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シャビ・アロンソ率いる無敵レバークーゼンのようなプレーを、Jリーグのクラブは再現できないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

名将シャビ・アロンソが見せる最高の戦い

 シャビ・アロンソ監督が率いるレバークーゼンは今シーズン、欧州最高の戦いをしているクラブと言えるだろう。

 ドイツ、ブンデスリーガ、国内カップ、そしてヨーロッパリーグ(EL)と49戦無敗。すでにブンデスで優勝し、国内カップ、ELは決勝に進出している。バイエルン・ミュンヘンも、ボルシア・ドルトムントも、ライプツィヒも、ウェストハムも、ASローマも、その後塵を拝した。

 しかし特筆すべきは、無敗という記録よりも痛快でスペクタクルなプレーそのものだろう。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/wfootball/2024/04/16/post_43/

 ボールを持った時の彼らは、まるで翼を得たように映る。パスの出し入れだけで相手のライン間のずれを生み出し、巧みに人が入ってボールを入れ、さらに敵を動かして破滅させる。失っても奪い返し、怒涛の攻撃は彼らの真骨頂。それぞれのポジションが良いことで、攻守一体で相手を打ち負かせる。

 そのプレーモデルを貫くことによって、選手たちが目覚ましい成長も遂げている。フロリアン・ヴィルツ、ピエロ・インカピエ、ビクター・ボニフェイス、アミンヌ・アドリのような若手を覚醒させ、アレハンドロ・グリマウド、ヨナタン・ターのような中堅を変身させ、グラニト・ジャカのようなベテランの技を極めさせた。その現象は、もはや伝説の域だ。

ローマ戦の痛快さ

 EL準決勝、ASローマとのセカンドレグはまさに真価だった。

 レバークーゼンは前半から押し込み、何度も決定機を作っている。しかしGKの好セーブで防がれると、よもやの2点リードを許す。2試合合計でも追いつかれたわけだが、残り2分、猛攻から1点を返す。右CKを飛び出した相手GKが触れられず、抜け出てきたボールをDFがオウンゴール。幸運とも言えるが、攻撃の信念が敵を打ち抜いたのだ。

 1点を返した時点で、決勝進出は確定したようなものだったが、彼らは手を緩めない。敵陣でボールを奪い合う激しい応酬の後、センターバックのターがポジションを上げ、ヴィルツに縦パスを入れる。アドリを経由してパスを受けたジャカが相手を引きつけた後、右サイドの裏にスルーパス。これが交代出場のヨシップ・スタニシッチに通って、切り返しから左足で流し込んだ。

 美しすぎる崩しで、ゴールに迫り続けるのが使命のようだった。

 レバークーゼンは、ビッグネームを集めたチームではない。昨シーズン途中まで、降格の危機にあった。それがスペクタクルなプレーで無敵を誇っているのだ。

 アロンソ監督のレバークーゼンのようなプレーを、Jリーグのクラブは再現できないのか?

レバークーゼンのようなチームはJリーグで生まれないのか?

「トップレベルの選手が揃わなければ、能動的なプレーで勝利を重ねるのは難しい」

 それは一つの真理と言える。技術的、戦術的に足りない選手が数人いるだけで、綻びができる。数式にたとえれば、どこかで答えが合わなくなると言ったところか。具体的に言えば、精巧なコンビネーションでラストプレーまでいっても、決められないし、つなぎを引っかけられ、ショートカウンターを受け、自滅。いわゆる負けパターンである。

 そこで、多くのクラブがレバークーゼンのような主体性を捨てる。

 じっくりと受け身で構えて、堅牢さを誇ることでミスを最小限にし、相手の嫌がるプレーを徹底する。プレッシング、リトリートを使い分け、カウンターの精度を上げる。ディテールとなる球際を鍛え上げ、走力や高さというスランプが少ない要素で勝負する。セットプレーなどの奇襲で虚をついて、攻撃の手を尽くす、のは正攻法とも言えるが…。

 誤解を恐れずに言えば、ボールを捨てた時点で「弱者の兵法」である。能動的な再現性は乏しい。勝つ華やかさよりも、”負けない効率”を最大限に高めたものだ。

 能動的にボールをつなげることは、難しい作業である。ボールを持っている方が、わずかなミスで一気にピンチになるからだ。蹴り込み、そこからふたをした方が失点のリスクを下げられる。技術の低い選手、コンビネーションの不足、戦術面の不徹底などの問題を抱えている場合、相手のミスを生じさせた方が得策なわけだが…。

 レバークーゼンのような「強者の戦法」とは似ても似つかない。

強者の戦法は不可能ではない

 強者の戦法は、プレーを重ねるたび、選手が成長を遂げる。それによって、サッカー自体を進化させられる。ただ、勝つのではない。難しいことに挑戦し、勝つことによって新たな時代を作れるのだ。

 しかしJ1でこうしたスタイルに挑んでいるチームの多くは、結果につながらない。そこで周りは「もっと気持ちを出して」とか、「泥臭さが足りない」とか、「あの頃の戦いを取り戻して」とか、敗北で生じたバイアスからむしろ確実性のないものへの方針転換を余儀なくされる。皮肉なことに、不確実なものに持ち込む方が、五分五分で勝負をものにできるのだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/cffcd5f442805dd7f034b9e0833b75fea1feb4f5

 たとえば能動的サッカーを実現するには、センターバックが堂々とボールをつけ、あるいは自ら持ち運び、ボランチが怖がらずに下がって受け、前に運ぶという積極的プレーを繰り返す必要がある。厳しい状況であっても、クリアし、蹴り込んだら、プレーモデルは完結せず、中途半端で凡庸なものになる。正しいトレーニングと勇敢さが問われ、簡単ではない。。

 では、J1の戦力で勇敢なボールゲームは不可能なのか?

 不可能なはずはない。完成度の違いはあるし、無敗は難しいだろう。しかし、少なくとも選手の成長を促すことはできる。

 アロンソ監督は2019-20シーズンから当時3部だったレアル・ソシエダBを率いていたが、信奉したサッカーは今と変わらない。そのプレーモデルの中、現在トップでプレーするスペイン代表MFマルティン・スビメンディを筆頭に、DFジョン・パチェコ、MFベニャト・トゥリエンテス、ロベルト・ナバーロ(現在はカディス)などをトップに送り込み、2部にも昇格しているのだ(1シーズンで降格。名将でも簡単な仕事ではない)。

 J1の戦力は、レアル・ソシエダBよりも低いということはない。

 すでに答えは出ている。

 アロンソのような時代を変える若い指揮官が、Jリーグにも待望される。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/74bbe4cc0cebd46185d8aee723c13fd91d3a7014

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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