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森保ジャパンは3-4-2-1にこだわるべきか? ザッケローニの失敗という轍

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:つのだよしお/アフロ)

 火蓋を切ったW杯アジア最終予選、森保ジャパンは中国、バーレーンとの2試合で12得点無失点。連勝を飾り、圧倒的な強さだ。

 3−4−2−1というシステムが功を奏しているのはあるだろう。

 機動力に優れ、攻撃的な能力が高い選手が多い日本にとって、攻めを分厚くする戦い方はフィットしている。前線の3人、プラス両ワイドの2人、さらにボランチのいずれかがゴール近くに入るだけに、攻めのバリエーションが増える。押し込んでいる場合、優勢を守備にも活用でき、インターセプトからショートカウンターを発動。波状攻撃を可能にできる形で、昨シーズン、ブンデスリーガで史上初の無敗優勝を遂げたレバークーゼンに近いか。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/3f8f872315db304bb2078e5930478a4800a1184e

 そもそも、こうした戦い方をもっと早く選択すべきった。日本の面子を考えたら、ボールを持って敵陣で戦う時間を増やすしか、強豪を打ち破る確率は上がらない。カタールW杯のような“弱者の兵法”では偶然性に頼らざるを得ず、限界があるからだ。

 ただ、システムやメンバーにこだわるべきではない。

ブラジルW杯の失敗

 2014年W杯、アルベルト・ザッケローニ監督が率いた日本代表はブラジルで惨敗を喫している。

 ザッケローニは日本代表監督就任以来、4−2−3−1とシステムを固定し、諳んじられるほど同じメンバーを頑なに使った。そのチームは熟成を見せ、本田圭佑や長友佑都など一部選手たちが「自分たちのサッカー」と誇るほど。事実、アジアカップを制するなどアジアでは無敵に近かったし、世界を相手にもコンフェデレーションズカップでイタリア戦で一歩も譲らない打ち合いも見せた。

 それは同じ戦い方を貫いた一つの答えだった。

 しかしながら、同じシステム、同じメンバーに固執したことで、問題も出てきた。システムの弱点を見抜かれるようになったし、有力選手が不調に陥ると、なす術がなかった。ボールプレーを極端に追求し、人数をかけて攻めることに執心し、攻守のバランスが崩壊。センターバックが世界で高さやパワーに呆気なく弱さを露呈した。また、前田遼一を囮に使って、サイドの岡崎慎司が得点をとる形を確立したが、前田の不振でシステムが狂い、点が取れなくなった。

 ザッケローニ監督は当時、Jリーグで得点王を争った佐藤寿人、大久保嘉人などに目も向けていない。違うシステム、違うメンバーという選択肢を捨て、そのツケを払うことになった。最後のメンバー発表、サプライズで大久保を選出したが付け焼き刃感は否めず、敗北にまみれた。

アジアに甘んじるべきではない

 残念ながら、アジアでの戦いのパターンの確立など所詮、その程度のものである。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/898d5c6464a123fc5089ec5388ac31a20a27befd

 アジア最終予選と同時に行われている欧州のネーションズリーグを観ていても、アジアを軽く凌駕している。リーグ戦に例えるなら、総じて3部リーグと1部リーグほどの差だろう。日本がW杯ベスト8を目指して戦うべきは、ネーションズリーグの上位チームだ。

 日本は同じメンバーでの3−4−2−1を進化させるだけでなく、違うメンバー、もしくは違うメンバーで違うシステムを使い、チーム力を高める必要がある。

「W杯出場」

 それが現時点でのプライオリティだろうが、形を変えても勝てるチームに仕上げていかないと、「W杯ベスト8」には届かない。

 中国戦、バーレーン戦の先発メンバーは久保建英が鎌田大地に代わっただけだった。石橋を叩いて渡らない、という慎重さが見えた。サイドバックを何人も招集し、全く使わない采配はポジティブに捉えられない。勝てば官軍、ではザックジャパン時代の「停滞」を生みかねないだろう。マネジメントとしては、一考の余地がある。

 4−2−3−1、もしくは4−3−3も同時に運用すべきだし、そのための選手選考だろう。システムや選手を固定せず、戦いの幅を広げるべきだ。

 アジアに甘んじるべきではない。

世界を視野に入れた戦いを

 バーレーン戦も、実は前半は攻撃がうまくいっていない。自陣でボールを失い、シュートを打たれる場面もあった。PKの1点がなかったら、相手のペースに引き摺り込まれていたかもしれない。負けることはなかったはずだが・・・。

 しかしスペインやアルゼンチンだったら、日本の出足の悪さにつけ込んできただろう。嵩にかかった攻撃で圧力をかけてきたに違いない。彼らがペースをつかんでいたはずだ。

 日本はアジアのように世界とは戦えない。なぜなら、相手は互角以上にボールを持って攻める姿勢を見せ、攻撃姿勢を続けるのは簡単ではないからだ。守備がストレスを感じた場合、失点の可能性も高まるし、攻撃精度の低下に直結する。

 システム、メンバーのバリエーションを求める理由がもう一つある。

 次のW杯は新方式になるが、グループリーグの3試合を戦い、勝ち上がった32チームでのノックアウト方式で、ベスト8になるには最低5試合を戦い抜かないといけない。短期決戦で「1チームの固定メンバー」では息切れする。例えば中盤の遠藤航は欠かせない存在だが、5連戦では厳しい展開になるのは明白だ。

 どう考えても、他のシステム、メンバーも積極的に取り入れるべきだろう。「W杯出場を決めたら」という反論もあるだろうが、プレッシャーがかからない戦いでシステムや選手をいくら試しても意味はない。

 そもそも、システムにはめ込もうとすると、はみ出してしまう能力がある。例えば鎌田はバーレーン戦のシャドーよりも、ひとつ下のポジションでゲームを作りながら前に出る方が良さを出せる。バーレーン戦では、求められた推進力を出すように、ボールを前で引き出すプレーをしていたが、それは久保の方が得意だろう。

 鎌田を中心に考えた場合、4−3−3でもよかった。鎌田、田中碧、もしくは旗手玲央がインサイドハーフ、両サイドバックに菅原由勢、中山雄太、左に中村敬斗、右に伊東純也。これだけ入れ替えても、日本の優位は動かない。遠藤の代役の問題が残り(個人的にはエイバルの橋本拳人を推奨)、上田に匹敵するストライカーが台頭しないと厳しいが・・・。

 森保ジャパンは、世界を視野に入れながらアジアを戦うべきだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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