<日本17-0韓国> ここ1年のサッカー"代表戦"での合計スコア なんでこうなった?
妙な感じの日韓戦だった。
7月27日に豊田スタジアムで行われたE-1最終戦のことだ。
スタンドでは声出し応援も見られた。「コロナ時代がちょっと変わるかな」とも期待したが、韓国記者団は来日せず。元々30人弱が来日しての取材を希望していたが、なんと「ビザ発給が間に合わず」だったという。豊田には韓国から1媒体だけがペンとカメラの記者を派遣していた。ああだこうだと情報を交換する手段がかなり減った。
現場では日本記者から「今回の韓国は何人くらいがW杯に行けそう?」と聞かれる程度だった。7~8人です、と答えた。
それならば韓国の監督・選手にぐいぐいと突っ込んでいって話をしようと思ったが、それも思ったようにはいかなかった。
まあ24日の韓国―香港戦後から伏線はあった。パウロ・ベント監督に「2021年の横浜での0-3の結果を踏まえ、次戦の日韓戦について思うところは?」と聞いたが「そこと比べることもできるが、3年前の釜山でのE-1と比べることもできる」との答え。
さらにこうも言われた。
「比較はあまり意味がない。質問した記者が考えればいいこと」
いっぽう27日の日韓戦の後、大韓サッカー協会は予定されていた選手のZoom取材対応を行わなかった。"質問した記者"として、考えるにもちょっとは材料があればよかったが。
まあ勝手に考えてみよう。
「17-0」の内訳
何はともあれ、データから。ここ2年の日韓の"代表クラス"での対戦成績。
2021.03(A代表) 日本3-0 韓国
2022.06(U-16代表) 日本3-0 韓国
2022.06(U-23代表) 日本3-0 韓国
2022.06(大学選抜) 日本5-0 韓国
2022.07(A代表) 日本3-0 韓国
- U-16日本代表は6月8日にユアテックスタジアム仙台で行われた U-16 インターナショナルドリームカップ2022 JAPANで韓国に3-0の勝利
いつぞのプロ野球日本シリーズ、ロッテ―阪神のようなカウントをするなら「17-0」。大学選抜(デンソーカップ)の結果を加えるのはちょっと強引か。でもまあこちらで「勝手にそう考えよう」。後述するが、大学サッカーの問題も韓国の構造上問題のひとつとなっているし。
韓国とて、先のカタールW杯最終予選は「予選突破まで無敗」と日本よりもいい成績だった。しかしこと直接対決・日韓戦の敗戦となると、本当にメディアも悲痛な雰囲気になる。
「4連続韓日戦で0-3の惨敗 リベンジにも実験にも失敗した"豊田の惨事」(毎日経済)
「再び衝撃 1ヶ月ぶりの韓日戦惨事 0-3は"基本値"になった」(スポーツ朝鮮)
「0-3負負負負 韓日戦暗黒期 到来するのか?」(ニューシス)
かつて韓国が日本を「ハメた」手法
日本17-0韓国。
このデータは、2010年代の韓国の"対日常套手段"があてはまらなくなってきたということの証だ。
「10代の頃、日本のチームと試合をすると、技術の高さに驚いたものです。パッパッとボールを捌く技術の高さに。ところが面白いことに、試合をやってみるといい勝負になった。日本のチームは序盤にはいい攻撃をやるのだが、その時間帯を耐えれば、いつも流れは韓国のほうに来たんです」
そう語るのは、元Kリーガーにして、サッカー解説者であり、独立系チーム「 TNT FC」を運営するキム・テリュン氏(38)。自身が「1990年代後半以降、10代の頃から幾度も日本のチームと対戦してきた」体験談だ。
日本には前半やらせといて、耐えて、仕掛ける時に仕掛ける。特にACLでも韓国のこのやり方が日本に対して奏功してきた。2014年の川崎フロンターレはラウンド16でFCソウルにやられ、2015年のガンバ大阪はグループリーグで城南FCにやられた。後者に至っては、前年の国内3冠チームが、カップ戦をPK戦で勝ち抜いた小さなチームにアウェーとはいえ0-2の完敗を喫したのだ。
いっぽう、27日のE-1での日韓戦は前半から幾度もこんなシーンが見られた。
韓国のゴールキックのシーン。遠くには蹴らない。ペナルティエリアのなかに左右センターバックが入る。これがパウロ・ベント監督の志向する「ビルドアップ」の始まりだ。
これに対し、日本のFW町野修斗が中央に立って「右に出すのか左に出すのか」と目線で追う。出た方向に追いかけ、コースを切る。この時点からもうすでに、韓国の攻撃はかなり「窮屈」なものに。
いくつかパスを繋ぐうちに、むしろ追い込まれる韓国。結果的にロングキックを蹴らなければならない状況に。試合後、パウロ・ベント監督は「日本の裏のスペースを狙った」と口にしたが、見る限りこれは「苦しくなったら逆サイドに蹴り込む」という考えだったのではないか。しかしあくまで苦し紛れだから、これも日本の守備ラインの餌食になった。
そうこうしているうちに体力を消耗。後半に日本の猛攻を受けることとなった。
韓国は「前半に攻めさせといて、後半に勝負」という構図をやめているし、そして出来なくもなっているのだ。
参考記事(筆者):【ACL現地レポ】”日本は力で制圧”は終わる!? 日韓比較から観る鹿島の決勝進出の「歴史的意義」<2018年10月>
韓国サッカー界は「政府の介入」で大混乱中
これには「韓国の変化」と「日本の変化」がある。
まず韓国で何が起きているのか。
もちろんパウロ・ベント監督が志向する「ビルドアップ」という新しい取り組みにチャレンジ中、という事情はある。これは大韓サッカー協会が2010年代からスペインとユース育成協定を結び、4-3-3をベースとしてポゼッションを高めることをモデルとしてきた影響もある。
そういった点からも、今見ている韓国代表は、10年前とは明らかに違う。これは言えることだ。新たな要素を加えて成長しようとしたところ、既存の良いところが失われつつある。
前出のキム・テリュン氏は言う。
「韓国サッカーの伝統的な強みは、早く強いサイドアタッカーたちでした。過去にはソ・ジョンウォン、コ・ジョンウンといった選手たちがいたでしょう。ところがここ10年でそういった強いサイドアタッカーはすべて姿を消しました」
こういった"強さ"のある選手たちは、小4にして「運動組」と「勉強組」を分け、前者を徹底的に鍛え上げるという2010年代までの環境から生まれてきた。前者に入れば小中では学校の授業も受けず年間を通じ複数の全国大会に出場。高校では「(年間を通じ複数行われる)全国大会ベスト4以上」の学校の選手のみが大学でもサッカーを続けることを許されるという、厳しいスパルタ&エリート主義だ。
しかし、現在の育成制度は大きく変わっている。キム・テリュン氏が続ける。
「現在の韓国の育成システムは過去とは違い、政府の政策による成約が多いです。文化体育観光部と教育部、大学スポーツ協議会など公式機関が数年前から『勉強をする学生選手をつくろう』というモットーを掲げたあたりから、現場では多くの困難が生じています」
2010年から大韓サッカー協会が掲げた「プラン2010」だ。李明博政権下で「まずは人気スポーツのサッカーから現場環境の改善を」との方針が打ち立てられ、改革に取り組んできた。勉強もスポーツもやる、アメリカのモデルを参考にしたものだという。
これが10年以上経ち、現場に大混乱を与えているという。
「シンプルに練習時間が減っています。政府の方針からです。選手たちは学校の授業をすべて受けた後のみ、学校のサッカー部でのトレーニングが可能になっています。全国大会は夏休みの時期にだけ開催となり、そのための許可されている活動期間は20日のみに減りました」
のみならず、システム面での弊害も起きているという。
「もともと学校側は運動部を『問題児の集まり』と見ていた。政府の政策変更により、一気に運動部への風当たりが強くなったのです。結果、ここ5年で学校のサッカー部から、一般のクラブチームへ転換させる強制的な処置が多くの場所で行われたのです。このため既存の指導者たちは大きな雇用の不安を抱えるようになりました。指導への情熱を持っていても、不安定な新生クラブに行かなくてはならない。また既存の指導者の離脱により、選手は指導者のつながりを頼っての進路決定の幅が狭くなっている。さらに学校の運動場が使えなくなり、練習場の不足という問題も起きています」
キム氏は特に「韓国サッカーを支えてきた大学サッカーの窮状」を訴える。
「Aクラスの選手たちは高卒からKリーグに行く流れになっています。問題は20歳前後で、そこにたどり着けない選手たちの行き場がなくなってきているということです。大学に進学する選手の多くの理由は『成長期であるプロでの1~2年めに出場機会を失いたくないから』。多くの選手たちは2年生までにスカウトされ、中退しないともはやプロにはなれません。そうなると4年間活動する、という大学サッカー部の存在意義が無くなってしまう。近年の韓国の大学サッカーの衰退は急激なスピードで衰退しています」
キム氏はまた、韓国サッカー界全体で、厳しさから生まれてきた強さも失われつつあるという。
「社会全体の人権意識がかなり高まってきた。寮生活も廃止となり、上下関係も過去とは違ったものになっています。良いところもありますが、確かに韓国サッカーの良さだった"強さ"はなくなってきている。これによって生じる問題について、Kリーグクラブも頭を抱えています。20代前半の選手、20代後半の選手、30代の選手で考え方があまりにも違うのです」
過渡期の大混乱、というべきか、はたまた合理性を求めるあまり「強みを失う」失策か。「欧米式」とアジア社会の衝突という面でも興味深くはある。それでも韓国から、欧州や中東・中国・日本からオファーを受ける選手を輩出しているのは確かなのだが。
いずれにせよ今の韓国の選手達は、「昔とは違う」のだ。
日本だって良くなった 「外国語」の伝達方法
日本側の変化もある。
今年6月23日、U-23アジアカップ準々決勝での3-0の試合後、韓国側ではこんな論評があった。
「日本が韓国のようにプレーし、韓国が日本のようにプレーした」。
日本が前線からのプレスで韓国を圧倒。かつて韓国が誇った「フィジカル」や「スピード」の面でお株を奪う戦いぶりを披露した、ということだ。
日本は"強く"なった。育成世代の努力は、もっと深く取材している専門家がいるから、そちらに任せたほうがよさそうだ。ただ年始の高校選手権での青森山田を見ていてもそれはよく分かる。技術以前に、相手をプレスで圧倒しまくる。「強く行き過ぎ」という論調を目にしたりした。
ひとつだけ、外国語専門の筆者が思い当たる点とすれば、これが日本にどう伝わったのかという点だ。
「インテンシティ」そして「デュエル」。
アルベルト・ザッケローニと、ヴァヒド・ハリルホジッチ。A代表を率いた2人の代表監督が残した言葉だ。これを日本語に置き換えずに伝えた通訳の矢野大輔氏、樋渡群氏に大拍手を贈らねばならない。
なぜならこれらの概念、以前は「当たり負けしない」「球際で勝つ」「走る」など日本語で表現してきたのではないか。でもそう言ってしまうと「代表チームでいまさら何言ってんだ?」「日本をバカにしてるのか?」ということになったのではないか。新しい言葉で伝えたことによって、こちらに浸透した。
同じ概念でも、全く違う言葉で伝えられると、脳みそへのインプット度合いが違う。流行りの「プチ断食」だって、「朝食抜き」と言われると拒否感を感じそうなものだが、「午前中は消化のために内蔵を休める」と言われると「やってみようか」となる。だからこそ流行っていのではないか。今や草サッカーでも冗談交じりで「デュエル!」と叫んだりもする。昔は「当たり負けんなよ」と言ったものだが。
まあまあ、サッカーの日韓比較の軸というのはふたつある。「直接対決」と「国際大会での成績」。後者は11月のカタールまでどうなるか分からない。とはいえだ、勝った直後くらいは「どうやおまえら」と少々のオラオラ口調で勝ち名乗りを上げる。それくらいでちょうどいいのだ。日韓関係たるもの。どうした韓国? 何してんの、と。
参考記事(筆者による):日本0-0中国 韓国メディアは笑い止まらず…「日本大恥」「自信ありすぎた?」「韓国の優勝近づいた」