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中国発の新型コロナウィルスはアフリカ経由で拡散するか

六辻彰二国際政治学者
アフリカ・ガーナの空港で体温を測られる乗客(2020.1.30)(写真:ロイター/アフロ)
  • WHOは新型コロナウィルスがアフリカで拡散することに警戒感を募らせている
  • その背景には、アフリカにおける医療体制の貧弱さだけでなく、中国との間の人の移動が急増していることがある
  • アフリカ経由での新型コロナウィルス拡散の懸念から、武漢や中国とのヒトの往来だけ注意していても不十分といえる

 中国発の新型コロナウィルスは、アフリカを経由して世界に拡大する恐れが高まっている。この地域での拡散を防止することは、日本を含む各国にとって、自らを守ることにもつながる。

アフリカへの懸念

 世界保健機関(WHO)は1月31日、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。

 この声明のなかでWHOは「とりわけぜい弱な国や地域に予防や対策で支援する」とも述べている。ここでいう「ぜい弱な国や地域」とは、要するに医療・衛生が整っていない貧困国を指す。

 なかでも懸念されているのが、アフリカでの感染拡大だ

 2月2日段階で、アフリカ大陸では新型コロナウィルスに感染した例は確認されていない。

 しかし、WHOが非常事態を宣言する以前から、アフリカでは感染の噂が飛び交っていた。例えばエチオピアの厚生大臣は1月28日、4人を検査中であることを認めたうえで「まだ確認されていない」、「新型コロナウィルスの感染者が出たというのはフェイクニュース」と述べ、パニックの広がりに警戒感を示した。

 非常事態宣言に合わせてWHOは、感染拡大のリスクが特に高い国としてアフリカ13カ国をあげていたが、それ以降もボツワナが「確認はされていないが感染拡大が疑われる国」に加えられるなど、その対象は増えている。

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なぜアフリカか

 アフリカはこれまで、2014年にリベリアなどで発生したエボラ出血熱などの感染症にしばしば見舞われてきた。つまり、感染症の拡大には慣れている。

 その経験を踏まえて、アフリカ最大の人口を抱えるナイジェリアの疾病管理センターの所長はアル・ジャズィーラのインタビューに「これまで感染症の検査・治療の体制を整えてきた」と自信を示した。

 また、空港などでの水際対策も強化されており、例えばナイジェリアの空港では武漢からの渡航者に体温チェックなどを行い、中国への不要不急の渡航を遅らせるよう勧告している。WHOの勧告を受け、同様の措置はアフリカ各国で進められている。

 その一方で、一口にアフリカといっても医療水準には差があり、南アフリカのように比較的整っている国もあるものの、貧困国が多いために医療体制は総じて貧弱だ。例えば、世界銀行の統計によると、住民1000人当たりの医師の数だけを比べても、日本(2.4人)やアメリカ(2.6人)といった先進国とアフリカ平均(0.2人)の間には大きな差がある。

 そのうえ、約10億人いるアフリカ大陸にはWHOの施設が28カ所にあるが、このうち新型コロナウィルスに感染しているかを照会できるのは2カ所しかない。そのため、ほとんどの国では、検査結果の照会は国外にある研究所に頼るため、時間もコストもかかる。

 このように医療体制が貧弱なアフリカには、医師が極端に不足している場所も多い。紛争などの影響で、アフリカには1800万人l以上の難民や国内避難民がいるが、難民キャンプのように人が密集しているところで感染者が出れば、爆発的に広がる恐れもある。

中国との往来の増加

 こうした懸念に拍車をかけているのが、アフリカと中国の間の人の往来の活発化だ

 中国の加速度的なアフリカ進出により、北京など中国の主要都市からはアフリカ各地に向けて直行便が就航している。

 それにともない、アフリカと中国の間の渡航者は増え続け、2018年にはのべ254万人にのぼった。

 先述した、WHOが特に警戒を促した13カ国は、中国との人の往来がとりわけ多い国だが、そのなかにはエチオピアなど中国からの直行便がある国も含まれる。

 2003年に香港を中心に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の場合、アフリカでの感染者はWHOに報告された限りで南アフリカでの1人だけだった。しかし、中国との人の往来が当時と比べて飛躍的に増えていることは、アフリカがSARS以上に新型コロナウィルスの影響を受けやすくしているのだ。

 もっとも、アフリカと中国の間の人の往来は、中国と他の国・地域の間のそれと比べて多いわけでもない。

 例えば、日本には観光客だけでも2018年段階で年間のべ838万人が中国からやってきた。これだけでも、先述のアフリカ―中国間の3倍以上にのぼる。

 しかし、先述のように医療体制が貧弱な国が多いため、アフリカに中国から新型コロナウィルスが持ち込まれれば、感染が広がるリスクは日本などより高いとみてよい。

アフリカ経由のパンデミックを防ぐために

 こうしてみたとき、中国発の新型コロナウィルスがアフリカを経由して世界に拡散する危険性が現実味を帯びてくる。

 もともと中国政府が武漢からの人の移動を制限した段階で、すでに新型コロナウィルスの感染者は海外を含む各地に移動していたとみられる。したがって、米メリーランド大学のキャサリン・ワーズノップ教授が指摘するように、武漢あるいは中国との往来を制限したとしても、それによる感染拡大の防止効果は限定的だろう

 だとすれば、日本にとっても、中国からの人の移動にさえ気をつけていればよいというわけにはいかず、この分野でアフリカを支援して拡散を防止することは、自らを守ることにつながるといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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