ジェイムズウェッブが「史上最遠の銀河」を新発見!異常だらけで宇宙論が揺らいでいる…
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「観測史上最遠にある、異常な銀河を新発見」というテーマで動画をお送りしていきます。
ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、観測史上最も遠くにある2つの銀河を発見したと、2024年5月末に発表がありました。
2つの銀河のうち一方は、天体の観測史上最遠記録を更新するほど遠くにあり、さらに宇宙論の定説を揺るがす異常な特徴が確認されています。
●JWSTの深宇宙探査
2021年12月25日には、あのハッブル宇宙望遠鏡の後継機と期待される「ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」の打ち上げが成功しました。
ハッブル宇宙望遠鏡は高度約570kmを周回し、そこから宇宙を観測していたのに対し、JWSTは太陽-地球系の「ラグランジュ点2(L2)」というところから観測を行います。
ここは地球から150万kmほど離れた場所です。
そこで様々な調節を済ませ、2022年7月から本格的な科学観測を始めることに成功しています。
それから天文学の歴史を塗り替えるような大きな発見をいくつももたらしました。
これまでの人類の観測から、地球から遠方の天体からやってきた光には、その波長が伸びる「赤方偏移」と呼ばれる現象が起きていることが知られています。
これは遠方の天体からやってきた光が地球に届くまでの過程で、宇宙空間の膨張の影響を受けて徐々に波長が伸びているのだと解釈されています。
そして地球からより遠い天体から放たれた光ほど、地球に辿り着くまでの過程でより長い時間宇宙膨張の影響を受けるため、赤方偏移が顕著になります。
逆に、天体からの光を分析して赤方偏移の度合いを調べれば、その光がどれほど昔に天体から放たれたものであり、放射源天体がどれほど遠くにあるのかを推定することができます。
非常に遠方の天体が放った光は、地球に到達する頃には赤外線の波長にまで伸びていることがあります。
JWSTは圧倒的な性能により、そのような超遠方の天体由来の微弱な赤外線をもとらえることができるため、深宇宙探査の分野でも大きな成果を挙げています。
実例として、JWSTを用いた深宇宙探査プログラム「JWST Advanced Deep Extragalactic Survey(JADES)」のチームは2022年、赤方偏移の度合いを示す「z」の値が13.2の銀河「GS-z13-0」を発見しました。
z = 13.2は、138億年前のビッグバンからわずか3億2500万年後の超初期宇宙に放たれ、現在の地球で観測された光であることを示しています。
●最遠の銀河を新発見!
JADESにより、観測史上最も遠くにある2つの銀河を発見したと、2024年5月末に発表がありました。
正確な分析により、「GS-z14-0」と「GS-z14-1」という2つの銀河の正確な赤方偏移の値が求められています。
正確な赤方偏移を求めるには、銀河からやってきた様々な波長の光を分光し、波長ごとの強度の分布(スペクトル)を明らかにする「分光観測」を行う必要があります。
星形成が活発な銀河の周囲にある水素ガスは、121.6 nmより短い波長の光を吸収します。
よって121.6 nmを下回ると、急激に光が弱まります。
スペクトルに見られるこの特徴を「ライマンブレイク」と呼びます。
遠方の天体からの光を分光観測し、ライマンブレイクが見られる波長が従来の121.6 nmに対してどれだけ伸びているのか(図の右側にシフトしているか)を調べることで、赤方偏移zの値を特定できます。
このような分析により、「GS-z14-0」の光はz = 14.3で、ビッグバンからわずか2億9000万年後に放たれた光であり、「GS-z14-1」の光はz = 13.9で、ビッグバンから3億年後に放たれた光であることが判明しました。
これらの2天体は、人類の観測史上最も遠い銀河のツートップとなっています。
●宇宙論を揺るがす異常
新発見の銀河のうち、特に「GS-z14-0」は特異な性質がいくつか見受けられており、さらに大きな話題を呼んでいます。
まずこの銀河は異常に明るいのです。この3つの超遠方の銀河のスペクトルの比較でも、最も遠いはずのGS-z14-0がずば抜けて明るいことが見て取れます。
また、地球から観測できるほど明るい部分の直径が1600光年以上もあることも注目に値します。
特に明るい銀河の多くは、銀河中心にある超大質量ブラックホールの周囲の降着円盤などといった構造が明るさの原因であるため、明るい領域は点のような小さい範囲にしか見えません。
一方でGS-z14-0の場合、直径1600光年という広範囲で十分な明るさを持ちます。
研究者たちは、この光が誕生したばかりの星によって生み出されていると考えています。
また驚くべきことに、GS-z14-0には酸素が存在することが判明しています。
酸素は宇宙誕生直後には存在せず、恒星の内部で起こる核融合反応で形成され、恒星が爆発することで宇宙に存在するようになりました。
つまり酸素の存在は、今観測している光を放った瞬間以前に、この銀河で既に多くの恒星が死んでいることを示します。
宇宙に銀河が誕生し始めたのはビッグバンから2億年後と考えられているため、この酸素は1億年未満の短い期間で生成されたことになります。
最遠の銀河に見られるこれらの異常は宇宙初期において、これまでの銀河形成の理論では説明できないほど、大質量の銀河が急速に形成されたことを示す、既知の中で最も特徴的な証拠となります。
●宇宙は267億年前に誕生した!?
JWSTの超初期宇宙の探査で、極めて短い期間で高度に成長した天体が数多く発見されたことにより、徐々に「宇宙の年齢が138億歳である」という定説にも疑問が向けられつつあります。
そんな中オタワ大学の研究チームは2023年7月、宇宙は267億年前に誕生した可能性があるという、驚くべき新説を提唱しました。
研究チームは現在の標準宇宙モデルであるビッグバン理論に、「疲れた光仮説」と「時間変化する結合定数」という概念を組み込んだハイブリッドな新理論(以下CCC+TLモデル)を提唱しました。
疲れた光仮説は、宇宙は始まりも終わりもなく、永遠不変であると考える「定常宇宙論」の主な論拠であり、宇宙はビッグバンから始まったとする「ビッグバン宇宙論」とは相容れないものであるというイメージが一般的です。
ビッグバン宇宙論においては、赤方偏移は「宇宙膨張」によるものであると解釈しています。
地球に届くまでの過程で、空間の膨張の影響を受けた光はその波長が伸びてしまう、というわけです。
一方定常宇宙論派は、赤方偏移を「光が宇宙を旅する過程で他の何かと作用し、エネルギーが減衰した結果」であると解釈しています。
このように遠方から来た光はエネルギーが減衰しているという仮説を「疲れた光仮説」と呼びます。
疲れた光仮説が正しい場合、宇宙が膨張していなくても赤方偏移を説明できるため、これは定常宇宙論と矛盾しません。
この疲れた光仮説が正しいとするのが定常宇宙論派の主な主張となります。
ビッグバン宇宙論と疲れた光仮説は、イメージとは裏腹に必ずしも矛盾するものではなく、CCC+TLモデルではこれらを共存させています。
またCCC+TLモデルに組み込まれた「時間変化する結合定数」について、「結合定数」とは、粒子間の相互作用を支配する基本的な物理定数のことで、この定数の値によって、粒子同士がどのように作用しあうのかが決まります。
定数という名前が付いていますが、時間と共に変化していた可能性があるそうです。
CCC+TLモデルでは、この時間変化する結合定数という概念も取り入れられています。
このCCC+TLモデルによって、JWSTが超遠方の宇宙で観測した超初期の銀河の成長があまりに早いという、標準的な宇宙モデルで説明できない問題を上手く説明できます。
新理論によると、宇宙はなんと267億年前に誕生したという結論が得られるそうです。
138億年という定説と比べると2倍も古くから宇宙が存在していることになります。
そしてこれによって超初期宇宙で観測された銀河の形成期間が、数億年というわずかな期間から数十億年という期間に延長されます。
成長に十分な時間があるので、理論と観測の間に矛盾が生じなくなります。
○ダークマターが存在しない!?
CCC+TLモデルを発表したオタワ大学の同じチームは、今度は2024年3月に、CCC+TLモデルについて新たな検証を行った論文を発表しました。
研究チームはCCC+TLモデルの検証を行ったところ、別のチームが発表した、銀河分布や宇宙背景放射などのいくつかの観測結果と矛盾がないことが示されたとのことです。
しかしCCC+TLモデルが既存のデータと矛盾せずにうまく機能するのは、未知の物質ダークマターがこの宇宙に存在しない場合のみだといいます。
さらにこの理論において、宇宙の加速膨張の原因は「宇宙が膨張するにつれて物質の重力が弱まるため」であり、ダークエネルギーをも必要としないそうです。
よってまとめると、CCC+TLモデルが仮に正しければ、宇宙の年齢が267億年に延長されることで初期宇宙に存在する過度に成熟した銀河の存在を上手く説明できるだけでなく、宇宙論において最大級の問題であるダークマターやダークエネルギーの謎まで同時に解明されることになります。
研究チームによると、「私の知る限り、ダークマターの存在を否定しつつ、広く信じられている一般的な宇宙論に基づいた観測結果とも矛盾しない論文は、私の論文が初めてである」とのことです。
ただし宇宙の年齢が138億歳であるという定説や、ダークマターやダークエネルギーを含めた標準的な宇宙論は、いくつもの明確な根拠があるからこそその存在が広く信じられています。
よってCCC+TLモデルのように、定説から大きく外れた理論が広く受け入れられるようになるまでには、乗り越えるべき壁がいくつも立ちはだかります。
とはいえ科学はこのように、様々なアプローチの理論が現れては、それらが検討されることで進化していきます。
今回の新理論が正しいのかは今後検討されていくことですが、その過程自体が科学を成長させる尊い流れです。