Yahoo!ニュース

鉄道は豪雨災害への備えを 東北のローカル線、「廃線」可能性がある区間に大きな被害

小林拓矢フリーライター
利用者減の山田線が被災(写真:イメージマート)

 よく雨の降る夏だった。この秋も多くの台風が日本列島を襲ってくるだろう。

 鉄道は大きな被害を受けた。奥羽本線や陸羽東線、山田線、三陸鉄道といったところで土砂の流入や流出が激しく、復旧に時間がかかることになっている。

 ことし夏に被災した路線、とくにJR東日本の路線は、平均通過人員が少なく、営業係数が高い箇所ばかりであり、豪雨のたびに「廃線」の二文字が頭をよぎってくる。

 この10年以上、大規模な水害で被災する路線は多く、そのたびに「廃線」の話がどこからともなく出てくる。復旧に時間がかかると、JRと地元自治体の間で協議になり、「廃線もやむなし」という結論になることが多い。

閑散路線・山田線の被災

 8月27日からの大雨被害で、岩手県内を走るJR東日本の路線・山田線は山岸~区界間の23ヶ所で被災した。第二外山トンネル入口では土砂が流入し、第七大志田トンネル入口でも土砂が流入した。その影響で山田線では盛岡~宮古間で運転を見合わせている。

第二外山トンネル入口での土砂流入(JR東日本プレスリリースより)
第二外山トンネル入口での土砂流入(JR東日本プレスリリースより)

 9月2日のJR東日本盛岡支社の発表によると、盛岡~上米内間はおおむね2週間での運転再開、全線での運転再開はおよそ2ヶ月を見込むとなっている。JR東日本自身が代行バスを運行しない代わりに、並行する106バスを利用できるようになっている。

 被災した山岸~区界間は、山岸・上米内・区界と駅が並び、時間がかかりそうなのは上米内~区界間となる。

 なお、10月15日から11月15日にかけて、山田線では上米内~川内間を終日運転休止、川内~茂市~宮古間で一部列車を運休することになっている。落葉などを原因とする空転を防止するためだ。したがって、走れるような状態になっても、11月15日まで鉄道は走らない区間が発生することになる。

 もともと、空転防止のための一部区間での計画運休は予定されていたことであり、これは実行するということになる。山田線は利用者がもともと少なく、平均通過人員も上米内~宮古で71人/日(2023年度)という状況である。

 復旧できるほどには、被害が軽微だったということかもしれない。

奥羽本線・陸羽東線の復旧は? そして三陸鉄道

 山形県の新庄市周辺は、7月25日の大雨で各方面への路線が被災した。新庄以南の山形新幹線も走る奥羽本線は、急ピッチで復旧が進められたものの、その他の路線では被災が激しく、いまなお運休中だ。

 奥羽本線の新庄~院内間は、土砂流入や盛土のり面崩壊で26箇所に運転に支障がある被害が発生している。復旧工事に着手する予定ではあるものの、完了時期は未定だ。

 8月23日から31日まで新庄~真室川間で代行バス輸送を実施し、9月1日から新庄~院内間で代行バス輸送が開始されている。

 この区間の平均通過人員は、新庄~湯沢間で291人/日(2023年度)となっている。かつては特急が走っていたこの区間も、ローカル化が著しく、地元の人しか利用しない状況になっている。

 陸羽東線の被害も大きい。鳴子温泉~新庄間は、土砂流入など19ヶ所で運転に支障がある被害が発生している。

 やっかいなのは復旧見込みが立たないことだ。線路わきの山から大規模な土砂流入が確認され、調査を継続している。このため、復旧工事に着手できない箇所がある。

 8月23日から、鳴子温泉~新庄間で代行バス輸送を実施している。

 鳴子温泉~最上間の平均通過人員は51人/日(2023年度)、最上~新庄間は229人/日(2023年度)となっている。

 なお、この豪雨で道路トンネル工事により2022年5月からバスによる代行輸送を実施している陸羽西線も被災した。土砂流入など10ヶ所で運転に支障がある被害が発生している。なお陸羽西線の平均通過人員は129人/日(2023年度)。

新庄周辺の被害状況(JR東日本プレスリリースより)
新庄周辺の被害状況(JR東日本プレスリリースより)

 8月13日に熱帯低気圧になった台風5号の影響で、三陸鉄道の佐羽根~田老間が被災した。田代川の氾濫により、線路の路肩約25メートルが崩壊した。現在では宮古~田老~新田老間でバス代行輸送を実施している。

三陸鉄道佐羽根~田老間では川の水に土砂がえぐられる(三陸鉄道ホームページより)
三陸鉄道佐羽根~田老間では川の水に土砂がえぐられる(三陸鉄道ホームページより)

 復旧には数ヶ月かかると見込んでいる。被災現場付近に道路がなく、重機搬入のために仮道路の設置が必要で、河川がさらに路肩を削らないように対策しなければならない。

 三陸鉄道は東日本大震災による大津波以外にも、2019年10月の東日本台風(台風19号)でも被災した。

東北での長期被災区間の今後は

 東北地方の長期被災区間からの復旧の最大の成功例としては、2011年7月の新潟・福島豪雨による只見線の橋りょう流出からの復旧が挙げられる。

 また自然災害からの復旧ではないが、2011年3月の福島第一原発事故による原発周辺への立ち入り困難な状況が生まれたゆえに起こった常磐線の不通というのもあった。こちらは、原発事故の状況によっては廃線となったと考えられる。

 2011年に起こった豪雨や原発事故から、福島県の鉄道は立ち直ることができた。

 その後、花輪線や奥羽本線で長期被災から復旧するというケースもあった。

 だが米坂線や津軽線のように、復旧せず存廃の話が議論されているところもある。

 数ヶ月程度、あるいはローコストで復旧できるところは復旧するが、時間・費用がかかる、あるいは費用対効果が薄いとなると復旧できないのが現状だ。

 豪雨があると、ローカル鉄道の被災が必ず報じられる状況になっている。豪雨災害で何か起こりそうな箇所には、あらかじめ何らかの備えをしておくことが大事だ。被災しそうな場所を総点検し、早急に対応することが求められる。

 そうでないと、津軽線や米坂線のようなケースが再び生まれかねない。福島県のように、地域が強い情熱を持って災害などに対して向き合うわけでもない地方自治体が大半だ。老朽化した鉄道インフラの点検とメンテナンスが必要だ。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

小林拓矢の最近の記事