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「水道を守る鍵」はここにある!『小規模な水供給システム』ー地域に根差した持続可能な水道の未来ー

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
小規模分散型の選択肢(筆者作成)

人口減少や財政難に直面し、水道の持続が大きな課題となっている。

これから水道インフラを考えた時、これまでの大きな技術を維持するだけでなく、小さな技術を組み合わせていくことが肝心とされる。

大きな施設で浄水処理し、そこから水を道に通して運ぶのが「水道」だとすれば、給水ポイントを小さくして分散し、水の道を極力短くし、数個から集落を対象とした「水点」をつくる。浄水やポンプ導水にかかるエネルギーを減らし、安価で管理しやすく、災害に強い方法を導入する。

安全な水を安価に持続的に供給するという目的が達成されるなら、手段は柔軟でよいはずだ。ただし、これまでは小さな技術、分散型の技術についての知見はまとまっていなかった。

その点、『小規模な水供給システム 安全な飲料水の持続可能な供給に向けて』(伊藤禎彦、浅見真理、牛島健、小熊久美子、木村昌弘、増田貴則、山口岳夫/水道産業新聞社)は、全国各地の現状を調査し、小規模水供給システムの抱える課題、その対応策、さらには未来志向の提言を網羅的にまとめた一冊で参考になる。

書影:筆者撮影
書影:筆者撮影

本書にまとめられた調査によると、小規模水供給システムの約34%が地下水や井戸水を使用しており、表流水を使用する集落ではろ過施設が69%に導入される一方、塩素消毒施設の導入率は3割程度にとどまる。

また、管理負担の重い作業として、取水設備の管理、ろ過槽の清掃、漏水対応などが挙げられ、1人で対応するケースが半数を超えることが明らかになっている。料金体系では、多くの集落が定額制を採用しており、月額料金の中央値は500円以下と低価格であるが、これが持続可能性の障壁ともなっている。

筆者撮影
筆者撮影

本書には以下の内容が示されている。

1)小規模水供給システムの現状と課題

  • 実態調査:全国の小規模水供給システムの現状を把握し、運営状況や技術的課題を分析
  • 法的枠組み:水道法適用外の小規模施設に対する法的規制の現状と、その改善点を検討

2)持続可能な運営モデルの提案

  • 経営戦略:人口減少や過疎化が進む地域における持続的な運営モデルを提案し、財政的な持続可能性を探る
  • 地域連携:地域住民や自治体との協力体制の構築方法を示し、コミュニティベースの管理の重要性を強調

3)技術的アプローチと革新

  • 水質管理:小規模システムに適した水質管理技術や、簡便な水質検査方法を紹介
  • 設備更新:老朽化した設備の更新や、低コストで効果的な技術導入の事例を取り上げる

最後に、地域に即した未来志向の水道づくりが提唱され、

 ①水供給形態の選択と維持管理方法・技術

 ②住民の参画と地域自律管理型システムの構築

 ③広域連携の必要性と都道府県の役割強化

 ④制度の改善と運用面での柔軟性の確保

が強調されている。

水道政策担当者、水道職員には大いに参考になるし、人口減少地域の住民にとっては地域の現状に即した水供給体制の未来像を考えるきっかけになる。本書の提言は、小規模水供給システムの課題解決を目指すだけでなく、日本全体の水道事業の持続可能性を高めるための指針となるだろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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