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遊具による事故を防ぐには?

坂本昌彦佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医
(写真:イメージマート)

GWで、あちこちの遊び場で過ごすお子さんも多いかと思います。

遊び場は子どもの発達に不可欠で、彼らの想像力や創造性を育むとても大切なものです。

いっぽうで、遊び場の遊具はケガのリスクとも隣り合わせです。わが国では全国集計したデータはありませんが、米国では年間21万人が遊具でのケガで医療機関を受診していると報告されています[1]。子どもにとって大切ですが、ケガと無縁ではない遊び場をより安全に楽しむためには、どのようなケガが起きやすく、どのような予防策が有効かを知っておくとよいと思います。

そこで今回は遊び場の遊具に関するケガについてまとめました。

遊具の事故は春と秋に多く、6歳以下に起こりやすい

消費者庁に寄せられた約1500件のデータを分析したところ、遊具による子どもの事故報告は春と秋に多く、最も多いのが5月でした[2]。

遊具の事故発生月別データ(n=1306  消費者庁 文献2より抜粋)
遊具の事故発生月別データ(n=1306 消費者庁 文献2より抜粋)

また、最も多いのは4-5歳で、6歳以下が7割を占めていました。

遊具の事故を起こした年齢(n=1364  消費者庁・文献2より筆者作成 縦軸は人数)
遊具の事故を起こした年齢(n=1364  消費者庁・文献2より筆者作成 縦軸は人数)

遊具の種類としては滑り台が最多で、次いでブランコ、鉄棒と続いています。これは海外での報告でも同じ傾向です[3]。

事故を起こしやすい遊具(n=1369 消費者庁・文献2より抜粋 縦軸は人数)
事故を起こしやすい遊具(n=1369 消費者庁・文献2より抜粋 縦軸は人数)

これから予想できるように、ケガの多くは転落や転倒です。

海外の報告[4]では、1.5mの高さを超えると遊具での骨折が増えることが示されており、遊具のケガのリスクが上がる要因として、手すりやガードレールのない遊具、遊具の周囲が衝撃を吸収しない固い面であることが指摘されています。

遊具で首が締まって窒息してしまう事故も

一方で、遊具などで首が締まって窒息する重大事故もあります。

昨日、保育園で3歳の男の子が首に遊具のロープが巻き付いて意識不明の重体となる事故が起きてしまいました。

保育園で遊具のロープが3歳児の首に巻き付き意識不明の重体 埼玉・久喜市

遊具で遊んでいて窒息してしまった事故はこれまでにも起きています。海外では具体的な状況は不明ですがロープ製のブランコで首が締まって亡くなったケースもあるようです[5]

日本小児科学会の報告では2例報告されているのでご紹介します。

水筒の紐が遊具に引っかかり首に絡まった5歳児

1例目は5歳4カ月女児の例です[6] 。遊具から降りようとしたときに水筒のひもが遊具に引っかかり首に絡まって窒息状態となり、1分ほどで失神しましたが、園庭にいた数名の小学生男児がすぐに気づき速やかに救助しました。2分ほど窒息の状態でしたが、1分ほどで意識回復され病院を受診し、特に後遺症もなく退院しています。首にかけるものを装着したまま遊ばないことが予防策になります。

園庭の古い遊具の柵に頭が挟まって窒息しかけた3歳児

2例目は園庭の遊具により窒息となった3歳11か月女児のケースです [7]。これは40年以上前に設置された遊具で、柵をくぐろうとして、頭が挟まり引っかかって窒息したケースでした。幸い生存退院しましたが、この件は古い遊具で柵の隙間の基準が現在の安全基準と合っていないこと等が原因でした。そのような古い遊具は今でも各地に残っており、改めて古い遊具は点検が重要です。

保護者が危ないと感じた遊具があれば、管理者や消費生活センター(消費者ホットライン:電話番号188(いやや)番)に連絡することで将来の事故を減らすことにも繋がります。

遊具に関する事故を予防する5つのポイントとは

以上を踏まえ、遊具に関する事故の予防策としては以下のポイントが重要です。

1.施設や遊具の対象年齢を守る

2.6歳以下の事故が7割を占めているため、6歳以下の幼児には保護者が付き添う

3.夏場は高温になる遊具や、雨に濡れて滑りやすくなる遊具があるので天候に留意する

4.公園で遊ぶときはひもやフードのついた服を避ける。

5.カバンや水筒をかけたまま遊具で遊ばない。

なお、4と5は子どもの服装や持ち物が引っ掛かったり首に絡まって死亡する事故が報告されているためです。子ども服の安全基準については経済産業省が分かりやすい資料を制作しています[8]

経済産業省 子ども服の安全基準、知っていますか?(文献8より)
経済産業省 子ども服の安全基準、知っていますか?(文献8より)

なお、正しい遊び方を守らせることは非常に大切ですが、なかなかそれを徹底することは至難の技であることも保護者の皆さんは実感されることかと思います。子どもは想像力を目いっぱい使って遊ぶので、想定通りの遊び方をするとは限りません。

保護者への注意喚起だけでなく、重大事故につながりにくい設計など、メーカー側による環境整備も同時に進めていくことが大切です。

今回は遊具にまつわるこどもの事故についてご紹介しました。

事故を未然に防ぐために少しでもお役に立てればと思います。

参考文献

1.Vollman D, Witsaman R,et al. Epidemiology of playground equipment-related injuries to children in the United States, 1996-2005. Clin Pediatr (Phila). 2009 Jan;48(1):66-71. PMID: 18648079.

2.消費者庁. News Release 遊具による子供の事故に御注意!. 2016.

3.Loder RT. The demographics of playground equipment injuries in children. J Pediatr Surg. 2008 Apr;43(4):691-9. PMID: 18405717.

4.Richmond SA, Clemens T, et al. A systematic review of the risk factors and interventions for the prevention of playground injuries. Can J Public Health. 2018 Feb;109(1):134-49. PMID: 29981068.

5.Kumral B, Ozdes T, et al. Accidental deaths by hanging among children in Istanbul, Turkey: retrospective analysis of medicolegal autopsies in 33 years. Am J Forensic Med Pathol. 2014 Dec;35(4):271-4. PMID: 25310372. .

6.日本小児科学会. Injury Alert 類似事例「水筒の紐が遊具に引っかかったことによる縊頚」,2020.

7.日本小児科学会. Injury Alert No.27 遊具による縊頚, 2011.

8.経済産業省国際標準課. 子ども服の安全基準、知っていますか?.

佐久医療センター小児科医長 日本小児科学会指導医

小児科専門医。2004年名古屋大学医学部卒業。現在佐久医療センター小児科医長。専門は小児救急と渡航医学。日本小児科学会広報委員、日本小児救急医学会代議員および広報委員。日本国際保健医療学会理事。現在日常診療の傍ら保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした「教えて!ドクター」プロジェクト責任者を務める。同プロジェクトの無料アプリは約40万件ダウンロードされ、18年度キッズデザイン賞、グッドデザイン賞、21年「上手な医療のかかり方」大賞受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2022大賞受賞。

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