巨大テック企業レイオフの衝撃 成長ではなく膨張路線に進んだ3つの理由
■巨大テック企業がまさかの人員削減!
「まさかアマゾンや、セールスフォースがレイオフするなんて……」
世界中の誰もがそう受け止めたに違いない。アマゾンが公表した1万8000人の人員削減数が全従業員の約1%。セールスフォースにいたっては10%に相当する、というのだから。
ツイッターやネットフリックスなど、巨大テック企業に限ったことではない。事業を急拡大させたせいで、レイオフに踏み切らざるを得ないスタートアップ企業は日本でも増えている。
では、なぜ企業は膨張路線をたどってしまうのか?
今回は、企業が成長ではなく膨張路線に進んでしまう3つの理由について解説する。健全に組織を成長させる2つの重要ポイントも知ることができるので、ぜひ最後まで読んでいただきたい。
■組織が不健全に膨張してしまう3つの理由
急拡大を続けた企業が、成長ではなく膨張路線を歩んでしまうケースがある。膨張とは、内容を伴わずに見た目や数字が大きくなること。だから当然、副作用がある。
では、なぜ企業は膨張路線に進んでしまうのか。理由は3つある。
①早期に経営の仕組みを完成させる
②育成より採用を優先する
③不本意に採用基準を下げる
とくに昨今は①の影響が大きいだろう。一つ一つ解説していく。
■理由①早期に経営の仕組みを完成させる
まず①について解説する。
以前は情報やノウハウが足りず、経営陣は手探りで組織運営を考えたものだ。
松下幸之助が唱えた「衆知経営」がわかりやすい。社員全員の知恵を集めることで、会社は発展すると言われた。
しかし現在はどうか?
どんな高度なノウハウや仕組みも、タダ同然で手に入る時代になった。データを活かすことでマーケティングの精度は上がった。事業を急拡大させる難易度は以前と比べ、格段に低くなった。
そのせいで、センスのいい経営者と、敏腕の外部ブレーンが数名いるだけで、経営、人事、労務、製造、情報管理など、あらゆる仕組みを一気にそろえることができる。
全社員の知恵を集めることなく、早期に高度な経営の仕組みを完成させてしまうことができるのだ。
組織を急拡大させるには、よい時代になった。しかしその分、組織を大きくするうえで普通はぶち当たる壁に遭遇しなくなる。
あたかもメルカリで古着を出品するかのように、新たにジョインしたメンバーは試行錯誤することなく、スムーズに仕事に専念できるようになった。
仕組みの完成度が高いゆえに、人が育ちにくい環境が出来上がっているとも言えるだろう。
■理由②育成より採用を優先する
次に②の理由――「育成より採用を優先する」についてだ。
成長ではなく膨張する組織は、現在の社員が育つ前から人を採用してしまう。
野球部にたとえると、まだ先輩部員が試合に出られる状態でもないのに、新入部員が入ってくるイメージだ。
試合に出たこともないような先輩が後輩を指導するのだから、いっこうに育たない。そうこうしているうちに、また新入部員が入ってくる。これでは、とても強いチームを作ることができない。
しかも企業における人材育成は計画通りにはいかないもの。
したがって(特に成長ステージの場合)採用計画も逆算して考えると、未成熟な組織にドンドン人が流れ込んでくることになる。この結果、いつまでたっても組織が育たないのだ。
■理由③不本意に採用基準を下げる
最後に③の理由――不本意に採用基準を下げる。最悪なのがコレだ。
猛スピードで事業が拡大していくと、倍々ゲームで人を増やそうとする風潮が出てくる。
10人 → 20人 → 40人 → 80人 → 160人……
極端だが、これぐらいの猛スピードで人を増やそうとする。すると当然「採用ノルマ」がきつくなり、採用基準を下げることになる。
名著『ビジョナリー・カンパニー』シリーズに記されている通り、
「誰をバスに乗せるのか?」
この見極めを間違えては、衰退の一途をたどるだろう。
事業が急拡大しているとついつい感覚が麻痺し、バスに乗せてはいけない人まで乗客として招き入れてしまう。最悪の手である。
■健全に組織を成長させる2つの重要ポイント
以上3つの理由で、企業は膨張路線に進んでしまう。
とりわけ高度情報化時代を迎え、①の理由により、ますます膨張企業は増えていくだろう。
それほど市場価値の高い人材でなくても、経営の仕組みによって価値高い仕事ができてしまうからだ。
では、どうすればいいか?
健全に組織を成長させる重要ポイントは2つある。
①採用基準をアップデートし続ける
②人が育ってから採用する
まずは①採用基準だ。
常に採用基準をアップデートし続けよう。
「誰をバスに乗せるのか?」
という問いかけが重要だ。明確な答えはないのだから、外部環境、内部環境の分析をしながら問いかけ続けること。それしかない。
コンピテンシー(成果を出すための行動特性)を中心に、見極める力を常に磨いていく必要がある。経験やスキル、知識に惑わされてはいけない。
次に②だ。計画通りにいかなくても、人が育ってから採用することを基本方針とすべきだ。
そのためにも、仕事をこなせるからといって、人が育ったと勘違いしないこと。
外部機関によるトレーニング、客観的に計測できるテスト等を繰り返す。厳しく育てることだ。そうしないと仕事ができる人に仕事が集中し、結果的に組織のエンゲージメントは下がることになる。
■膨張企業はなぜ「悩み」で溢れかえるのか?
アマゾンやセールスフォースのような巨大企業にはなれなくても、昔と比べて容易に事業を急拡大させられる時代になった。
しかし10年、20年と安定する企業にしたいなら、膨張ではなく成長路線を歩むべきだ。そのときに気を付けるべきポイントは採用と育成である。この順番と基準を間違えてはならない。
組織リーダーの悩みは、いつの時代も「部下育成」。ドンドン人を採用したら、組織は悩みで溢れかえってしまう。