お金の知恵があれば見破れた「毎月5万円で1億円」やMARS投資の罠
■2013年も金融トラブルは絶えなかった
金融トラブルは増え続けています。消費生活センターなどへの問い合わせでも金融商品に関するトラブルが増えており、未公開株の勧誘(実際は公開予定がないのに割安で譲渡すると誘う)、外貨販売の勧誘(将来為替益が生じると勧誘し法外な手数料を取る)、といった例は衰える気配がありません。
2013年はいくつか大きな資金集めをしていた団体が破たんないし警告を受ける騒ぎを起こしました。2013年4月に大騒ぎとなったMRIインターナショナルの事件では、アメリカの医療保険の債権を回収するMARS投資という商品を日本で販売、1300億円ほど集めていたようですが、なんと投資実態がほとんどなかったことが明らかになりました。
2013年10月に問題となったのは「毎月5万円で1億円」のキャッチコピーで首都圏に大量広告を投入し話題となっていたアブラハム・プライベートバンクの海外積立投資です。海外の優秀な投資商品の購入について助言をするとしながら、広告に用いた運用実績の高い商品は顧客に提示しておらず、同社関連会社に販売報酬がキックバックされる商品を中心に提示、無登録で販売していたことが明らかになりました。
半年の業務停止命令(処分としてはもっとも重い部類)になりましたし、同社においては一部の顧客への利益供与も指摘されており、こちらもゆゆしき問題です。こちらは残高では170億円程度とされていますし、投資の実態は存在しており外部の金融商品に資産は運用されていたようです(短期での解約にはペナルティが課せられる商品だったようですが)。
金融商品のトラブルについては、ちょっとネットを検索すればあやしいことが分かる手口から、証券取引等監視委員会の調査が入るまで問題が発覚しないケースまで様々です。いずれにせよ、2013年も変わらずトラブルがあり、数千億円レベルで国民の財産が損なわれた可能性があります。
■2014年も金融トラブルはなくならない
2014年の年初から予言めいたものを行うのも恐縮ですが、おそらく今年も金融トラブルは生じることでしょう。金額ベースでの被害がどれくらいのものになるかは分かりませんが、大なり小なり金融商品を介した詐欺は続くと思われます。
こうしたトラブルについて「お上がなんとかすべきだ」と他人頼みにするのは間違いですし、おそらくムダです。なぜならこうした業者は全力でウソをつくからで、顧客だけでなく金融庁も本気で欺しにかかります。ものによっては社員すら欺していることもあり、営業マンすら実態を知らないというケースもあるほどです。
もちろん金融庁や業界団体には監督と指導をしっかりやってほしいところですが、金融商品の高度化・複雑化は続くうえに規制緩和と自由競争の時代に入った金融商品について行政がガチガチのチェックを行うことのほうがムダが多くなり、むしろ認可に時間がかかるような弊害も出てきます(実際には入り口の認可チェックより随時チェックが重要なのですが、そうすることはほとんど不可能です)。少なくとも他人頼みの発想で何とかなると考えることは適切ではありません。
しかも、こうした金融商品トラブルについては、全年齢が対象となりつつあるのが最近の傾向かなと思っています。かつては、高齢者だけがこうした金融商品の対象であり、退職金などの老後の財産が狙われていたのですが、近年は投資にチャレンジする若い世代が増えてきたこともあり、魔の手はターゲットを広げてきているのだろうと思います。
■お金の知恵を働かせて金融トラブルを防げ
本欄のタイトル「マネーウィズダム」は直訳すればお金の知恵ということになりますが、筆者のファイナンシャルプランナーとしてのコンセプトでもあります。
「お金の知識」レベルの不足は誰かに分けてもらうことが可能です。金融機関の職員が不実のことを告げて金融商品販売をすれば、損害賠償を請求することも可能です(労力はかかるし、全額回収できるとは限らないため、未然に避けられた方がマシですが)。ですから知識レベルの不足は相手に問いただせば不足を補うことができます。また、法律の変化や金融商品の高度化は絶え間なく続いているため、「最新知識」を常に個人が習得することは困難であり、必要なとき必要な知識を外部から入手すればいいのです。
しかし、「お金の知恵」を働かせることができるかは、自分自身の問題につきます。どんなインチキ金融商品であっても、誰かが勝手にハンコを押して契約した例はまれです。そもそも、「買うか、買わないか」という本質的決断と、「いくら買うか」「どれを買うか」といった部分での決断は自分が必ず下しているのです。被害者はかわいそうだと思いますが、どんな被害者も自分で決断をした瞬間があり、そのとき知恵が働いていなかったということは忘れてはなりません。
「お金の知恵」をちゃんと巡らせることができれば、「なんだかあやしいな」と素朴な疑問を持ち、その感覚を言葉にして危うきを避けることができます。たとえば、以下の3つの自問自答をするだけで、ほとんどの金融商品トラブルは回避できるはずです。
「自分にだけいい話がくるはずがない」……本当においしい話は、一口1億円以上買ってくれるお客さんに先に持って行くのが当たり前です。100万円の客を100人営業するのと同じ売り上げを1回の営業で実現できるのですから。だとしたら、おいしい話が自分に優先して届けられる理由は?と、ちょっと考えてみるといいでしょう。最近流行の劇場型の金融詐欺では、別の人が間をあけて、あなたのところに勧誘の電話をかけてくることもありますので、ダマされないようにしてください。
「必ずプラスになるうえ高い利回りなんておかしい」……あやしい金融商品のほぼすべてが、「元本割れはない」「しかし高利回り」とうたいます。率直にいって、個人向け国債の利回りの何倍も高い利回りが、元本割れの可能性なく保証されることはあり得ません。仮に海外に投資をするから高利回りになったとしても、元本割れしないとは限らず、むしろ大きく下がることもあります。下がる可能性があるからこそ、高く上がる可能性もあるわけで、そう簡単においしい話はないと考えるべきです。
「誰が、一番確実に儲かるだろうか」……投資したお金が値下がりして元本割れするリスクはあるとして、確実に、一番儲かる人は誰か、少し考えてみてください。販売時の手数料、運用中の手数料、解約するときの手数料を受け取る相手は、リスクがないけど儲かる人かもしれません。特に解約時の手数料は要注意で、運用がマイナスになろうと手数料はかかりますし、短期での解約には強烈なペナルティが科せられてほとんどお金が戻ってこないこともあります(契約時に書類にはちゃんと書かれている)。
■究極の分散投資は「全額つっこまない」こと
どうしてもチャレンジしてみたい、しかし本当にちゃんとした投資か自信が持てないという人もいます。私が「やめておいたらいいんじゃないか」と言っても、「専門家の意見を低廉な費用で得られるいいサービスだ」と言ってアブラハムの積立を契約した人もいます。
グレーっぽい、というのは言うのは簡単ですが、断言は簡単ではありません。まっとうな業者の振りをしてAIJ投資顧問会社を批判しておきながら、自分も営業停止になった金融機関もあるほどで、真贋の見極めは簡単ではないのです(繰り返しますが、彼らは全力でウソをつくことをお忘れなく)。
そこで、最後に「あなたのお金を全額なくさずにすむ究極の方法」をお教えします。それは
「全額を投入しない」
ということです。
どんなにちゃんとした商品のようで、どんなに優良な成績が期待できたとしても(そして、結果としてそうなったとしても)、手持ち資金の全額を投入してはいけません。最悪のケースになったとき、手持ちの財産のすべてを失うことになるからです。
どんなに最悪のケースになったとしても、手持ちの資金の半分しか購入しなければ、被害も半分以上になることはありません。これを「究極の分散投資」とお話ししたら、セミナー主催者に怒られたことがありますが、どんな詐欺商品も買わないで残しておいたお金までひっぺがしていくことはないのです。
欺されて老後の財産のすべてを失ったと途方に暮れる人は、「老後の財産すべてを突っ込む判断をした人」でもあります。「欺されたけれど、財産の半分は定期預金に残しておいたのでなんとかやりくりはできる」という部分を残しておくようにしましょう。
これは若い世代も同じ。「毎月5万円」が貯蓄額で、全額をアブラハムに投入するのではなく「毎月5万円貯められるが、2.5万円は定期預金で、2.5万円はアブラハムで積立投資」としておけばよかったのです(たぶん、そういう慎重な人は契約させてくれなかったと思いますが)。
投資は、まっとうなやり方であれば、自分もお金が増え、世の中も発展する、うまい仕組みです。投資信託のような金融商品は、専門家ではない個人が投資を現実に実行するための強力な手助けとなります。NISAも本格的にスタートした2014年、投資にチャレンジしてみることは悪くない選択です。
しかし、投資が私たちの身近なものになる2014年以降、ダマしの手口も私たちに近づいてきます。ぜひ、だまされずにしっかりお金を増やしていきましょう。
ほんのちょっとの「お金の知恵」が、あなたの道を明るく照らしてくれますように。