森保ジャパン、中国に7-0の大勝も想定内。アジアカップの二の舞は許されない
アジアでの戦いに浸ったら、世界からは置き去りに
9月5日、埼玉スタジアム。2026年W杯アジア最終予選、森保一監督が率いる日本代表は、中国代表を7-0と完膚なきまでに叩き潰している。
森保ジャパンは3-4-2-1を用い、攻撃的なタレントが躍動。右サイドは堂安律、久保建英が連係で翻弄し、左サイドは三笘薫が変速ギアのドリブルで蹂躙した。南野拓実が抜群のポジション取りで2得点。上田綺世も反転やポストなど技量を見せた。遠藤航、守田英正の中盤は完全に攻守を掌握し、町田浩樹、谷口彰浩、板倉滉の3バックはほぼ完璧だった。GK鈴木彩艶の仕事がほとんどなかったほどだ。
「日本はアジアだけでなく、世界でもトップレベル」
中国の代表監督の言葉は、大げさでも何でもない。
しかし、その大勝は十分に予想できたことである。日本はすでにアジアの中では突出。むしろ、負ける方が難しいだろう。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/7fce958a7588555d1f3905e3d92274bd0adcbabc
「アジアは侮れない」
それはもはや、1980年代、90年代を戦ってきた者たちの「コンプレックス」の残滓に過ぎない。アジアで戦う移動距離の長さやスタジアムの劣悪さなどは今も「難しさ」として引き継がれているが、日本はアジアでは実力的に“頭三つ”抜けている。
実際、中国とは1部と4部に近い、三つくらいカテゴリーの差があった。
「絶対に負けられない戦い」
一部メディアはそう盛り上げるが、もはや時代に合っていない。
W杯のアジア出場枠は、これまでの4.5枠から8・5枠に増えた。グループ2位までが自動的に出場権を獲得できるだけに、日本にとって「難関」と言えない。たとえ、3,4位になっても6チームでプレーオフに優勝で出場できるし、それを逃しても大陸間プレーオフに回れる。
生ぬるいアジアでの戦いに浸り切ったら、世界からは置き去りにされるだろう。
一番試されるのは鈴木彩艶
「今年のアジアカップはベスト8で姿を消したわけで、油断大敵」
そんな声もある。しかし、当時は不当な日程での戦いを余儀なくされていた。
アジアカップは、欧州シーズン真っ只中でモチベーションの問題があって、肉体的コンディションを維持するのも困難だった。欧州や南米の選手たちは、シーズン中に大陸別の大会を戦うことはない(EUROもコパ・アメリカも6月開催)。アジアカップに参戦した選手たちの士気が上がらず、足元をすくわれたのは自明の理だ。
サッカーは最も波乱が起きやすいスポーツで、その背景が敗退を引き起こしたと言える。
日本に勝利したイラクも、イランもなりふり構わぬ”弱者の兵法”で一発を狙ってきた。日本とは逆にモチベーションが高かった。日本を倒せば”一攫千金”で、自分たちの優位である高さやパワーを最大限に使ってきた。その一瞬の隙を突かれた格好だ。
もう一つ言えば、森保監督はGK鈴木を鍛え上げるため、大会一つを潰したに等しい。大会序盤から、目を覆うほどの経験不足を露呈した鈴木を先発から外さなかった。そのポテンシャルに対し、他のGKに与えない特権を与え、先行投資をしたのだろう。その結果、負けるはずのない戦いで負け、簡単に勝てる試合も苦しくしたのだ。
W杯アジア最終予選、一番試されるのは鈴木のプレーかもしれない。
鈴木が日本史上最高のGKとしての可能性を秘めているのは明らかだろう。体格に恵まれ、運動力の数値は飛び抜けているし、セービングはスペクタクル。しかし、波が激しい。メンタルの問題か、あるいはキャッチやパンチングの選択の果断さの不足か、目の覚めるセーブをしたかと思えば、何でもないボールをこぼす。
森保監督には、その実力を見極める義務がある。
直近の欧州のネーションズリーグ、例えばスイスはとてもいいサッカーをしていたが、スペインの攻撃を防ぎ切れず、4得点を放り込まれている。世界の強豪の攻撃力は、やはりアジアとは格段に違う。それに対抗するのはGKの安定感が欠かせないだけに…。
Jリーグでの実績、海を越えてからの実績では、高丘陽平にチャンスが与えられるべきだろう。ところが、彼は招集すら一度も受けていない。MLS(メジャーリーグサッカー)で定位置をつかみ、屈指のGKになっているのもかかわらず、だ。
次のW杯、アジアカップの二の舞は許されない。
森保ジャパンは勝ち方が問われる
「アジアでの戦いを経て、最強のチームに。ともに予選突破することで団結力を高める」
そんなお題目も出る。
しかし実際、その程度の「チームワーク」では、世界トップとの差が埋められない。それは過去の戦績が物語っている。
そもそも、アジアでの経験はほとんど世界での戦いに結びつかない。なぜなら、あまりにレベルが違い過ぎる。アジアカップでは日本に勝ったイラクも、イランも弱者の兵法で挑んできたが、世界の強豪が日本を相手に守りに入ることはしない。戦いの展開ががらりと変わるからだ。
今や日本代表の強化以上に、選手個々の強化にスポットを当てる時代が来た。
2018年ロシアW杯、西野朗監督が大会数か月前に率いることになりながら、日本代表は選手たちが強い自主性を見せ、史上最高の戦いを演じた。敗れたとはいえ、ベルギーとも互角に渡り合った(神風で勝ったドイツ、スペイン戦よりも価値がある)。代表チームは、クラブチームのように監督が日々仕込んだ戦術がモノを言うわけではない。
大事なのは、選手個々の適応力である。どれだけ修羅場を乗り越えられているか。ビッグクラブで主力としてピッチに立ち、チームを勝利に導いているなら、W杯の舞台でもアジャストできる、という論理だ。
森保監督は、アジアで「フルメンバー」にこだわるべきではない。選手を少しずつ入れ替え、今回の高井幸大のように馴染ませていくべきだろう。そして故障を抱えている選手を招集すべきではない。アジアカップ参加で、三笘、冨安がコンディションを著しく悪化させ、久保のプレーを低調にさせたように、むしろダメージを与えることになるからだ。
森保監督は、藪をつついて蛇を出してはならない。カタールW杯のように、弱者の兵法を当てはめるのも本末転倒。アジアカップ、鈴木に固執した采配も同じだ。
アジア最終予選、森保ジャパンは勝ち方が問われる。
9月10日、日本はオーストラリアを破ったバーレーンと最終予選2試合目を戦う。