皇帝をも魅了する、ほとんどの日本人が飲んだことがない古樹茶とは?
古樹茶
古樹茶という言葉を聞いたことがありますか。もしくは、古樹茶を飲んだことがありますか。
古樹茶を飲んだことがあるとすれば、それは非常に貴重な体験です。
何故ならば、古樹茶とは、古い茶樹の茶葉から作られたお茶のことであり、栄養価や効能が高く、非常に高価で希少なお茶だからです。
ヴィエイユ・ヴィーニュ
古樹から作られる飲み物と聞いて、ワインを思い浮かべる人も多いでしょう。
フランス語で「樹齢の高いぶどうの木」を意味する「ヴィエイユ・ヴィーニュ(Vieille Vignes)」のブドウから作られたワインは質が高いと言われています。
樹齢が長くなればなるほど、ブドウの数が減り、それによってそれぞれのブドウにたっぷりと栄養が行き渡るようになるからです。
そして、フランスではおよそ樹齢30年以上の古樹から作られたワインに「Vieille Vignes」が表記されます。
古樹茶は樹齢300年以上
樹齢30年以上でも古いと感じられますが、古樹茶はヴィエイユ・ヴィーニュの実に10倍もの長さになる樹齢300年以上の古樹から作られます。
300年以上とは想像を超えたような長い期間でしょう。これだけの古樹から作られるお茶なので供給量が少なく、日本ではほとんど飲む機会がありません。
古樹茶を飲んだことがある日本人が少ないため、日本では残念ながら、古樹茶の効能や価値、いえ、そもそもその存在があまり知られていないのです。
コンラッド東京「チャイナブルー」で行われる「茶宴」
そういった状況の中で、この幻とも言える古樹茶を、古樹茶を使ったモダンな中国料理と共に、ペアリングで楽しむことができ、しかも、古樹茶のレクチャーまで受けられるランチコースが始まります。
それは食のコンラッド東京 レストラン・ソムリエ人事の真相でも紹介したコンラッド東京「チャイナブルー」で行われる「茶宴」です。
季節毎の開催
「茶宴」は3月、6月、9月、12月と季節毎に、それぞれ1日と15日のランチタイムに行われ、1回につき14人の限られたものです。
「チャイナブルー」料理長アルバート・ツェ氏が古樹茶を使った料理を作り、古樹茶の啓蒙活動を行う漫漫茶庵の古樹茶コンシェルジュである森谷洋子氏が講師を務めます。
ラグジュアリーホテルがひしめく東京にあってさえ、他に古樹茶を扱うホテルはありません。
味が濃厚
ここで改めて古樹茶についてご説明します。
中国では古樹は大体200年以上と言われていますが、古樹茶では300年以上の古樹が使われています。この古樹茶の古樹は、古茶樹と呼ばれます。
古茶樹は長い年月をかけて地中深くに根を張り、養分をたっぷりと吸収しているので、栄養価が高くなっているのです。
その土地の特徴をよく反映しており、ワインにおけるテロワールのような要素を持っています。
茶葉は匂いがほとんどないので、他の茶葉とは違って、嗅いでも香りが分かりません。そのままでは香りはありませんが、お湯を注いだ途端にしっかりとした香りがたつのが特徴です。
通常、中国茶は3グラムで0.15リットルのお茶を淹れられますが、古樹茶の場合には3グラムで3リットルものお茶を淹れることができます。
また、水が注がれたグラスに古樹茶をたった1滴垂らしただけで、味わいが全く変わってしまうほど強い味わいと風味、香りを持っているのです。
無農薬でヘルシー
古茶樹は薬を散布すると枯れてしまうため、無農薬となっています。人体に悪い影響のある化学物質は一切含まれていないので、健康に気を遣う人も全く気にしなくてよいでしょう。
通常の茶樹は機械を使って茶葉を摘みますが、古茶樹は高いところにあって機械を入れることができないため、木登りして茶葉を手で摘みます。
ただでさえ少ない古茶樹を手摘みしていれば、生産量が僅少となることは想像に難くありません。
開催の経緯
古樹茶の特徴が分かったところで話を戻します。
コンラッド東京「チャイナブルー」では、どうして古樹茶のフェアが開催されることになったのでしょうか。
「チャイナブルー」はコンラッド東京の開業と同時にオープンしたレストランで、2017年7月1日で12年が経ちます。
2年前の2015年、コンラッド東京10周年記念の時に、当時の料飲部長が水に古樹茶を1滴加えると味わいが全く変わることに感嘆し、2016年7月初旬から始まった「チャイナブルー・アフタヌーンティー」で、漫漫茶庵が茶葉の選定を行うようになったことが、両者が関わりを持つきっかけでした。
そのティーセレクションからさらに発展し、古樹茶を中心にしたフェアはどうかと話が持ち上がりました。古樹茶をただ飲んでもらうだけではなく、料理に使って食べてもらったり、レクチャーも行って知識を育んでもらったりと、古樹茶のことを深く理解してもらう機会を設けるのがよいのではないかとなったのです。
古樹茶の主な生産地である雲南省では、食べた後の茶葉が料理に使われていることからも分かるように、古樹茶は全て食べられます。加えて、中国の宮廷料理にもプーアル茶のコースがあったことを鑑みれば、古樹茶を料理に使うことは全く自然なことなのです。
季節に合わせた内容
3月、6月、9月、12月と季節毎の開催となっていますが、これな何故でしょうか。
古樹茶も実に様々なものがあり、その季節によってどの古樹茶がよいか変わってきます。そのため、季節毎に開催することになったのです。
もちろん、料理もその古樹茶に合わせて、旬の食材と合わせるようにしています。
具体的には、その季節に相応しい茶葉を選び出し、その中からアルバート氏がその季節の食材に合う茶葉を選んで料理を作っています。
コースの構成
アルバート氏は「軽いものの次は重いものと言うように、料理もお茶もメリハリを効かせてコースを構成している」と説明し、森谷氏は「古樹茶はその土地の特徴が強く現れるので、同じ茶山は3つまでにしている」と茶葉にもバランスが大切であると話します。
また、森谷氏は「古樹茶の効能で胃腸が元気になり、食べている間から消化するので、胃もたれもしない」と古樹茶は料理によく合うとし、「3月は全てが動き出す時期なので体を養生する古樹茶を、6月は夏バテ防止のために体を冷やしながらも内臓は温める古樹茶を考えている」と次の開催に向けた考えを披瀝します。
皇帝をも魅了
日本には樹齢100年以上の古樹からとれるお茶ですらほとんどないだけに、樹齢300年以上の古樹茶を飲んだり食べたりできるのは非常に貴重なことです。
古樹茶の価値は年々高まっており、中国はもとより、台湾や香港でもその価値は高まってきて、投資ファンドも力を入れています。
今回提供されている古樹茶の中に「月光美人」がありますが、これは雲南省の迷帝茶区でとれるもので、「迷帝」は「皇帝をも魅了する」という意味があります。
映画「ラストエンペラー」で有名な中国最後の皇帝である康徳帝・愛新覚羅溥儀が没した1967年からちょうど50年を経た今、皇帝たちを魅了してきた古樹茶が、遥か3700キロ程度も離れたこの東京で飲めるのは、私には全くの幸運であるとしか思えません。