EVだから冷却不要でグリルレスデザイン!? いつまでたっても無くならない誤解を斬る!
電気自動車(EV)はガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車(内燃機関車)のように発熱しないから、冷却系が不要になってフロントグリルも必要なくなる、と思っているかた、いないでしょうか? ところが実際には、EVにもラジエーターや冷却ファンは付いているし、むしろ内燃機関を搭載するクルマより、緻密な温度管理が必要なのです。
電気機器でも冷却が必要だということは、身近なものを観察すればわかります。スマートフォンは充電したり重いアプリを動かしたりすれば熱くなりますし、パソコンもゲーム用のハイスペックマシンになると、水冷システムと冷却ファンが必須になります。電気機器でも電気を流せば抵抗によって発熱し、それは電流の2乗に比例して大きくなるからです。
EVは冷却必須な電気機器の固まりだ!
そういう目でEVを見てみましょう。バッテリーには、スマートフォンと同じリチウムイオン電池を大量に搭載しています。そこからクルマを走らせるだけの電流を取り出すわけですから、急加速や急速充電を繰り返せば、あっという間に熱くなってしまいます。一般にリチウムイオン電池の作動最適温度は15〜25度(摂氏)とされており、40度を越えたあたりから容量低下が顕在化し始め、80度を超えると熱暴走が始まります。ですから、80度を超えないように、冷却する必要があるのです。
また、電流を制御するインバーターには、多数の半導体が使われています。半導体も熱に弱い部品で、作動保証温度はだいたい150度です。
モーターの要である磁石も、熱に弱い部品のひとつです。永久磁石は高温にさらされると、磁力が失われて戻らなくなる”減磁”という現象が起こります。EVのモーターに使用されているネオジム磁石は、だいたい320度で減磁が起きるとされています。
EVの冷却システムは、エンジン車よりむしろ複雑!
ですから内燃機関同様、発熱する機器を冷却する必要があるのですが、内燃機関車よりむしろ厄介な性質がふたつあります。ひとつ目は、機器によって管理すべき適温が異なること。ふたつ目は、管理すべき温度が内燃機関より低いことです。
すでに書いてきたように、リチウムイオン電池の管理温度は80度以下、インバーターは150度以下、モーターは320度以下です。これをひとつの冷却システムで管理するのは困難ですから、それぞれ独立した冷却回路が必要となります。冷却方法も、水冷や空冷、油冷のほか、エアコンシステムの冷媒を利用する方法などさまざまですが、たいていのEVは、それぞれのコンポーネントに専用の冷却システムを配置しています。
また、管理温度が低いと、冷却効率が下がります。熱の移動というのは水の流れかたと良く似ていて、高いほうから低いほうへと流れ、落差が大きいほど移動速度が速くなります。そこでリチウムイオン電池の管理温度を思い出して下さい。電池そのものを80度以上に上げたくないわけですから、冷却水温はそれより低い必要があり、安全マージンを見込めば50度程度が上限になります。一方で、近年は日本でも真夏になると40度を超える日が出てきていますから、温度差は10度弱しかありません。これではなかなか温度は下がりませんから、内燃機関車と同等か、むしろ大きなラジエーターを付ける必要があります。
ちなみに内燃機関の場合、冷却水が沸騰しないように圧力をかけ、100度+αで使いますから、大気温との差は60度ぐらいは確保でき、真夏でも問題なく冷却できます。
EVにグリルレスデザインが多いのはイメージ戦略!
「そうは言っても、実際にEVにはグリルレスデザインが多いんじゃない?」と思うかたもいるかも知れませんが、バンパーの下のほうを見ると、冷却風を取り入れるための穴が必ず開いており、その面積は内燃機関車とほとんど変わりません。グリルレスにしているのは、EVらしく見せるためのイメージ戦略と、空気抵抗を減らすことが電費(航続距離)に直結するのが理由です。
内燃機関車の場合、高速走行になるとエンジンの効率が高い領域が使えるようになるため、空気抵抗が増えた分が相殺され、燃費の悪化は目立たなくなります(むしろ100km/hぐらいまでなら良くなることが多い)。しかしモーターは、高回転になると効率が落ちますから、空気抵抗の増加が目に見えて電費に響くのです。
もちろん内燃機関車でも、エンジンルームに無駄な空気を取り込まないほうが、空気抵抗が減って燃費は良くなりますから、必要以上に空気を取り込みたくないのは同じです。ですから大きなグリルに見えても、実際に穴の開いている面積はごく少ない、というのが最近のトレンドです(ご自身のクルマを一度、観察して見て下さい)。