マライア・キャリーによる”Queen of Christmas”商標登録に物言い
「マライア・キャリー、”クリスマスの女王”の商標登録をめぐって法廷闘争に発展!?」という記事を読みました。マライア・キャリーのマネージメント事務所が米国で”QUEEN OF CHRISTMAS”という商標を登録しようとしたところ、別の歌手が抗議してUSPTO(米国特許商標庁)に異議申立をしたという話です(なお、行政府の中の話なので”法廷闘争”というのは不正確です)。
抗議を行った2人の歌手の方は、「マライアが求めるような形で、クリスマス関連のことをひとりの人物が永久的に抱え込んだり、独占したりしてはいけないと強く感じています。」「マライア・キャリーのトレードマークが“クリスマスの女王”だっていうのは本当? 私がそのタイトルを使えないというのはどういうこと?」と言っているようですが、商標権というものを理解しておらず、言葉そのものが独占されるかのように考えているように思われます。この勘違いは日米共通のあるあるだなあと思いました。
さて、問題の商標出願は90571927号で、昨年の3月に出願されています。指定商品は香水、宝石、印刷物、衣服、音源、乳飲料、クッキー、酒、オンラインショップの提供、コンサートの提供等、様々です。”QUEEN OF CHRISTMAS”を商標登録するということは、これらの商品の販売やサービスの提供を行う際にブランドとして使える独占権を得られるということなので、マライア・キャリー以外の人をQueen of Christmasというあだ名で呼べなくなるとかそういう話ではありません。なお、米国の商標制度では(日本と異なり)実際に商標を使用している証拠を提出しないと登録はされませんので、出願時点で指定していた商品やサービスがすべて登録されるとは限りません。
この商標出願は審査が完了して7月12日に出願公告が行われ、第三者からの異議申立がない限り登録に進む予定であったのが、上記記事にあるように、抗議を行った2人のうちの1人であるエリザベス・チャンさんという方が(弁護士を通して)異議申立を行ったということになります。
異議申立請求の内容を大雑把に書くと、長年の間、クリスマスソングだけを歌唱・作曲してきたことで、米国の消費者はQueen of Christmasと言えばElizabeth Chanであると認識するようになった。ゆえに、(マライアの事務所による)”QUEEN OF CHRISTMAS”の登録は消費者の誤認混同を招くといった主張がされています。米国の商標制度では、登録していなくても使用しただけで商標権が生じるので、異議申立で無登録商標の誤認混同を主張することは可能です。もちろん、誤認混同が生じるかの判断には商標の周知性等が考慮されます。
このエリザベス・チャンという方は一部では有名なのかもしれませんが、私は存じませんでした。Wikipediaのエントリーもないようです。また、たとえば、Queen of Christmasを商標として使用していた証拠として、以下のような物件が提出されていますが、これって単にChanさんがQueen of Christmasというあだ名で呼ばれていたというだけであって商標的使用ではないのではないでしょうか?
他にも、「マライアは自分がQueen of Christmasと呼ばれるにはふさわしくない、もしQueen of Christmasがいるとしたら聖母マリアだろうと雑誌のインタビューで言っていた」との主張もされています(それは単に謙遜しているだけだと思いますが)。
ちょっといくら何でも無理があるのではという気がします。過去記事「マライア・キャリーさん、タイトルかぶりを著作権侵害として提訴される」にも書きましたが、米国セレブがこの手の訴訟(今回は訴訟ではないですが)をされがちなのは、ワンチャンで和解金目当て(本人は真剣なのかもしれませんが、周囲が和解金目当てでたきつける)という要素もあるのかもしれません。