いざという時のために 今見直したい子どもを守る地震への備え
13日夜遅く、福島県沖を震源として起こったマグニチュード7.3の地震は、福島と宮城での震度6強をはじめ、各地で激しい揺れをもたらしました。
福島県沖では、その後も地震が相次いでいるとのことで、気象庁は、今後1週間程度は最大震度6強程度の揺れを伴う地震に注意するよう呼びかけています。
小さなお子さんがいるご家庭など、災害への備えに戸惑う方もいらっしゃることでしょう。そこで今回はお子さんの背景ごとに、災害への備えについてまとめてみました。
なお、記事作成においては、アウトドア防災ガイドで、教えて!ドクターチームでも防災の監修を担当されているあんどうりすさんにも多大なるご協力をいただきました。
全てのお子さんがいるご家庭で共通する備え
1.母子手帳の写しを取っておく
母子手帳には、予防接種歴や成長発達の記録がぎゅっと詰まっています。避難時に持ち出せればベストですが、急いで避難するときなど、それができない場合もあります。あらかじめスマホで写真を撮っておく(スマホに関しては停電に備えて充電器の確保も忘れずに)とよいでしょう。停電に備えて紙のコピーもあるとよいかもしれません。小児科医の立場からは、特に「出産の状態」「乳幼児発育曲線」「予防接種の記録」のページの写しを取っておくことをお勧めします。
喘息やてんかんなどの慢性疾患のあるお子さんの場合、災害時に普段のクリニックを受診できないこともありますので、お薬手帳をいつものカバンや災害時一時的に持ち出すカバンに入れておくとよいでしょう。
2.コロナ禍での避難のしかた
現在新型コロナウイルス感染症の影響で、強力な感染症対策が取られています。
感染症対策下においては、分散避難が原則です。すなわち、安全な場所にいる人まで避難所に行く必要はないこと、また親戚や知人宅など安全な場所への避難も検討します。一方で、コロナ禍が収束していなくても、危険な場所にいる人は避難が原則です。内閣府がまとめた「災害時の避難 5つのポイント」が参考になります。
3.自宅避難で起りやすいトラブルとは
自宅避難を選択する際に起りやすい子どものトラブルについてご紹介します。
それは、断然「やけどや溺水などの家庭内の事故」です。
家庭内で起こりやすい子どもの事故については、小児科学会が「子どもの事故と対策」にまとめていますのでご確認ください。
例を挙げると、子どもは溺れるときは声を出さず(物音を立てず)気づかないことが多いので浴室のお湯は抜いておく、ドラム式洗濯機に閉じ込められて窒息死した例があるので必ずチャイルドロックしておく、ベランダからの転落例(暖かい季節になると増えます)があるので、ベランダでは足場になる物を置かない、などです。
4.子ども自身が防災準備に参加する
災害に備える準備は、保護者が中心になって行うことになりますが、小学生以上のお子さんがいらっしゃる場合には、可能なら「子どもも準備に参加する」とよいです。
子どもに準備を手伝ってもらう過程で、何故その物品が必要なのか子ども自身が理解できれば、災害が起きたときに物品の場所を子ども自身も把握でき、納得して行動できます。
また、テントを持っているご家庭では「家の中にテントを張ってみる」ことで、避難生活をイメージさせたり、「家の中を真っ暗にしてみる」ことで停電になったらどうすればいいのか、考えてもらうのもいいでしょう。子どもにとってはちょっとした遊びになるので喜んで参加してくれるかと思いますが、そのような経験はいざというときの予行演習としても役立ちます。
5.断水の際の子どものケアについて
昨日から随時停電は復旧しているようですが、断水が続いているご家庭はまだまだあるようです。そこで、少量のお湯で皮膚をきれいにする方法を私達「教えて!ドクタープロジェクト」の資料からご紹介します。
断水していないご家庭では、来たるべき断水への備えも必要です。
最近は、「災害に備えてお風呂に水を貯める」よう指導されていることも多いです。
しかし、お子さんのいる家庭では、お風呂に水を貯めることは溺水のリスクがあることを知っておいてください。
1)ペットボトルに水道水を詰めておく等の対応を
「浴槽の貯水」の代わりに、ペットボトルやタンクに水を詰めておきましょう。
2)子どものおしり拭きをたくさん備蓄
「おしり拭き」は災害時に体を拭いたり、身の回りの汚れ落としに使えるなど、マルチに活躍する便利グッズです。
赤ちゃんのいるご家庭での備え
授乳が必要な赤ちゃんは、避難する場合にはいろいろな物品の準備が必要です。チェックリストでご紹介します(※2)。
また、災害時の授乳については、母乳栄養児、ミルク栄養児でそれぞれ注意点があります。詳細は我々のフライヤーにて紹介していますのでご参考にされてください。
医療的ケア児の災害への備え
在宅医療の患者さんにとっても、事前の準備は大切です(※3)。いざというときにはヘルプカードがあると便利です。これは家族の連絡先、疾患名、お薬情報、薬の保管方法、緊急時の配慮を記したカードで、お子さんの病気を理解してもらうためのものです。
人工呼吸器や吸引器などを使用している場合は電源の確保が課題になります。いつもと同じ時間で病院までたどり着けるとは限りません。機器の内部バッテリーも経年劣化しますので予備のバッテリーがあると良いでしょう。停電が続く中で自宅に留まる場合には発電機の準備が必要です。カセットボンベタイプなどもありますが、発電機は一酸化炭素を排出しますので、カセットコンロのように屋内では絶対に使用しないようご注意ください。屋外であっても、換気のよい場所で使用する必要があります。なお、ハイブリッド自動車や電気自動車にケーブルをつけて発電する方法もあります。事前に発電機の使い方をチェックしておきましょう。
在宅人工呼吸器を使用されている方は、いざというときのためにアンビューバッグの使い方に慣れておくとよいでしょう。吸引器を使う方は電気を使わない足踏み式などの吸引器を1台用意しておくと安心です。
照明については、ろうそくは余震が来た時に倒れる危険があるため使ってはいけません。濃縮酸素を使っている場合、ろうそくは引火のリスクもあります。その点、LEDライトがあると、熱くならないので酸素ボンベの近くにおいても安全ですし、ヘッドライトがあると両手も使えるため何かと便利です。
また、今回のような揺れの大きな地震に備え、医療器具のキャスターは普段から必ず固定をお願いします。また、ベッド付近に多くの医療器具を置いているご家庭も多いですが、ベッドなどの家具も揺れで移動する可能性がありますので、家具も必ず固定をお勧めします。
機材の準備だけでなく、電力会社や在宅酸素取扱会社、医療機関と平時から相談を重ね、患者家族同士でSNSグループの活用なども考えておきましょう。また災害時には電話が通じないときもあるので、来院方法を事前にかかりつけ医と相談しておきましょう。
ところで、医療的ケア児の普段のお出かけは災害時に備えるトレーニングにもなると、先日在宅医療の先生に教えていただきました。とても大事なことだと思います。災害準備は特別なものと思いがちですが、実はそうではありません。日常でよく使うものを活用する等、「普段の延長」で準備する視点を大切にしたいと思います。
アレルギー等慢性疾患のあるお子さんの災害への備え
日本小児アレルギー学会は災害時の子どものアレルギー疾患対応パンフレットを出していますので、その内容の一部をご紹介いたします(※4)。
まずは喘息のお子さんの場合です。災害時でも発作予防は大切ですし、環境が悪くなると発作も出やすいため発作予防の薬と発作時の薬を1週間分準備しておくとよいでしょう。
アトピー性皮膚炎のお子さんの場合、災害時には皮膚炎が悪化しやすいため、普段使っていなくてもステロイド入りの塗り薬や保湿薬の準備も大切です。石けんやビニール袋を用意しておくと、水と石けんを袋に入れて振ることで体を洗う泡を作ることができます。
食物アレルギーのお子さんの場合、アレルギー症状が出たときの緊急薬をあらかじめ準備してすぐ持ち出せる場所に置いておきましょう。症状が出たときの対応も主治医に確認しておくと安心です。
なお、避難所ではアレルギー児の保護者の皆さんは「こんな時にわがままを言っているんじゃないか」「非常時なのに甘えている」と思われるんじゃないかと気にされ、「白米は食べられるからアレルギーがあるって言わないでもいいか」と遠慮されたというお話も聞いたことがあります。アレルギーは決して甘えではありません。子どもを守るためにも堂々と対策を取っていただければと思います。また避難所運営側も、「アレルギーのある方は注意してください」という書き方よりも、「アレルギーのある方は遠慮なく声をかけてください」という案内にしていただければと思います。
発達障がいのあるお子さんの災害への備え
災害時には、普段の生活と大きく環境が変わり、おとなにとっても避難はストレスがかかるものです。発達障がいのあるお子さんは、変化に対応することが周囲のお子さんよりも苦手なことが少なくありません。このような場合、伝え方や接し方を工夫することで本人のストレスを軽減することができます。例えば絵や写真を用いたり、ノートに書いて「見える化」して伝えることです。ガムテープなどを使って自分が過ごしていい場所を明確にするなどの工夫も有効なことがあります。
これらに備えるための事前準備リストがこちらです。あらかじめ用意しておくとよいでしょう。
ここまで様々なお子さんの背景ごとに災害に備える準備のお話をしました。
なお、今回の内容も含め、私達の「教えて!ドクタープロジェクト」では、乳幼児の災害対策について、フライヤーを何枚か制作してウェブサイトにまとめています。改変や商用目的でなければ印刷や配布は自由にしていただいて構いません。また、これらの災害情報を含め、子どもの病気の目安やホームケアについての情報をすぐに得られる無料アプリもあります。手軽にぜひご活用ください。
今回の地震が10年前の東日本大震災の余震であると知り、改めて10年前の大震災の恐ろしさを思い出しています。まだまだ余震が続く可能性があります。
東北をはじめ、被害に遭われた方にお見舞い申し上げるとともに、次なる被害がないこと、あったとしても少しでも小さいことを心より願っています。
参考文献
(※1)日本新生児成育医学会「被災地の避難所などで生活する赤ちゃんのためのQ&A」
(※2)平成27年度厚労科研(研究代表者:吉田穂波)「赤ちゃんとママを守る防災ノート」より一部改変して引用
(※3)日本小児科学会災害対策委員会:医療が必要な子どもたちの防災(https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/iryohitsuyo_na_bosaitaisaku.pdf)
(※4)日本小児アレルギー学会:災害時の子どものアレルギー疾患対応パンフレット(改訂版)(https://www.jspaci.jp/assets/documents/saigai_pamphlet.pdf)