【ACL現地レポ】”日本は力で制圧”は終わる!? 日韓比較から観る鹿島の決勝進出の「歴史的意義」
10月3日の対戦では、ホームで一時は2点差をつけられたところからの鹿島アントラーズの大逆転勝利。
25日に韓国のスーウォンで行われたアジアチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第2戦を「日韓対決」で切り取るなら、主人公は間違いなく鹿島GKクォン・スンテだった。
試合は3-3のスコアで終わり、2試合合計の対戦成績が1勝1分となった鹿島が決勝進出を決めたゲーム。
ホームのスーウォン・サムスンサポーターは彼がボールを持つたびにブーイングを浴びせた。いっぽう鹿島サポーターは「クォン・スンテ」と名を呼び、彼を支える。日本側が韓国選手を応援し、韓国側が韓国選手にブーイング。大会ならではの風景だった。
クォンとしても、この大会での活躍は大いなる充実感を感じるところに違いない。韓国代表キャップは3。いっぽう2006年から16年まで在籍したチョンブク(うち11年と12年は軍隊チームのサンジュ・サンム所属)では、このACLとともに自身の名声を高めていった。06年と16年に優勝、11年には準優勝。それ以外にも07年と15年にベスト8入り。32歳で2017年に鹿島に加わった背景にも当然、日本の名門クラブに欠けてきたアジアでの躍進を担うという面もあったはずだ。
しかし。
当のクォン・スンテはこの日、試合後の取材エリアで言葉を発しなかった。韓国メディア15人ほどが待つ前を韓国語で「すみません」と一言言って通り過ぎた。前日練習から結局、韓国では一言も発しなかったのだ。試合後、スタンドの鹿島サポーター全体と記念撮影に応じるなど勝利を喜んだが、日韓両国のメディアに口を開くことはなかった。
オーサー一覧 【ACLプレビュー】初戦で”自国選手に頭突き”の鹿島GKクォン・スンテ。翌戦で語っていた思いとは?
スーウォン主将は大きくため息をついた。「なんと言ったらいいのか……」
そうなると、取材エリアでの最大のインパクトは「相手キャプテンのヨム・ギフンの言葉」だった。
一時は3-1とリードを広げ、決勝進出を確実にしたかに見えたが、その後鹿島に2失点。2試合合計の対戦成績が1敗1分となり、敗退が決まった。
他のスーウォンの選手が足早に通り過ぎるなか、韓国メディアに声をかけられ、歩みを止めた。
試合の所感は? と聞かれ、大きく間が空いた。
はぁ、とため息を2度。
そして言葉を絞り出した。
「どういう言葉を言えばいいのか分かりませんね……なんとも言えないほど残念な試合。後半の開始からすべての力をかけて戦おうと話をして、自分たちの望む状況に出来たのですが……最後まで集中すればよかった」
表情から悔しさがひしひしと伝わってきた。涙こそ浮かべなかったが、敗退の事実を消化するのに時間がかかる、といった様子だった。「リードした時点で、安堵したという面は今振り返ればあった。冷静になるべきだった」と。
韓国メディアから質問が続いた。
――クォン・スンテへのブーイング。普段とは違う雰囲気だったと思うが、集中力に影響はあったか。
ヨムはその影響は否定した。
「鳥肌が立つほど完璧な応援だった。勝てば完璧だったが、そうできずに申し訳ないと思う。(スンテへのブーイングについて)選手とすればブーイングは耐えるべき部分だと思う。今日の試合で、彼は十分に耐えていたと思う」
筆者から、一つ質問を投げた。
――以前は”日本のチームは力で制圧すれば勝てる”という話をおっしゃっていました。その傾向に変化は起きているでしょうか。
「鹿島はこれまで対戦したJリーグクラブとは違った。DFラインから直接前線にボールをつけてきた。この点がむしろスーウォンを苦しめたと思う。仮に中盤でもっとつないできたら、プレスで制圧する方法が通じたんですけど……」
韓国での定説「日本はパワーで制圧できる」
ヨムとは毎年ACLでJリーグチームと対戦する度に言葉を交わしてきた。明快に自信をもって意見を言う。負ければ潔くそれを認める。そういった姿勢から、必ず対戦ごとに話をするようになった。
「日本の技術は、パワーとスピードで制圧できる」
2015年頃からこの話が出てきた。
これは韓国では”紋切り型”ともいえる印象だ。
今年の9月、黄善洪氏をインタビューする機会があった。セレッソ大阪で99年にJリーグ得点王に輝いた氏は、2011年から15年までポハン・スティーラース、16年から18年途中までFCソウルを率い、ACLでサンフレッチェ広島、ガンバ大阪、浦和レッズといったチームと対戦してきた。
現在はソウル監督を辞任後、フリーの身の彼は、任期中には見せなかった穏やかな表情でこう言っていた。
「合っている話だと思います。でも近ごろは変わってきていますけどね」
近ごろの変化。昨季はソウル監督としてグループリーグで浦和と対戦した彼の言葉を裏付けるような話が、24日の試合後、鹿島FW鈴木優磨から出てきた。
――相手が韓国、ということで立てた対策は?
「特に細かいものはないですが、”球際”という話は出た。監督からも出たし、チームメイト間でも”強く行こう”と声をかけあった」
これは、昨年ベスト16でKリーグ勢として唯一勝ち残ったチェジュ・ユナイテッドに競り勝ち、最終的には大会を制した浦和レッズから出てきた証言とも一致する部分だ。
「今日はこちらが韓国選手を倒していたでしょ? いままでは相手に倒されるほうだったけど。強く当たっていく。幾度も大会に出ている経験から蓄積されたものです」
槙野はチェジュ戦後にそう語っていた。
鹿島の勝利が「偉大」な理由
近年のACLでの日韓の勢力図をざっくりとまとめるのなら、
07~08年 日本優位。浦和レッズ、ガンバ大阪が連覇。
2009年から~2010年代中盤 韓国優位。計4チームが優勝を経験。
となる。
後者の時代の日本勢といったら、まるで「ポゼッションサッカーに酔う」といった体だった。自分たちのやり方を保ちさえすれば、勝てると。
しかしこれは、アジアの中での「逆ガラパゴス化」というパラドキシカルな状態だった。世界のサッカーの主流を学んでいさえすればいい、という。自分たちは良いサッカーをやっているんだという錯覚。
しかし、韓国からは「力で抑えておけばなんとでもなる」と見られていた。はっきり言ってナメられていた。
後にロシアW杯の韓国代表となるシン・テヨン氏は2010年に経営母体が支援額を減らした状態の戦力で、城南一和を大会優勝に導いた。
この年のクラブW杯の際、こんな話をしていた。
「韓国と日本の違い? いざとなったら勝負に徹して、中盤を省略できるかどうかだよ。日本は常にそこにこだわっているから」
しかし時代は変わろうとしている。Jリーグ勢はアジアでの自分たちの位置に気づき、ACLでの日韓勢力分布図を変えつつある。「力」で制圧されない。こちらもそれで対抗する。
鹿島の決勝進出、つまりJリーグ勢2年連続の決勝進出は、「日韓比較」の観点から観るとそんな時代の流れをつくる勝利だった。
変化は、決して簡単なことではない。
この日、クォン・スンテと同じく鹿島の韓国人選手としてKリーグチームと対したチョン・スンヒョンの言葉がリアルだった。
「(Jクラブの一員として)韓国のチームと試合をするのは、本当に難しい。違うスタイルで戦うチームにいるから、そうなるのだと思う」
この言葉を少し紐解くならば、”自分も「韓国式」でどんどん強くぶつかっていけば簡単”。しかし、”日本のチームではバランスを保たなければならない部分もあり、難しい”という意味だろう。
自らの良さを失わずに、悪い点を変える。細かい作業でもあるのだ。Jリーグ勢はそれを実らせようとしている。
とはいえ、まだまだ”韓国勢を克服した”と喜びに浸りきるのはよそう。相手もまた新しい対策を施し、対抗してくるだろうから。代表チームでも、クラブシーンでも、日本と韓国はこの歴史を繰り返している。
何より、鹿島にはまだ大会の決勝戦が残っている。ペルセポリス(イラン)との決勝戦は11月3日(ホーム)と10日(アウェー)に開催される。一瞬喜び、すぐに次へ。そういったところだろう。