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水は気候変動の炭鉱のカナリア「世界の水資源報告書」の厳しい内容。2050年までに50億人超が水不足に

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
チチカカ湖では記録的な水位低下が発生した(写真:ロイター/アフロ)

「世界水資源報告書2023年版」とは?

世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)が、「世界水資源報告書2023年版」を発表した。世界気象機関は、国連の専門機関で、気象、気候、水文の観測やデータ共有、研究を通じて、気候変動や自然災害への対応を支援する。報告書の作成は3年目に入り、湖沼の水量、土壌水分データ、氷河や雪の水量に関する情報が追加され、これまでで包括的な内容となった。

報告書原文:State of Global Water Resources report 2023


報告された6つの課題

では、どんな内容が取り上げられたのか。詳細は上記の原文に譲るが、以下の6点にまとめた。

1)気温上昇と極端な気象現象
2023年は史上最も暑い年となり、ラニーニャからエルニーニョへの移行やインド洋ダイポール(IOD)の影響で、干ばつと洪水の両方が世界各地で発生。とりわけアフリカでの人的被害は大きく、リビアではダム決壊により1万人以上が犠牲となり、大アフリカの角や他の地域でも深刻な被害が生じた。

2)広範な干ばつと経済損失
アルゼンチンやブラジル、米国南部など広範囲で干ばつが続き、アルゼンチンではGDPの3%が損失し、アマゾン川やチチカカ湖などで記録的な低水位が観測された。

3)河川流量の減少
世界の河川流域の50%以上が例年を下回る流量を記録。北米や南米の大規模な河川(ミシシッピ川やアマゾン川)で過去最低の水位になった。一方、アフリカ東海岸やニュージーランド北島などでは洪水が発生した。

4)貯水池と湖の水位の低下
インドや北・南米、オーストラリアなどで貯水池の流入量が低下する一方、アマゾンのコアリ湖では低水位による水温上昇が発生し、トゥルカナ湖(ケニアとエチオピア間)では通常を上回る水位が見られた。

スイス・モルテラッチ氷河 気候変動で融解進む
スイス・モルテラッチ氷河 気候変動で融解進む写真:ロイター/アフロ

5)地下水位の低下と土壌の乾燥
干ばつによる地下水の枯渇が北米やヨーロッパで確認され、長期間の過剰採取がチリやヨルダンで続いている。また、北米、南米、北アフリカ、中東で土壌の乾燥が顕著だった。

6)氷河の溶解
氷河はこの50年間で最大の質量損失を記録し、特に北米西部やヨーロッパアルプスでの融解が進行し、スイスでは過去2年間で氷河体積の10%が失われた。これは水の安全保障に深刻な影響を与えている。


 WMO(世界気象機関)事務局長のセレステ・サウロ氏は「水は気候変動の炭鉱のカナリア。激しい降雨、洪水、干ばつなどの異常気象は、命やエコシステム、経済に大きな損害をもたらす警告信号だ。氷や氷河の融解は、多くの人々の長期的な水の安全を脅かしている」と述べた。報告書では、2050年までに世界の50億人超が水不足に直面する(現在は36億人)と強調されている。

いますぐにやるべきことは何か

報告書では、以下のような対応が緊急に求められると強調している。

1)水資源のモニタリングを強化する
 包括的なモニタリングとデータの国際共有により、水の利用状況と不足を正確に把握し、管理と予測を適切に行う。

2)越境協力を推進する
 複数国にまたがる水資源管理では、干ばつや洪水に備えた協力体制が不可欠である。

3)早期警報システムを整備する
 気候関連の極端な現象に備え、2027年までに全ての人が早期警報システムを利用できる体制を整える。

4)持続可能な水資源利用を行う
 地下水の過剰採取を抑え、灌漑や産業用水の効率化、雨水利用を促進し、水の持続的利用を確保する。

5)氷河融解の対策をする
 氷河融解による水供給リスクに対応するため、貯水の強化と地域ごとの需給バランスに応じた計画が必要である。

7)気候変動への緊急対応を行う
 温室効果ガス削減を推進し、再生可能エネルギーへの転換や産業・農業の効率化を図る。

 気候変動による水循環への影響は、日本のメディアが伝えている以上に大きく、私たちの日常生活にもさらに深刻な影響を与えるだろう。どこか遠い国の話と考えず、真摯に対応していくべきだ。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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