風前の灯火のアルピコ交通上高地線3000形 年内に最後の1編成が引退する京王井の頭線からの譲渡車
城下町としての歴史を持つ信州第2の都市・松本を起点に、上高地・乗鞍への玄関口である新島々までの14.4キロを結ぶアルピコ交通上高地線。令和4(2022)年より車両の置き換えが進められてきたが、今年ついに新型車両20100形の4本目がデビューし、車両の置き換えが完了する予定だ。松本電気鉄道時代の平成11(1999)年に導入された3000形は年内に最後の1編成が引退し、四半世紀に渡る活躍に終止符を打つ。
3000形は京王井の頭線で活躍していた3000系を譲り受けたもので、平成11(1999)年10月25日にまず2編成が運転を開始し、翌平成12(2000)年7月20日に2編成が増備されて4編成16両が揃った。老朽化した5000形(元東急5000系)を置き換えるための導入で、当形式の入線によって上高地線は全車冷房化を達成している。
3000形の種車はいずれも中間車で、入線にあたっては京王重機で運転台の設置などの改造を行っている。奇数車が制御電動車(モハ)で新島々寄り、偶数車が制御車(クハ)で松本寄りだ。各車の旧番号などは以下の通り。ただし、デハ3108とデハ3058は昭和63(1988)年2月23日の西永福~浜田山間踏切事故で車体を損傷し、軽量車体を新造して復旧している。
モハ3001 元京王デハ3109(3709編成) 昭和46(1971)年4月30日竣工
クハ3002 元京王デハ3059(3709編成) 昭和41(1966)年2月1日竣工
モハ3003 元京王デハ3108(3708編成) 昭和46(1971)年4月30日竣工
クハ3004 元京王デハ3058(3708編成) 昭和41(1966)年2月1日竣工
モハ3005 元京王デハ3106(3706編成) 昭和46(1971)年4月30日竣工
クハ3006 元京王デハ3056(3706編成) 昭和39(1964)年12月1日竣工
モハ3007 元京王デハ3107(3707編成) 昭和46(1971)年4月30日竣工
クハ3008 元京王デハ3057(3707編成) 昭和41(1966)年2月1日竣工
ちなみに京王時代に編成を組んでいた片割れの車両は、いずれも上毛電気鉄道に譲渡されている。3709編成はデハ714+クハ724とデハ715、3708編成はデハ712+クハ722とデハ716、3706編成はデハ713+クハ723とデハ717、3707編成はデハ711+クハ711とクハ725となっており、中間車も先頭車化改造の上で余すところなく活用されている。
3000形のクハのうちクハ3004とクハ3008の2両は松本寄りにパンタグラフを装備しているが、これは集電用ではなく架線に付着した霜を取るためのものだ。京王時代は電動車だったので、その名残でもある。
上高地線の近代化に貢献した3000形は導入から20年以上に渡って主力車両として活躍した。令和3(2021)年8月14日豪雨による田川橋梁被災で松本~渚間が不通となった際には、3003編成が松本駅に取り残されたが、他の3編成は渚~新島々間で復旧までの8か月間も走り続けた。
令和4(2022)年3月25日には後継の20100形(元東武20000系)が営業運転を開始。これに伴い、当初は長期間留置されていた3003編成が廃車となる予定であった。しかし、同年7月28日の落雷で新島々駅停車中の3001編成が自走不能となったため、計画を変更。3003編成が整備の上で8月28日に運用復帰し、3001編成は11月1日に廃車となり、12月2日に搬出された。
20100形の増備はその後も続き、令和5(2023)年3月18日には20103編成が運転を開始した。これに伴い、3007編成が令和6(2024)年3月10日に引退、3月28日に搬出されている。同年3月16日には2代目「なぎさTRAIN」の20105編成が運転を開始、初代「なぎさTRAIN」の3005編成は11月3日に引退し、11月29日に搬出された。3005編成の引退により、3000形は3003編成1本を残すのみとなっている。
3000形4編成のうち最後まで残った3003編成は、平成29(2017)年6月3日より「モハ10形リバイバルカラー」として運行されている編成で、昭和30年代から50年代まで活躍したモハ10形の塗装を纏っている。前述のように松本駅に8か月間も留置され、3000形のうち最初に廃車となる予定だったが、3001編成の被雷故障により、不死鳥のごとく復活を遂げた。車体は京王時代の事故復旧時に新製されているため比較的新しいが、車齢自体はモハ3003が54年、クハ3004が59年と、かなりの老朽車だ。後継の20100形第4編成(20107編成)は昨年12月9日に新村車庫に搬入されており、今年3月の運転開始が予定されている。3003編成の引退時期は「年内」とされており、引退へのカウントダウンはもう始まっている。四半世紀に渡って北アルプスの麓を走り続けた京王井の頭線からの譲渡車両に乗るなら今のうちだ。モハ10形リバイバルカラーと2代目なぎさTRAINについては、公式HPの運行状況で、当日運用に入っているかどうかが確認できる。
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