国会閉幕から東京都知事選を経て感じる日本の政治に明日はない
フーテン老人世直し録(761)
文月某日
大阪地検は12日、北川健太郎元大阪地検検事正を準強制性交罪で起訴した。起訴状によれば、北川容疑者は2018年9月12日深夜から13日未明までの間、大阪市にある検事正の官舎で酒に酔って抵抗できない状態の部下の女性検事に性的暴行をしたとしている。
北川容疑者は18年2月に大阪地検のトップである検事正に就任した。その直後の3月に朝日新聞が森友学園への国有地売却を巡る財務省の公文書改ざんをスクープし、近畿財務局職員の赤木俊夫さんが自殺した。そして「交渉記録はない」と国会で証言した佐川宣寿国税庁長官は長官の職を辞した。
佐川氏をはじめ財務省幹部らは虚偽公文書作成、証拠隠滅など6つの罪名で告発されたが、大阪地検特捜部は5月31日に告発された38名全員を不起訴処分にした。この捜査を指揮したのは15年に女性初の特捜部長に抜擢された山本真千子氏で、抜擢の時の上司は大阪地検次席検事だった北側容疑者である。
その2人が検事正と特捜部長という関係になったのが18年2月、そして5月末に財務省幹部全員を不起訴にした。すると直後の6月末に山本氏は函館地検検事正に昇格し、「最高検の指示に従い不起訴にした論功行賞」と噂された。さらに将来の検事総長候補と言われるようになる。
それから3か月後に北川容疑者は酒に酔った部下の女性検事に性的暴行を働いたことになる。北川容疑者は取り調べに「合意があったと思った」と語っているので罪の意識はなかったようだ。だがそれから1年後の19年11月に北川容疑者は定年を待たずに退官した。
大阪地検検事正には高検検事長になるコースがある。それなのにしかも定年まで2年以上もあるのに北川容疑者は出世をあきらめた。おそらく性的暴行事件が関係していると思う。何かがあったため退官することで事件の幕引きを図った可能性がある。
北川容疑者の退官と入れ替わるように函館地検検事正だった山本氏が大阪地検次席検事に就任した。この2つの人事に関連性はないのだろうか。そしてそれから4年間は何もなかった。山本氏は21年に大阪高検次席検事、22年には女性初の大阪地検検事正に出世した。それが事件から5年近く経った今年の6月、弁護士となった北川容疑者が突然逮捕されたのである。
大阪高検次席検事の説明によれば、今年に入って女性から検察幹部に相談があり、4月に処罰意思が明確になったので捜査を開始したという。そうだとすれば19年11月に北側容疑者が退官した時、検察幹部たちはそれをどう受け止めていたのだろうか。この説明をフーテンは素直に受け入れられない。逮捕には外から何らかの力が働いたとしか思えない。
そして12日、黒川弘務元東京高検検事長の定年を延長した20年1月の閣議決定を巡り、大阪地裁が国に対し当時の行政文書の開示を命令した判決が確定した。11日の期限までに国が控訴しなかったためである。行政文書は開示されることになった。
小泉龍司法務大臣は控訴しなかった理由について「判決を是正する実益が乏しい」と会見で述べた。つまり公開してもこれまでの政府の説明が変更されることにはならないと言うのだ。政府のこれまでの説明は、安倍政権の閣議決定は検察官の定年を一般の国家公務員と同じく延長するもので、黒川氏個人の定年延長を目的にしたものではないということだ。
しかし大阪地裁の判決は、検察官の定年延長が全国の検察官に周知されておらず、あくまでも黒川氏の定年延長を目的にしていたと指摘して文書の開示を求めた。ところが法務大臣は、文書には一般の国家公務員の定年に関する記載ばかりで、黒川氏の定年延長についてほとんど触れられていないという。
それならなぜ国は不開示にこだわったのかと言いたくなるが、重要なことは司法が安倍政権の閣議決定を黒川氏の定年延長が目的だったと判断したことにある。したがって安倍元総理と菅官房長官による「一強体制」は、検察権力をコントロールする必要に迫られ、黒川氏の定年延長を図ろうとしたことが歴史に刻まれた。その時期には森友学園、加計学園、桜を見る会などの問題があった。
そのことが安倍政権や菅政権では水面下に沈んでいた。岸田政権になってようやく水面に浮上する環境が生まれた。ただし「一強体制」を支えてきた人たちや、その恩恵を受けてきた人たちにとってそれは大いに困る。だからそれを抑える力が強まる。それが政治の世界で「岸田おろし」を生んでいる。
だから裏金問題でも選挙の結果でも「岸田が悪い」、「岸田を代えろ」という話になる。まず裏金問題は岸田政権が引き起こした訳ではない。資本主義なのに贈与経済を内包する日本の慣習から裏金が生まれ、それが安倍派を中心とする自民党の体質となって検察から摘発を受けた。
自民党のトップは肩書きでは岸田総理だが、総理には自民党を超えた活動が求められ、実質的な最高責任者は幹事長である。だから幹事長が先頭に立って取り組まなければならない。ところがこれを「岸田おろし」の好機と見た茂木幹事長は動かず、野党に岸田総理を批判させて「岸田おろし」を加速させた。
選挙の最高責任者も幹事長である。ところが不思議なことに衆議院の補欠選挙で自民党が全敗しても、幹事長批判にはならずに総理批判になる。「岸田総理を代えなければ自民党は勝てない」という話ばかりが出てくる。それによって内閣支持率は下がり、そうなれば次の選挙も負けるという負の連鎖になる。
7日に行われた東京都知事選は、自民党が陰で支援した小池候補が圧勝、無名の新人だが保守系の石丸候補が2位、そして立憲民主党、共産党、社民党など左派が表で支援した蓮舫候補が3位に沈んだ。表で支援していないので自民党の勝利と言う訳にはいかない。
一方、都知事選と同時に行われた都議の補欠選挙で候補者8人を擁立した自民党が2人しか当選できず「2勝6敗」がクローズアップされ「自民大敗」と言われる。しかしよく見れば、立憲民主党は3人擁立して「1勝2敗」、共産党は4人擁立して「0勝4敗」、維新は2人擁立して「0勝2敗」である。
一方、都民ファーストの会は4人擁立して「3勝1敗」、無所属が8人立って「2勝6敗」、それに元都民ファーストの会の衆議院議員で実質無所属の諸派1人が当選した。つまり東京では都民ファーストの会と無所属が9議席のうち6議席を獲得して既成政党を蹴散らした。ところが自民党ではこの結果が「岸田おろし」に結びつく。
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