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久保建英の移籍はあるのか?レアル・ソシエダOBの本音とベストの移籍先

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の日本代表アタッカー、久保建英はどこに移籍するのか!?

 連日、それはスポーツニュースでトピックスになっている。

「ラ・リーガの出発点で、世界王者レアル・マドリードに戻る」

「プレミアリーグ、リバプールが最適な場所」

「アトレティコ・マドリードが食指を動かしている」

 どれも、もっともらしい。中には、「今年の冬のマーケットでの移籍も急転直下ありうる」などという話もある。

 しかし、久保は2029年6月末までラ・レアルとの契約が残っている。6000万ユーロという違約金を支払い、本人が合意すれば、理論上は移籍できるが、冬の移籍は緊急的である場合がほとんど(チームが不振でうまくいっていないなど)。たとえ移籍しても、そのままチームが不調で沈み、選手も適応に苦しみ、宙ぶらりんになるケースが少なくない。冬の移籍は現実的ではないだろう。

 もっとも、今シーズン終了後の移籍は否定しない。

レアル・ソシエダOBも「タケは長くとどまらない」

「タケはすでにラ・レアルにとって重要な選手だよ。個人的には、少しでも長くラ・レアルでプレーしてほしいけど、このままいけば経済的にもっと裕福なクラブからのオファーが舞い込んでくるだろうね」

 昨年、ラ・レアルのレジェンドで最多出場記録を誇る(599試合)アルベルト・ゴリスにインタビューしたとき、彼はそう語っていた。さらに関係者や他のレジェンドOBも同じようなことを語っていたのが印象的だった。

「7000万ユーロでプレミアリーグのニューカッスルに売却したアレクサンデル・イサクのようになってほしいし、なる可能性は高い」

 そうした意見もあった。エースとして活躍する久保を必要としながらも、サッカー界の力学を十分に理解している人は、いつか別れが来ることを悟っていた。その点、生え抜きのミケル・オヤルサバルのような選手とは一線を画す。

 今シーズン、ラ・レアルで久保の存在感は増し続けている。攻撃は、明らかに久保中心。ラ・リーガでも、ヨーロッパリーグでも、敵の脅威になっている。

 多くのクラブが関心を持つのは当然だろう。だからこそ選択が重要になる。“ビッグクラブだから”という理由で選ぶのは、キャリアを潰すことにもなりかねない。

久保はどこに移籍すべきか

 例えばイタリア、セリエAには行くべきではないだろう。インテンシティを売りにした選手には悪くないリーグ環境だが、久保のようにコンビネーションで解決する選手は能力を全開にできない。鎌田大地の失敗が最近の前例で、イタリアと日本人選手の相性は決して良くない。「カテナチオから攻撃的なサッカーに変化した」という声もあるが、ボールを動かしてテンポを作るスペイン的視点から見たら、土台からして違う。

 また、パリ・サンジェルマンのようなビッグクラブも好ましくはない。多国籍軍なのは悪くないが、チームスタイルが根付いていないだけに、監督や主力選手の入れ替えも激しく、得策ではないだろう。そしてリーグアンは、ラ・リーガやプレミアリーグよりレベルが落ちる。高いレベルでの競争=飛躍するきっかけは掴みにくい。

 ブンデスリーガも、バイエルン・ミュンヘン、ボルシア・ドルトムント、レバークーゼンは候補だろう。ボールプレーを重んじるプレースタイルは適合し、悪い選択肢ではない。どこもチャンピオンズリーグで上位を争う力量を持っている。

 しかし、ラ・リーガと比べたら、リーグ全体のスペクタクル性は落ちるし、中位から下位は凡庸だ。

 また、ラ・リーガではレアル・マドリード、FCバルセロナ、アトレティコ・マドリードが候補か。

 しかし、マドリードは19歳アルダ・ギュレルのようなレフティがいるだけに、久保を呼び戻す緊急性はない。18歳エンドリッキのように、久保より若い選手たちが控えている。さらにマドリードは個人で戦う特性があるチームだけに、久保の連携力の高さを考えれば、ベストの選択に思えない。

 個人的には、バルサがベストだと考える。しかし、(FC東京から)復帰のところで拗れてしまっただけに、修復は難しい。それに、右サイドのレフティにはラミン・ヤマルという怪物が育っている。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1cef6a89a6fd9c0bda9b9c03a5237cfbc69222a3

 アトレティコ移籍に関しては、どうも現実味を感じない。ディエゴ・シメオネはかつてのように「ポゼッションに意味はない」とうそぶく監督ではなく、現実的にサッカーをする采配を見せる。しかし、南米の選手やタフな選手を好む傾向は変わっていないだけに…。

やはり、リバプールか

 そこで、プレミアリーグのリバプールが一番手になる。クラブとしての色合いを持っていて、攻撃的なサッカースタイルを信奉。個の技術と連携を重んじ、果敢にゴールへ迫る。

 久保がフィットしそうな気配はある。夏には実際に獲得交渉もあった。

 久保にとって、格好のチームにも思える。レフティアタッカー、モハメド・サラーは健在だが、“晩年”にさしかかり、タイミングも悪くはない。日本人選手が相次いで不遇をかこっている(南野拓実、遠藤航)のはマイナスポイントだが…。

 もう一つの懸念は、ラ・リーガの選手はプレミアリーグのスピード、パワーにやや苦しむところがある。ラ・リーガの選手がコンビネーションで問題を解決するところ、プレミアリーグの選手は速さや強さで解決するところがあるからだ。

「プレミアリーグは、スライディングタックルからして深く、激しかった」

 かつてラ・レアルで頭角を現し、リバプールで栄光を勝ち取ったシャビ・アロンソの証言である。

「プレミアリーグはクリーンだけど、球際の強度は面食らうところはあった。全力でぶつかってくる。そこまでボールをつなげないし、ボールが弾んで浮き玉になる展開も多く、五分五分のボールを競いながら、どちらに転ぶかわからない、というギャンブル性の中でのプレーを求められた。ラ・リーガのテンポで崩すプレーに慣れていると、最初は適応に戸惑った」

 それは久保にも教訓になるかもしれない。チャンピオンズリーグで上位に勝ち抜くことを考えたら、プレミアリーグのどこか、が現実的な選択肢にはなるのはたしかだが…。

 果たして、本当にプレミアリーグが最高の場所か。

 2025年、久保はターニングポイントを迎えることになりそうだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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