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2024年Jリーグの顔は誰だったか? ベストイレブンは町田選出なし。MVPは武藤嘉紀が受賞

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 昨日、『2024Jリーグアウォーズ』が開催され、各賞が表彰されている。

 連覇を果たしたヴィッセル神戸から、武藤嘉紀がMVPに選出されたことは正当と言えるだろう。昨シーズンの大迫勇也ほど無双ではなかったが、武藤が右サイドを中心に与えた強度が、神戸に推進力を与えていたことは間違いない。それはチーム最多の得点数(13点)以上の貢献だ。

 しかし例年と比べると、MVPやベストイレブンは意見が分かれるかもしれない。

 例えば、FC町田ゼルビアの選手のベストイレブン選出はゼロ。当該クラブのファンにとっては首をかしげることになった。一方で、タイトルレースには食い込めなかったガンバ大阪、鹿島アントラーズからは二人ずつ選出されている。両クラブのサポーターは、溜飲が下がる思いだろう。

「誰もが納得する」

 そんなシーズンではなかった。実際に、個人的に選んだベストイレブンと表彰されたベストイレブンでも、重なるのは3人だけ。拮抗したシーズンだった、と言えるし、飛び抜けたチームがいなかった、とも言えよう。今や80人前後の有力な日本人選手が欧州やMLSに渡っている現状で、脚光を浴び始めた選手が半年で欧州に移籍するだけに、”チームの顔”という選手の台頭も乏しかった(単純に選手の入れ替えが少なかった神戸が優勝したとも)。 

町田の健闘

 その中で、昇格組のFC町田ゼルビアが「目立って健闘したチーム」と言える。

 黒田剛監督は賛否両論ある中でも、ダントツに目立っていた。選手に植え付けた勝負への欲は、単なる「勝つだけのサッカー」では収まり切らない。キワでの戦い方、勝負をかけるタイミングなどがトレーニングから鍛えられていた。その結果、平河悠、藤尾翔太の才能を開花させたのだろう。試合後半に入り、修正する采配も特徴的だった。

 町田は今シーズン、J1に活気を与えたベストチームだ。

 ただ、ベストイレブンに選ぶ個人では、優勝した神戸の選手が中心になるだろう。

 酒井高徳、武藤嘉紀、大迫の3人は、それぞれ欧州経験のあるワールドカップ日本代表選手たちで、神戸の進撃に大きく貢献した。酒井は右サイドバックで攻撃の糸口を作っていただけでなく、天皇杯決勝のように守備の堅固さに真骨頂があった。武藤は相変わらず前線に多大なパワーを注入し、アシストも含めて欠かせない存在だった。

 欧州を経験したベテラン選手の活躍は安定していたと言える。

 一方、若手で神戸の躍進を支えたのが、宮代大聖だろう。もともと、スキルが高く、戦術眼にも優れる。ストライカー的なゴール前への動きを二列目からやってのけ、それは攻撃の多彩さにつながった。将来的には、南野拓実のようなセカンドストライカーで大輪の花を咲かせるのではないか。

 さらに、扇原貴宏も中盤を支えていた。山口蛍、川辺駿、知念慶もいい仕事をしていたが、シーズンを通したプレーと、終盤戦で優勝に導く”勝たせるMF”だった点を評価すべきだろう。左足キックは強力な武器で、最終節のゴールは総仕上げだった。

川崎の山田、高井は希望

 一方で、守護神と点取り屋の称号は、外国人のベテラン二人に捧げたい。名古屋グランパスのGKミッチェル・ランゲラック、横浜F・マリノスのFWアンデルソン・ロペスは、どちらもJリーグでのプレーが長く、実績、実力に敬意を表するべきだ。

 ランゲラックは7シーズンを過ごした名古屋の退団が今シーズン限りで決まったが、Jリーグカップ優勝MVPを受賞し、有終の美を飾っている。大迫敬介、谷晃生、一森純も悪くなかったが、タイトル獲得はさすがで、堅牢なセービングが健在だった。

 A・ロペスは、ベストシーズンではなかっただろう。それでも、左足の一振りで違いを示した。レオ・セアラ、ジャーメイン良も受賞に値したが、FWは渋滞気味で、単純にゴール数で突出していた。

 そして川崎フロンターレの高井幸大、山田新の選出は異議が出るかもしれない。低迷したチームの成績を考えたら、少し偏っているし、高井はパリ五輪出場などで出場試合も限られている。しかし、どちらもJリーグの可能性=世界で活躍する予感を漂わせていた。チームの基盤である「止める・蹴る」という技術を戦術に落とし込めている二人だ。

 広島は主力の入れ替わりが多く、最後の失速が痛い。全試合先発の中野就斗は、ウィングバックやセンターバックなど複数のポジションを担当し、強度の高さを見せたと言えるだろう。最後にトルガイ・アルスランは後半戦だけのプレーだけに、Jリーグ優秀選手にも入っていない。しかし、ライン間のサッカーのうまさは際立ち、「世界」を感じさせ、まさに独断と偏見の選出だ。

独断と偏見のベストイレブン

   山田新     大迫勇也   アンデルソン・ロペス

     宮代大聖   トルガイ・アルスラン  武藤嘉紀

    

             扇原貴宏

      酒井高徳     高井幸大    中野就斗   

             ランゲラック

 

 横浜や川崎という一時代を作った2強、浦和レッズのようなビッグクラブが苦戦する中、毎試合、どちらに転ぶかわからない戦いは刺激的だった。広島は市内のスタジアムで戦い、大きな前進を見せた。各クラブも、入場者数は健闘している。

 ただ、町田以外は一般のスポーツニュースで扱われる回数も少なかった。日本代表の主力選手はすべて欧州組で、その点でJリーグは扱いが難しくなっている。地方が盛り上がっているのはポジティブだが、マーケティングの広がりでは岐路に立っていると言える。スケールが小さくなると、選手は欧州移籍をさらに加速させ、サイズダウンする危険性も孕む。

 選手は奮闘している。それは間違いないだろう。来シーズンは、画期的なチームマネジメントや気鋭の指揮官の登場が望まれるかもしれない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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