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ウエストランド優勝「M−1」 山田邦子の「不思議な採点」の影響はどこまであったのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

「M−1」2022年の審査員の採点は割れていた

M−1グランプリ2022は、ウエストランドが優勝した。

折れずにまっすぐ「悪口」を言い続けて突き抜けた。

ファイナルラウンドで、7人の審査員のうち6票を集めて、圧勝であった。

ファーストラウンドの採点は割れた。

決勝ラウンドに進んだのは、さや香、ロングコートダディ、ウエストランドである。

しかし、ファーストラウンドの採点で、この3組をきちんと上位3組に入れた審査員はいなかった。

割れている。

それぞれの審査員が4位以下にしたパフォーマー

たとえば昨年2021年大会だと、ファイナルに進んだ3組(オズワルド、インディアンス、錦鯉)をしっかり上位3組に採点したのは、3人いた。(松本人志、ナイツ塙、オール巨人)

今年はいなかった。

でもまあ、3組のうち2組は、審査員7人とも上位3組に入れている。

つまり1組は「4位以下」にしているということだ。

ウエストランドを4位以下にしたのは3人。

山田邦子。ナイツ塙。サンド富澤。

ロングコートダディを4位以下にしたのも3人。

博多大吉。中川家・礼二。松本人志。

さや香を4位以下にしたのは1人。立川志らく。

高評価したパフォーマーも分かれている

審査員が、その代わりに高評価したのは誰か。

(カッコ内はその審査員の採点とその人での順位)

山田邦子は真空ジェシカ(95点で1位)。

博多大吉はカベポスター(94点で2位)とオズワルド(93点で同点3位)。

ナイツ塙はヨネダ2000(96点で1位)。

立川志らくもヨネダ2000(97点で2位)。

サンド富澤は男性ブランコ(95点で3位)。

中川家・礼二も男性ブランコ(96点で同点2位)。

松本人志も男性ブランコ(96点で1位)。

男性ブランコが3人、ヨネダ2000が2人。

真空ジェシカとカベポスターとオズワルドが1人ずつ。

この5組は、3位以内に評価した審査員がいたということだから、惜しかったということになる。

惜しくなかった2組

つまり惜しくなかったのは、キュウとダイヤモンドの2組。

(どうでもいいけどカタカナがやたら多いぞ今年の出場チーム)。

キュウとダイヤモンドはどちらも後半に出てきて、すでに空気が掻き回されていたあとだったので、気の毒だった。

ダイヤモンドは、しょっぱな、すべり続けていて、こういうのを大舞台で見るのもひさしぶりだなあとおもって、どきどきしてしまった。

あとオズワルドは(惜しかった2組ではないのだが)敗者復活戦会場から走らされて、なんだか息上がったままのパフォーマンスに見えて、これもまた、何か気の毒であった。

それにしてもオズワルドは直前に(厳密にいうなら4時間09分前に)敗者復活戦の舞台で演じたのと同じネタを本番でも演じていたのは、すごい度胸だなと感心した。続けて見てる視聴者もそこそこいたはずだから、あ、同じネタだ、と声に出しちゃった人も多かっただろう。審査員の博多大吉も触れていた。

本気で優勝を狙いすぎて、必ずファイナルにいくつもりになって、おもわぬところでつまずいてしまった感じだった。残念。

悪目立ちした山田邦子の採点

そして、山田邦子の採点が悪目立ちしてしまった。

最初の2組の採点がすごかったからだ。

一番手のカベポスターに84点とかなり低い点をつけ(しかも高い点をつけたつもりだったと余計なことを言ってしまっていた)、このまま低い点をつけ続けるのだろうなとおもっていたら二番手の真空ジェシカに95点をつけて、その落差に驚いた。

でもあらためて検証すると、ここだけ目立っていただけで、終わってみれば、それなりにおさまっている。

それは、山田邦子が採点しなかったとして、残り6人だけを集計してみればわかる。

6人集計でも結果は変わらない。

ファーストラウンドの1位はさや香、2位ロングコートダディ、3位ウエストランドとなって、7人の採点と同じ順位である。

つまり、山田邦子の採点は、最初どきっとしたのだが、全体を掻き乱したわけではない。

だいたいみなと同じ方向におさまっていた。

どの審査員を抜いても結果は同じ

同様に、それぞれの採点を審査員一人ぶんずつ抜いて集計しなおしてみたが、同じく、誰をはぶこうが、結果は同じになる。

どの6人採点集計でも、ファーストステージ上位3組は、さや香、ロングコートダディ、ウエストランドに必ずなるのだ。

ときにこの3組の順が入れ替わったりするが(博多大吉の採点を抜くとウエストランドが1位になるし、ナイツ塙やサンド富澤の採点を抜くとウエストランドが2位になる)、でもこの3組が選ばれるのは変わらない。

誰かの採点が著しく偏って、それによって決勝ラウンドへ進出するコンビが違ってくる、ということはなかった。

ファーストラウンドではやはりこの3組が頭ひとつ抜けていたのだ。

つまり山田邦子の採点とは関わりなく、カベポスターも真空ジェシカもどちらも決勝ラウンドには進めなかったのである。

山田邦子と博多大吉の採点が少し違っている

ただ山田邦子の採点傾向が、他の審査員と少し違っていたというのもたしかである。

同様に博多大吉も他の審査員と足並みが揃っていない。

すでに書いたように、上位3組にいれたのが、山田邦子も博多大吉もそれぞれ独自のセレクトであった。

審査員の採点はそれぞれ偏りがあったのだが、この二人は独自に別方向へ(少しだけだけど)偏っていたと言えるだろう。

ファイナルラウンド3組の決選投票でも、博多大吉だけがさや香に一票入れていた。

もちろんそれでいいのである。

審査員が投票前にあれだけ「悩んでいる」と言っていたのに、7対0対0になったりしたらそっちのほうが変なわけで、おそらくみんな「さや香VSウエストランド」の二択で迷っていたのだとはおもうが、6対1対0となって、それでよかったとおもう。

さや香はほんとに惜しかった。

審査員は冷静でさえあれば見極められる

山田邦子は審査員として初めての参加、博多大吉は5年ぶりの復帰で、いわば刷新されたメンバーである。

あらたに加わった審査員が、古参の審査員と意見がすこし違うのは、それはもともと求められていたことだ。

二人ともちょこっと独自の方向性を持っているばかりで、「現場の総意」には沿っていた。

総意とは、テレビを見ている人も感じる「おもしろさの違い」である。

審査員の一部が入れ替わっても、審査はだいたい同じ結果になるものなのだ。

芸人が発する熱、客も巻き込んで発する強大な熱はものすごいもので、審査員は、冷徹にその熱を見極める傍観者にすぎない。冷静でさえあれば、熱気の差は測れる。

もっとも変わった採点をしていたのは博多大吉

主役は「熱気」なのだなと、あらためておもう。

M−1はどんどんすごい戦いの場になっていっている。

もっとも変わった採点をしていたのは、強いて言えば博多大吉ということになるだろう。

「想定の範囲内」ではあるのだが、そういうことになる。

でもそれが最終決定を揺るがしたわけではない。

審査員が違っていたら、という想定はあまり意味がないのである。

山田邦子のブレも「想定の範囲内」だったと言える。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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