米軍、あるいはイスラエル軍がシリアの民生用の国境通行所をドローンで攻撃
ウクライナで苦戦を強いられているロシア軍による都市部へのミサイルや自爆型ドローン(カミカゼ・ドローン)による攻撃が非難を浴びてから1ヵ月が経とうとしているが、中東のシリアでもドローンによる大規模な爆撃が行われた。
米国のドローンによる爆撃か?
シリア政府に近いスーマリーヤ・テレビによると、政府の支配下にあるダイル・ザウル県ブーカマール市の近郊で11月9日晩、所属不明の無人航空機(ドローン)の攻撃によると思われる大きな爆発が複数回発生した。爆発は、レバノンに向かおうとしていたイランの石油トレーラーの車列がイラクからシリア領内に入った直後に発生し、25人が死亡、多数が負傷したと伝えられた。
この爆発に関して、イランのプレスTVは翌10日、爆撃によるものだと断じたうえで、燃料を積んでいたトレーラー22輌がイラクからシリア領内に入ったところを狙われたと伝えた。そのうえで、爆撃が米軍所属のドローンによるものだと疑った。
反体制系のナフル・メディアはより詳細に伝えた。それによると、所属不明のドローン複数機が9日午後11時45分頃、イラクのアンバール県カーイム市とシリアのブーカマール市を結ぶ国境通行所(ブーカマール・カーイム国境通行所)近くを爆撃した。爆撃は9回にわたって行われ、ブーカマール市近くに設置されている「イランの軍事ゲート」がまず3回、続いて4回狙われたのち、レバノンのヒズブッラーの車輌複数輌の護衛を受けていた石油トレーラーと貨物トレーラーからなる車列が2回の攻撃を受けた。トレーラーの積み荷は不明だという。
ナフル・メディアはまた、カーイム市で撮影された、シリア領内に入る直前の車列の映像を公開した。
イスラエルの関与を指摘する米雑誌
米国が爆撃を疑われるなか、米『ウォール・ストリート・ジャーナル』雑誌は10日、イスラエル軍がイラン製の武器を密輸しようとしていた車列を狙って行ったと伝えた。
同誌によると、この爆撃で、イラン・イスラーム革命防衛隊とつながりがある民兵のメンバー少なくとも10人が死亡、車輌複数輌が破壊され、死者のなかにはイラン人も含まれているとされた。
なお、英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、ブーカマール・カーイム国境通行所は、爆撃を受けて一時閉鎖されたが、10日に再開された。
黙殺は侮蔑
ウクライナの都市部に対するロシア軍の攻撃とは異なり、シリア国境地帯に対するドローン攻撃は誰が行ったのかは判然としない。米国もイスラエルも今のところ関与を認めてはいないからだ(ちなみに、「イランの民兵」側も死者が出たことを認めてはいない)。
だが、ブーカマール・カーイム国境通行所は、ユーフラテス川西岸に「イランの民兵」が設置している通行所や、米軍がハサカ県に違法に設置しているワリード国境通行所とは異なり民生施設である。それに対する爆撃は、たとえ「イランの民兵」の活動を抑止し、イスラエル(ひいては西側諸国)の安全保障を守るといった理由によって正当化されようとも、民間人を巻き込みかねない無差別攻撃とみなされるものである。そして、この評価は、米軍が関与していようが、イスラエル軍が関与していようが変わるものでない。
にもかかわらず、毎度のように、中東で行われているこうした行為が、ウクライナ侵攻でのロシアの蛮行のように大きく取り上げられることはない。だが、黙殺の理由が、「中東だから」、「あるいはシリアだから」、あるいは「イスラーム世界だから」であるとするなら、それはこれらの地域、国、宗教に対する侮蔑以外の何ものでない。