のために集荷と幹線輸送を分離し、県南の拠点で積み替えて輸送、②市場別のバラバラな集荷から、集荷ルートの見直しや集荷車両の最適化を図る、③電話やFAXで行っている配送指示などの情報伝達をデジタル化する、などに取り組んだ。

 現在は1人のドライバーが3~5カ所の集荷所をめぐって納品先の市場別に集荷し、そのまま幹線輸送して首都圏の複数の市場に運んでいるために労働時間が長い。また、同じ集荷所に何台ものトラックが集荷に来るという非効率な状態だ。

 ドライバーAさんは始業時間が7時30分で、おばこ→畑屋→大森→平鹿→十文字→県南園芸センターと集荷し、13時45分に関東に向けて出発。Bさんは7時20分の始業で、こまち→県南センター→十文字→自社ターミナルで最終集荷をし、12時30分に関東に向けて出発。Cさんは7時30分の始業で、おばこ作業所→大雄→境町→十文字→県南園芸センターと集荷し、12時20分に関東に向けて出発。その他、様々な集荷パターンがある。

 また、この3パターンだけをみても、3人のドライバーが十文字の集荷所に寄って集荷している。輸送先の市場別に集荷するので、同じ集荷所に何台ものトラックが集荷に訪れている。集荷所からすると出荷作業が煩雑になるので非効率だ。

集荷分離で幹線輸送は2時間超の短縮だが、集荷作業を加えるとトータル時間は増加しコスト削減も課題に

 実証実験では集荷車両と幹線車両を分離。県南園芸センターに積み替え拠点を設け、集荷車両は出荷先の市場に関係なく、1つの集荷所から出荷される青果物をまとめて集荷する。集荷した青果物は拠点に運び、輸送先の市場別に仕分けて幹線車両に積み込む。

 集荷と幹線輸送の分離で幹線ドライバーの労働時間は、従来の平均15時間18分から、平均13時間07分になった。2時間11分(14.3%)の短縮だ。

 県南の拠点で、集荷してきた青果物を納品先の市場別に仕分けて幹線車両に積み込む作業は平均53分だった。この作業は幹線輸送のドライバーも手伝うが、その時間も含めた幹線輸送のドライバーの労働時間が平均13時間07分である。

 長距離輸送ドライバーの労働時間短縮という点に限れば、実証実験の結果は目的が達成できることを証明した。

 だが実証実験では集荷専用車両と集荷のドライバーを投入しており、集荷便の平均時間は3時間49分だった。幹線輸送と合わせるとトータル時間は平均16時間56分になってしまう。現行の平均15時間18分より1時間38分ほど長い。

 また、実証実験前の1週間と実験中の1週間における輸送コストの比較も行った。実験前の1週間のコストは597万1014円。実験中の1週間の費用は688万9600円である。集荷、幹線分離の仕組みを実際に導入するにはコスト削減が大きな課題になる。だが、報告書ではコスト削減の余地はあるとしている。詳細は省くが、コスト削減の具体的な諸々の方策を実施すれば、1週間のコスト計を564万8430円にでき、現在の597万1014円より32万2584円の削減が見込まれるという。

 コスト削減策の中でも大きな課題の一つは、納品先の市場における待機時間の問題だ。なかには長時間待機が半ば常態化している市場もある。市場での待機時間をすべて15分以内に短縮できれば、1週間で3万1230円(ドライバーの時給を1800円で換算)のコスト削減余地があるとしている。

サスティナブルな物流の構築には生産者から消費者までの理解と協力が必要、今後も継続して課題解決に取り組む

 実験を通して今後の課題も見えてきた。今後の課題としては以下の9つを挙げている。①幹線便の運行台数見直し、②勤務開始時間の調整、③サービス運行している集荷便廃止、④ハブ拠点の作業時間削減、⑤市場での待機時間削減、⑥市場から空パレット回収、⑦各JAの作業コスト削減、⑧段ボールサイズやパレット規格の見直し、⑨商品設計(等級数)の見直し、である。

 これらの課題が解決できれば、ドライバーの1週間の総労働時間を22.9%短縮できる。幹線便ドライバーの1時間当たりの売上も1.3倍に増加するという。

 さらに今後の提言として、①積載率向上のための仕組みの構築、②取り組み効果の公平な分配の仕組みの構築、③JA同士の協力体制構築、の3点を提示した。

 秋田県の経済において農業は大きなウエイトを占めている。県トラック協会の会員を見ても、元請事業者と実運送事業者を合わせると、会員410社のうちの約3分の1は何らかの形で農産物輸送に携わっていると推定される。

 そのようなことから、実証実験の結果を踏まえてさらに諸課題の解決に向けて取り組んでいく。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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