Yahoo!ニュース

ヤマル依存症?好調だったバルサは失速するのか

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

ヤマル不在で、足踏み

 12月7日、FCバルセロナは敵地でベティスと2-2と引き分けている。後半アディショナルタイムで追いつかれ、”勝ち切れなかった”というネガティブな印象が残った。

 控え目に言って、最近のバルサは”足踏み状態”だ。

 ラ・リーガでは開幕以来、バルサは怒涛の7連勝だった。伝統の攻撃的サッカーで、次々と相手を蹴散らした。ロベルト・レバンドフスキは点取り屋の王座を取り戻し、ラミン・ヤマルの突破は神がかっていた。オサスナとは打ち合いの末に敗れたが、再び4連勝を遂げ、レアル・マドリードをサンティアゴ・ベルナベウで0-4と破ったゲームは語り継がれるレベルだった。

 ところが、急に失速した。11月は「ブラック・ノーベンバー」と揶揄されるほどだった。2勝2敗1分けで、勝ち点を思うように積み上げられていない。ヤマルがケガで不在だったことで、一部メディアに「依存症」を指摘されたが…。

 直近のベティス戦はヤマルが先発し、傑出したプレーでチャンスを作り出していた。81分、ヤマルが単騎で仕掛けながら、下がり気味に中へ切り込み、習性的にラインが上がるのを見透かすように、完璧なコース、タイミングのパスをフェラン・トーレスに供給したシーンは見事だった。F・トーレスのシュートが決まり、1-2とリードしたことで試合は決まったかと思われたが、同点弾を浴びた。

「もはや、ラミン(・ヤマル)も十分ではない」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』はマドリード系メディアだけに、ここぞとばかりに危機感を煽っているわけだが…。

ヤマルの影響が大きいのは当然

「メッシ依存症」

 かつてバルサが隆盛を誇っていた時代も、そういう指摘は少なからずあった。メッシが偉大過ぎたのだろう。彼は自らもゴールを叩き込めたし、歴代の選手と比べても突出していた。シーズン50点以上だけでなく、正念場に強い選手と誰が比肩できるのか。クリスティアーノ・ロナウドと競う時代を長く過ごしたが、現場での評価はメッシが断然、上だった。

 ヤマルは、メッシの領域には達していない。しかし17歳という年齢を考慮に入れた場合、メッシをも凌ぐ(メッシは17歳でトップデビュー)。得点力はまだまだ及ばないが、得点機会を作り出す能力はすでに拮抗したものがある。その点、恐るべき才気の塊だ。

「ヤマル依存症」

 そう指摘するメディアもあるが、大きくは間違っていない。

 なぜなら、ヤマルほどの選手がいた場合、世界中のどんなチームも依存するからだ。それは寄りかかる、という意味ではない。攻撃面で、突出した存在感になるのは自明の理だ。

〈一人の力で相手を脅かせる〉

 そういう選手は、多かれ少なかれ、どんなチームでも特別な存在である。それはマドリードで言えば、ヴィニシウス・ジュニオールになるだろうし、レアル・ソシエダで言えば、久保建英になるだろう。そして、ヤマルの影響力は二人以上だ。

 では、ヤマル不在のバルサは勝つことができないのか?

バルサの伝統の産物

 バルサは不振だった11月も、チャンピオンズリーグ(以下CL)、ブレスト戦はヤマルなしで3-0と完勝を収めている。力の差を見せつけた。中盤のマルク・カサド、ペドリ、ダニ・オルモが絡む攻撃は魅惑的だった。彼らは短いパス交換や微妙なポジション変更で、簡単に相手のライン間に滑り込み、決定打を与えることができる。バルサらしさの象徴だ。

 ヤマルなしでも、十分に試合を制することはできる。

 しかしながら、ヤマルは相手を蹴散らせる”騎兵”であり、特別な要素を持った選手だ。

〈左利きで、スピードに優れ、仕掛け崩せる〉

 その三つの要素はバルサが下部組織ラ・マシアでサイドアタッカーに求めている特性である。スピードを使いこなせない選手は、ラ・マシアの門を叩くこともできない。メッシも、ヤマルも、その切磋琢磨から生まれてきた選手なのだ。

 言い換えれば、バルサがバルサとしてあるためには、ヤマルのようなアタッカーは不可欠と言える。

 ハイラインで戦い続けるためには、常に相手のバックラインに脅威を与える必要がある。ヤマルがいることで、攻撃こそ防御なり、が成り立つ。さもなければ、どうしても背後のリスクが出る。

 11月の悪夢は、まさにハイラインを逆手に取られた結果だ。

ヤマルの代役

 現時点で、ヤマルの代わりができるのは、ブラジル代表ラフィーニャになる。しかし、ラフィーニャはオールコートのオールラウンダーとして覚醒しつつあり、違う役目を負う。ラフィーニャはヤマルの代役にはやや及ばず、彼がそうすることで、本来のポジションの穴も浮き彫りになってしまう、というジレンマを抱えるのだ。

 バルサの理念に従えば、ヤマルの代役はラ・マシアから探すことになるが…。

 バルサBには、左利きのアタッカーとして19歳のダニ・ロドリゲスがいる。開幕以来、故障で出場がなかったが、12月に復帰した試合、途中出場でいきなりゴールを決めた。今年7月のU―19欧州選手権でフランス代表を破って優勝したスペイン代表の主力であり、彼がヤマルのバックアッパーになるのが理想だが、復帰したばかりで、現時点では未知数だ。

 ラ・マシア育ちの久保がいれば、というところだが…。

 現状、「ヤマル依存症」の問題は引きずることになるだろう。

 しかし、ベティス戦のようにヤマルが復帰した試合は相手を圧倒できていた。リードした後、ラインを下げてしまうことで押し込まれ、前のスペースを使われるなど守りの弱さもさらけ出しているたが、マドリード戦で極端なハイラインハイプレスが成功を収めるも、それ一辺倒では研究されると失点するリスクも高い。ラインコントロールする中、今はアジャストさせている段階だ。

 暫定だが、今もバルサはラ・リーガで首位を守る。CLでも3位と好位置で、ストレートでラウンド16に辿り着くところまで王手をかけた(マドリードは24位で、ノックアウトアウトフェーズ・プレーオフもギリギリの順位だ)。悲観するような状況ではない。

 ハンジ・フリック監督率いるバルサは、これからが正念場だ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事