タピオカドリンクに燕の巣? 一流ホテルによる中国料理のコラボレーション3選
中国料理のフェア
中国料理はフェアを行うのが難しいジャンルのひとつです。
なぜならば、中国料理は「日本人が最もよく知り、馴染みのある外国料理」であるだけに、フェアの企画を考案するのが難しいからです。
イノベーティブな中国料理であれば、日本人は中国料理を熟知しているだけに、食べ慣れていない中国料理を簡単に受け入れることができません。しかし反対に、あまりにもオーソドックスであれば、メディアに注目されたり、リピーターをはじめとするゲストに印象づけたりすることができないでしょう。
そのような状況の中で、目を引くコラボレーションを行っているホテルの中国料理店がこの時期にもあります。
関連記事
それぞれの詳細や背景を紹介していきましょう。
唐宮(ヒルトン東京お台場)
ヒルトン東京お台場の中国料理「唐宮」では2019年9月1日から10月31日にかけて「中国料理唐宮 新料理長 東郷裕之 就任記念特別コースメニュー」が提供されています。
「中華とフレンチの饗宴」として、新料理長である東郷裕之氏と「ミシュランガイド京都・大阪」で2012年から7年連続で1つ星を獲得しているフランス料理「Restaurant MOTOI」の統括シェフ前田元氏のコラボレーションが行われているのです。
中国料理とフランス料理が一緒になったコースはなかなかありませんが、どういったものなのでしょうか。
コース内容
このコラボレーションのディナーコースは次の通り。
饗宴 ~晩餐~
- アミューズ
グジェールとウニのタルト
- 前菜
皮付き豚ばらの焼き物 広東式チャーシュー
- スープ
きのこのフラン 焼き栗のスープ
- 揚げ物
北京ダックとフォアグラのポワレ 無花果のコンフィチュール
- 海鮮
旬魚と金針菜の自家製XO醤炒め
- 肉料理
和牛のロースト 豆鼓のソース 農園直送野菜と共に
- ご飯物
オマール海老のおこわ 蓮の葉包み
- 麺物
鮮魚の清湯麺
- デザート
杏仁豆腐とマンゴーのヴェリーヌ
フランス料理と中国料理の皿が交互に提供されるという、面白いコースになっています。
最後を御飯や麺でしめていることから、中国料理の流れであることが分かりますが、御飯と麺の2種類用意されているのは珍しいことです。
注目料理
「きのこのフラン 焼き栗のスープ」は香りのよい焼き栗のスープで、底にはなめらかなキノコのフランがあります。二層になっているので、下まですくって食べると複雑な香りと食感を楽しめてよいでしょう。
「北京ダックとフォアグラのポワレ 無花果のコンフィチュール」は、巻かれていないので自分で好きなように巻きます。北京ダックにフォアグラのポワレを合わせるのは、新しい試みです。
「旬魚と金針菜の自家製XO醤炒め」は、金目鯛が適度に油を含んでいるのでリッチな味わい。自家製XO醤の香りが素晴らしく、金針菜や黄ニラが添えられています。
「和牛のロースト 豆鼓のソース 農園直送野菜と共に」は脂がしっかりとした黒毛和牛のランプ肉をロースト。重厚感はありますが、農園から届いた20種の野菜が付け合わされているので、バランスはよいでしょう。
「オマール海老のおこわ 蓮の葉包み」は、洋中折衷のアメリケーヌソースを用いたおこわ。蓮の葉もしっかりと香ります。
「鮮魚の清湯麺」は鯛の頭を出汁に使っているので、品のよい滋味が感じられ、添えられた松茸とユズのスライスがよいアクセント。
背景
中国料理とフランス料理のコラボレーションが行われることになったきっかけは何でしょうか。
実は、東郷氏と前田氏は、15年前に「唐宮」で共に働いたことがあります。東郷氏が三代目の料理長に就任するのを祝し、京都を代表するフランス料理のシェフの一人である前田氏に協力してもらって実現したフェアであるということです。
2019年6月末に企画が持ち上がり、京都と東京を行き来しながら、二人で試行錯誤しました。そして、旬の食材を巧みに使用し、伝統的な広東料理を礎にしながらもフランス料理と調和した、新たな中国料理を完成させたといいます。
特にこだわっているメニューは、東郷氏が「旬魚と金針菜の自家製XO醤炒め」、前田氏が「和牛のロースト 豆鼓のソース 農園直送野菜と共に」。
東郷氏のこだわりは、自家製XO醤に塩漬けのイシモチ「ハムユイ」ではなくアンチョビを使ったことです。
中国料理では通常さっと火を通しますが、塊肉にじっくりと低温で火を入れ、最後に高温で香ばしく仕上げたのが、前田氏のこだわり。農園直送の野菜のおいしさを引き出すために、種類ごとに火入れする手間をかけ、今までの中国料理にはない味わいとテクスチャを楽しめるようにしたのも、特筆するべきところでしょう。
コラボレーションの苦労として、東郷氏は京都と東京で前田氏が指定した食材や機材を集めるのが大変であったこと、前田氏は約15年ぶりに「唐宮」の調理場に立ったことを挙げています。
これから
前田氏と東郷氏の先輩後輩という関係性があり、そして、互いにリスペクトし、信頼し合っているからこそ、フランス料理と中国料理の饗宴が実現しました。
異なるジャンルなので、食材や調理方法および器具が違っており、苦労もあったといいますが、2回目以降はよりスムーズに進められるはずなので、今後もこの実力ある料理人のコラボレーションに期待したいところです。
萬壽苑(ホテルグランドパレス)
ホテルグランドパレスは全館を挙げ、2019年9月1日から10月14日にかけて「宮城グルメフェア」を行っています。
中国料理の「萬壽苑」では宮城県が誇る高級食材であるフカヒレを用いた「ふかひれの姿煮特撰コース」が提供されています。
宮城県にはフカヒレやアワビ、ホタテ、牛肉、豚肉など中国料理に適した素晴らしい食材がたくさんありますが、どういったフェアなのでしょうか。
コース内容
ディナーのコース内容はこちらです。
宮城グルメフェア ふかひれの姿煮特撰コース
- 宮城県産和豚もちぶたの焼豚と四種前菜盛り合わせ
- 気仙沼特産品ふかひれの姿煮
- 帆立貝柱とアオリ烏賊の天然塩炒め
- 北京ダック
- ロブスターのチリソース煮
- 宮城県産和豚もちぶたの広東角煮
- 自家製XO醤入り炒飯
- デザート
気仙沼のフカヒレや和豚もちぶたなど、メニュー名からも宮城県産の食材が見かけられます。全部で8品と中国料理のフルコースになっており、ボリュームもたっぷりでしょう。
注目料理
「宮城県産和豚もちぶたの焼豚と四種前菜盛り合わせ」は右から順番に、70度から90度で低温調理した蒸し鶏、マグロの有馬山椒のせ、キュウリの酢の物、宮城県産和豚もちぶたのチャーシュー。もちぶたのチャーシューにはバラ肉が使われており、脂に甘味があります。
「気仙沼特産品ふかひれの姿煮」は気仙沼の特産品であるヨシキリザメの尾びれを使った姿煮。料理長を務める大田気流甫氏が、2年前に知り合い、全幅の信頼を寄せている業者から購入したフカヒレです。コラーゲンが非常に多く、身の食感もしっかりとしています。
「北京ダック」は、周りで包むカオヤーピンがモチモチしており、北京ダックの皮はカリカリとして脂旨味もたっぷり。
「宮城県産和豚もちぶたの広東角煮」は昔ながらの広東料理の技法を用いて水分が抜けるようにし、シンプルに豚の旨味を引き出しています。オイスターソースともよく合い、野菜もシャキシャキです。
「自家製XO醤入り炒飯」は風味豊かなチャーハン。自家製XO醤や自家製ラー油は、店頭で販売している秘伝の調味料です。
背景
宮城県とコラボレーションしたフェアは、どうして行われたのでしょうか。
ホテルグランドパレスでは年に3回地方のグルメフェアを開催しています。そして今回は、フカヒレなどの海産物や仙台牛など魅力ある食材が豊富であること、全レストランで特Aを受賞したお米「登米産ひとめぼれ」を使用していることから、宮城県をテーマにしたフェアが開催されることになったということです。
大田氏が特にこだわっている料理は「気仙沼特産品ふかひれの姿煮」。気仙沼特産のフカヒレはコラーゲンが豊富で身が厚く、最高級の食材であると太鼓判を押します。
宮城県については「食材大国といわれているだけに、山の幸も海の幸もバランスがよく、どれも素晴らしい」と大絶賛。
どのようにしてコースを考えたのか聞くと「メニュー作りでは五感を大切にしている。視覚・味覚・嗅覚・触覚・聴覚を基本にして構成を考え、伝統の調理技法を活かしながらもオリジナルを加え、高級感を演出するように心掛けている」と説明します。
これから
大田氏は宮城県の食材に惚れ込み、高級な中国料理のコースを作り上げていますが、来年度のグルメフェアについては、これから地域を選定するといい、宮城フェアが行われるかどうかは未定であるということです。
ただ、今では外資系ホテルでは食べられなくなったフカヒレ、それも、一級品である気仙沼産のフカヒレの姿煮が入ったコースは、中国料理好きにとって嬉しいことは間違いないだけに、引き続き宮城フェアを開催してもらいところです。
チャイナルーム(グランド ハイアット 東京)
グランド ハイアット 東京の中国料理「チャイナルーム」では、2019年9月19日から10月31日にかけて「グランド ハイアット 台北 ゲストシェフ コラボレーション」が行われています。
グランド ハイアット 台北の中国料理「雲錦(ユンジン)」から料理長のベン・シェイ氏を招聘し、同店のメニューをコースやアラカルトで楽しめるというフェアです。
「雲錦」は四川料理、北京料理、浙江料理から台湾料理までを提供し、中国料理の手法と台湾の食材を融合した独創的な料理でその地位を確立しています。
コース内容
「雲錦」とコラボレーションしたディナーコースの内容はこちらです。
ディナーコース
- 前菜盛り合わせ
野菜の湯葉巻きピリ辛胡麻ソース
牛スネ肉のスパイシー煮込み
活鮑の台湾産醤油ソースがけ
台湾産カラスミ
豚バラ肉のきゅうり巻き 四川風ガーリック醤油
- 点心
上海式小籠包 雲錦スタイル
干し貝柱と大根のパイ
- 佛跳牆(ぶっちょうしょう)
鮑やナマコ、浮き袋などの高級乾物をふんだんにつかった蒸しスープ 燕の巣添え
- 釜焼き北京ダック
- オマール海老の台湾式チリソース煮込み
- 国産牛ヒレ肉 パプリカ 台湾ステーキソース炒め 陶板仕立て
- 鶏肉と高菜の白湯スープ麺
- 台湾式デザート盛り合わせ
- 中国銘茶
台湾が誇る上質なカラスミや小籠包、他ではなかなか体験できない佛跳牆といったメニューから構成されており、「雲錦」のシグネチャーディッシュを楽しめるコースに仕上げられています。
注目料理
コースに加えて、アラカルトも多数用意されているので、これらの中から注目メニューを紹介しましょう。
「上海式小籠包」は「雲錦」スタイルになっており、台湾の伝統的な作り方と味付けになっています。塩や砂糖、胡椒でシンプルに味付けされているので、黒酢を好みで添えるとよいでしょう。
「江南式クリスピーアンチョビ 雲錦スタイル」はシェイ氏が最もオススメする料理のうちのひとつ。アンチョビを逆立ちさせたプレゼンテーションも圧巻です。新鮮なアンチョビを油で揚げており、クリスピーで小気味よいので癖になります。トマトソース、お酢、砂糖で味付けしてあり、お酒にもよく合いそうです。
「佛跳牆」は「鮑 魚の浮き袋 ナマコ 燕の巣の蒸しスープ」と説明されている通り、乾物を中心に様々な高級食材を用いて作った、福建料理の伝統的かつ最高級のスープ。「あまりのおいしさゆえに、修行僧ですら寺の塀を飛び越えて来る」というのが名前の由来で、複雑な香りと溢れるような滋味があります。
鶏の出汁をベースにし、エシャロット、塩、白胡椒を加え、器ごと80分間蒸します。余計なものを入れず、食材を生かしているので健康的です。レンゲに載せられたツバメの巣は、グランド ハイアット 東京「チャイナルーム」の特別仕様。
「国産牛ヒレ肉 パプリカ 台湾ステーキソース炒め 陶板仕立て」は選りすぐった国産牛のフィレ肉が使われているので、非常にやわらかいです。陶板がアツアツで、肉に余熱が加えられるので、食味と食感の変化も楽しめます。隠し味にステーキソースが使われており、酸味がよいアクセント。
「鶏肉と高菜の白湯スープ麺」は素麺を使ったスープ麺で、まるでにゅうめんのようです。鶏肉の頭、豚のげんこつを8時間煮込み、6分の1にまで凝縮した白湯スープは、動物性の旨味がしっかりと感じられ、さっぱりとした素麺にぴったり。
「特製タピオカドリンク」は、13年もののプーアル茶とツバメの巣を合わせた「チャイナルーム」特製タピオカミルクティーです。ミルクアイスを載せてからプーアル茶をかけて食べるのが楽しいでしょう。タピオカが3種類も入れられており、全部で7層にもなるので、色々なテクスチャを体験できます。
背景
グランド ハイアット 東京「チャイナルーム」では毎年ゲストシェフを招聘したコラボレーションを行っており、好評を博していますが、今回グランド ハイアット 台北「雲錦」に白羽の矢が立ったのは、なぜだったのでしょうか。
「チャイナルーム」料理長である小池克昌氏がプライベートで「雲錦」を訪れて食事した際に、その味に惚れ込み、日本人にも好まれる味付けであると確信しました。そこから、是非とも「チャイナルーム」で料理を提供してほしいと熱烈にオファーし、このコラボレーションが実現したのです。
小池氏は「色々なジャンルの料理を修得しているシェイ氏の料理は、中国料理の基本が中心にありながらも独創的な世界観がある」といいます。
開催に至るまでの具体的な経緯としては、 2019年2月に小池氏が「雲錦」を訪れ、4月にコラボレーション企画を打診し、7月にはメニューが決定したということです。
提供する料理やお茶に関しては、小池氏が指定して決めました。基本的には「雲錦」の味をそのまま提供し、調味料もできるだけ台湾産を使用することにこだわっています。
これから
自ら惚れ込んだ「雲錦」コラボレーションに関して小池氏は「早速好評をいただいているので、来年も同じようなプロモーションができればと思っている」と述べます。
シェイ氏は20代の頃に4年ほど大阪の中国料理レストランで働いた経験があり、日本の食材の素晴らしさや美しいプレゼンテーションに造詣の深い親日家です。
台湾料理は油が控えめでさっぱりとした味付けが多く、沖縄料理のニュアンスも多分に含んでいるだけに、日本人の舌に受け入れられやすいでしょう。
中国や香港のホテルとのコラボレーションは数多く見かけられるものの、台湾のホテルとのコラボレーションはあまり多くないだけに、グランド ハイアット 台北「雲錦」の料理を味わえるのは、とても貴重で嬉しい機会です。
異なる3つのコラボレーション
これまでホテルの中国料理のコラボレーションをみてきました。
ヒルトン東京お台場「唐宮」は中国料理とフランス料理の珍しい組み合わせで興味を引きたて、ホテルグランドパレス「萬壽苑」は食材王国である宮城県の食材をふんだんに用いて高級料理を生み出し、グランド ハイアット 東京「チャイナルーム」は台湾の有名シェフを招聘して日本でその味を堪能できるようにしています。
異なるジャンル、食材豊富な地域、一流海外ホテルと、それぞれこだわりのコラボレーションを行っているだけに、気になるものがあれば訪れてみるとよいのではないでしょうか。