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メディアが伝えない「倒産件数」の真実

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
倒産は減っているというが、実質的には増えている(写真:ロイター/アフロ)

倒産は減っているというが、実質的な倒産は大幅に増えている

 東京商工リサーチによれば、2018年の企業倒産件数は前年比2%減の8235件となり、1990年以来28年ぶりの低水準になっています。倒産の減少は2009年から10年連続で続いていて、この数字だけを見ていると景気が順調に回復しているように誤解してしまう人もいるかもしれません。

 ところが現状はどうかというと、厳しい経営環境に追い込まれている中小零細企業の実質的な倒産は、依然として全国各地で広がっています。倒産件数が数字として表しているのは、会社更生法に基づいて裁判所が関わって法的に整理した件数だけが反映されているからです。債権者と債務者が合意して進める私的な整理や、経営者が夜逃げなどをして行方不明になってしまった事例などは、倒産件数には含まれていないのです。

倒産件数が増えているのか、減っているのか、それを見極める方法とは

 企業の倒産件数を見るうえで注意しなければならないのは、表面的な数字を表している倒産件数だけで判断してはいけないということです。実情をよく理解するためには、「倒産件数」と「休廃業・解散件数」を合計した数字を見るのが適当であると思われます。もちろん、休廃業・解散件数のなかには後継者がいないための休廃業・解散もあるのですが、そのほとんどが赤字で事業継続が不可能なために休廃業・解散しているという事実があるからです。

 まずそこで、「倒産件数」と「休廃業・解散件数」の推移を別々に見てみると、倒産件数が2013年の1万855件から2018年の8235件へと5年間で24%減少したのに対して、休廃業・解散件数は2013年の3万4800件から2018年の4万6724件へと34.2%も増加しています。そのなかで特徴的なのは、2013年の休廃業・解散件数は倒産件数の3.2倍だったのですが、2018年は5.7倍と全体に占める比率が飛躍的に高まってきているということです。これは、企業の実質的な倒産が法的整理から私的整理などへ移っていることを表しています。

多くの企業が倒産件数に反映されない「私的整理」を選ぶ理由とは

 経営が苦しくなった企業の多くが法的整理を選ばない理由には、私的整理では企業名や経営者名が公表されることがないというメリット、債権者を公平に扱う必要がないというメリットなどがあります。それに加えて、法的整理には裁判所への申立手数料や弁護士の費用など数百万円のお金が必要になりますが、そのようなお金さえ残っていない企業が増えているのです。

 そのうえで、実状を表している「倒産件数と休廃業・解散件数の合計」の推移も見てみると、2013年が4万5655件だったのに対して、2018年は5万4959件へと20.4%も増加していることが明らかになります。倒産件数の推移だけを見ていると、経営環境の厳しさから事業の継続を断念する中小零細企業が依然として増えていることが見逃されてしまうというわけです。

今の日本には、データが正確でない統計が蔓延している

 休廃業・解散する企業がなかなか減らない背景には、金融庁が2014年から銀行に対し、中小企業の転廃業を促す方針に転換したという事情があります。経営難の中小零細企業がスムーズに転廃業できるように、経営者は地域経済活性化支援機構を活用し、銀行に債務免除を申請できるように仕組みが変わっているのです。その結果として、転業よりも廃業する企業のほうが断然多いという事実が明らかになり、中小零細企業の厳しい境遇が浮き彫りになってきているわけなのです。

 このように倒産件数が実状に合っていないことを考えると、倒産件数の定義を変えて、私的整理の推計値も含めて集計するのが正しい方法なのではないでしょうか。今の日本にはデータの正確性が担保できない統計が蔓延していますが、そういった統計をもとに経済政策や金融政策が決められている現状は非常に危ういと思っております。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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