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マライアキャリーの「クリスマスの女王」商標登録出願が取消になった本当の理由

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:Splash/アフロ)

「マライア・キャリーが申請していた”クリスマスの女王”の商標登録が却下されたワケ」という記事を読みました。東スポですが内容はだいたい合ってます(ただし、「申請」→「出願」、「却下された」→「取消になった」としたいところです)。

マライア・キャリーのマネジメント事務所(Lotion, LLC)が、米国特許商標庁に出願していた”QUEEN OF CHRISTMAS”、”PRINCESS CHRISTMAS”、”QOC”という3件の商標登録出願が異議申立により取り消されたという話です。取消の理由は、エリザベス・チャンというニューヨーク・ローカルの歌手による異議申立が成功したことによります。この異議申立については、今年の8月に記事を書いています。

異議申立は認められたわけですが、米国特許商標庁が、「”クリスマスの女王”と言えば、マライア・キャリーではなくエリザベス・チャンである」と認定したというわけではありません(エリザベス・チャンはヒット作があるわけでもない(そもそもCDも出してない)のでそれは考えにくいです)。米国特許商標庁の異議申立の記録を見ると、マライア・キャリー側が異議申立に対して期限内に応答していないために、いわば欠席裁判的にエリザベス・チャン側の主張が全面的に認められ、取り消されたという結果になっています。

なお、細かい話ですが、日本の場合、異議申立は請求人と特許庁の間で話が進んでいくので、権利者は何もしなくても手続は進んでいきます(もちろん意見を述べることはできます)。米国の場合は民事訴訟のような当事者対立構造になっているので、権利者は何らかの形で反論する必要があります。

マライア側は応答期限の延長を何回か行った上で、最終的に応答しないという選択をしていますので、意図的に放棄した形に近いです。

ここから先は推測になりますが、エリザベス・チャンと戦っても勝てないと考えたというよりは、仮に「クリスマスの女王」の商標権を取得しても、かえって消費者の反発を招くだけであると、マライア側が判断したのではと思います。たとえば、「マライア・キャリー、“クリスマスの女王”の称号をめぐりドリー・パートンと競う気はないと投稿 『あなたは“全ての女王”』」といった記事を見てもそれが窺われます。

なお、この話は、たとえば、”QUEEN OF CHRISTMAS”を商標として使って香水などの商品を販売する権利を独占できるかどうかという話であって、”QUEEN OF CHRISTMAS”と呼ぶのがふさわしいのか(マライアなのか、ドリー・パートンなのか、エリザベス・チャンなのか)という話とは直接的には関係ありません。また、商標登録が取り消されても商標を使うことが禁止されるわけではないので、今後も、マライア側が、たとえば、”QUEEN OF CHRISTMAS”という商標の香水を販売することは可能です(他人が同じ名称の香水を販売しても禁止できないというだけの話です)。

なお、マライアつながりでついでに書いておくと、「マライア『恋人たちのクリスマス』 盗作訴えたミュージシャン訴訟取り下げ」というニュースもありました。過去記事にも書いたように、タイトルがかぶっているだけでまったく似ていない曲を著作権侵害で訴えるというめちゃくちゃな(おそらくは和解金目当ての)訴訟だったわけですが、自発的な取り下げで終了したようです(条件等は不明)。代理人どうしの話し合いで、マライア側が「こんな根拠のない訴訟を続けると訴権濫用で反訴する」とでも警告したのではないかなどと勝手に想像してしまいます。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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