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「タバコをやめたい」あなたへ「どんな方法」が最も「費用対効果」が高いのだろうか

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 タバコは1箱600円時代になり、そろそろ禁煙をと考え始めた喫煙者も少なくないと推察する。タバコはなかなかやめられないが、ではどんな方法が最も費用対効果が高いのだろうか。

4つの禁煙の方法とは

 明日からタバコが値上げされ、セブンスター600円(1箱20本入り)、メビウス(1箱20本入り、昔のマイルドセブン)580円、加熱式タバコ用ではメビウス570円、マールボロ・ヒートスティック580円などとなり、おおむね20円から40円値上げされる。喫煙者の懐はますます厳しくなるが、この機会にタバコをやめようと考えるのは不自然ではない。

 この10年ほどの間に、タバコを買える場所も吸える場所も少なくなった。この上、どんどん値上げされれば、経済的にもタバコを吸いにくくなっていくだろう。タバコという商品は値上げに強いといわれるが、これだけ環境が変化すればタバコを吸うこと自体にバカバカしさを感じる喫煙者も多く出てくるはずだ。

 タバコをやめる理由にも、また禁煙にも喫煙者の数と同じだけの理由や方法がある。筆者も30年ほど喫煙者をやっていたが、最も大きな理由は家族からやめて欲しいと言われたからで、いくつかの方法に挑んでなんとかやめることができた。

 タバコをやめる理由は個々人によって違うだろう。一方、禁煙の方法を大きく分けると、自分だけで、あるいは家族や友人知人の協力を得ながらタバコをやめる方法、医療機関(以下、禁煙外来)で禁煙治療を受ける方法がある。また、それぞれ薬剤に頼らずにタバコをやめる方法、ニコチンガムやニコチンパッチ、バレニクリン(チャンピックス、ニコチンは含まない)といった禁煙補助薬を使う方法があり、薬局薬店でニコチンガムやニコチンパッチを購入して自分でタバコをやめる方法、禁煙外来での禁煙治療でも禁煙補助薬を使わずに医師などからのカウンセリングだけでタバコをやめる方法もある。

タバコをやめるには大きく分けて4つの方法がある。この中で最も費用対効果が高いのはどれだろうか。図作成筆者
タバコをやめるには大きく分けて4つの方法がある。この中で最も費用対効果が高いのはどれだろうか。図作成筆者

 この中で最も費用対効果の高い方法は自分だけ、あるいは家族や友人知人の協力を得てきっぱりタバコをやめる方法だろう。実質タダだが、この方法で簡単に禁煙できれば誰も苦労はしない。

 タバコに含まれるニコチンには強い依存性がある。これが身体的にも心理的にも作用し、禁煙すると離脱症状(禁断症状)がつらく、ついつい再喫煙してしまい、禁煙に失敗する喫煙者も少なくない。そのため、自分だけ、あるいは家族や友人知人の協力を得ても、なかなかタバコをやめられないことになる。

禁煙補助薬という方法

 そこで禁煙補助薬の登場だ。ニコチンの依存性を弱め、離脱症状を抑える薬剤のことだが、ニコチンガムとニコチンパッチは薬局薬店で市販されている。また、日本では2006年から禁煙外来での禁煙治療に健康保険が使えるようになり、3割負担で治療を受けることができるようになった。

 保険適用の禁煙補助薬には貼り薬のニコチンパッチ、そして飲み薬のバレニクリンがある。ニコチンガムとニコチンパッチは、口の中や皮膚からニコチンをゆっくり吸収させ、バレニクリンはニコチンは入っていないがニコチンに似た作用の薬剤がニコチンの脳への働きかけをブロックし、タバコを吸っても不味く感じさせる作用もあるが、バレニクリンは禁煙治療を受けて禁煙外来で処方されなければ使えない。

 禁煙外来での禁煙治療は12週間(5回)受診し、保険適用前ではニコチンパッチで約4万3000円、バレニクリンで約6万3000円の治療費がかかる。これまでの研究によれば、自分でやめるよりも治療したほうが、また禁煙補助薬を使ったほうが長期の禁煙に一定の効果があることわかっている(※1)。

 これで禁煙治療の効果はわかったが、喫煙者個々人の費用対効果のほうをみてみよう。ある研究によれば、禁煙補助薬などの薬剤による禁煙治療を受けた場合、一生の間、約1万4000円(128ドル)から16万2200円(1450ドル)節約でき、健康な状態の1年間(QALY)に換算すると一生で最大49万2000円(4400ドル)節約できるという試算もある(※2)。

 では、自分だけや家族などの協力で禁煙する以外の方法、つまり薬局薬店でニコチンガムやニコチンパッチを購入してやめる方法、禁煙外来で治療する方法の中でも禁煙外来でニコチンパッチによる方法、バレニクリンによる方法、これらを組み合わせる方法のどれが最も費用対効果が高いのだろうか。

最も費用対効果が高い喫煙層は

 バレニクリンよる費用対効果に関して最近、九州大学の研究グループによる論文(※3)が発表された。これによれば、バレニクリンによる禁煙治療が最も費用対効果が高く、40歳未満の男性で低所得もしくは製造業に従事する喫煙者に対し、バレニクリンが最も高い費用対効果を発揮したという。

 同研究グループの九州大学大学院医学研究院保健学部門看護学分野、藤田貴子氏によれば、健康保険を使って禁煙外来を受診した喫煙者が実際に支払った医療費(保険適用分含む)を比較したという。

──禁煙外来での治療は一般的に効果が高いということでしょうか。

藤田「この研究ではNNT(Number Needed to Treat、治療必要例数)という指標を使っていますが、これは1人に禁煙を維持してもらうためには何人の治療が必要かという指標です。NNTは数値が低いほど1人に対する必要な人数が少なくなります。例えば、肺がん検診でCTを使った場合のNNTは157,高血圧関連の死亡を予防するための血圧測定のNNTは274とされ、新型コロナのワクチンの場合、モデルナ製のワクチンのNNTは91だそうです。禁煙治療をNNTで評価すると、バレニクリンを使ったNNTは1年の禁煙継続で12.5、2年の禁煙継続で12.0となり、バレニクリンによる禁煙治療がより少ない治療人数で1人に禁煙を維持してもらえる可能性があるということになります」

──今回のご研究によれば、バレニクリンによる禁煙治療には高い費用対効果があるということでしょうか。

藤田「もちろん、行政や政策決定者など医療費を負担する側や禁煙サポートをする側からみても、また喫煙者からみても、薬などを使わずに自力で禁煙するのが最もお金がかからないことになりますが、なかなか禁煙できない喫煙者が禁煙治療にかかる場合、バレニクリンを使うほうが費用対効果が高いと言え、特に短期より長期、女性より男性、年齢は40歳未満、低所得もしくは製造業に従事している喫煙者に高い費用対効果が期待できると思います」

──若い女性の低所得者に対する禁煙サポートが必要という考えがあるかと思いますが、今回のご研究で若年女性についてなにかわかったことはありますか。

藤田「今回の研究では女性でのバレニクリン使用の費用対効果はあまりみられませんでした。男性の方が女性よりも禁煙に成功しやすいこと、女性の方がニコチンの離脱症状が出やすくて再喫煙しやすいことは、他の研究で報告されていますが、一方で性別の差はないというものもあり、よくわからない部分でもあります。より女性で効果的な禁煙方法が何かあるのかもしれませんが、今回の研究では他の方法の評価ができていません」

──ご研究は新型コロナの前の状況ですが、遠隔での禁煙治療やアプリでの治療も始まっている現状、どんな変化があると思われますか。

藤田「遠隔治療の効果については、まだ大規模に調査されていないので、その効果について今後研究が必要な領域だと思います。遠隔で禁煙治療が受けられれば通院の時間や待ち時間、通院によって削られる労働対価などがかからなくなりますから、効果が同じであれば遠隔による禁煙治療の費用対効果はより高くなると思います」

──喫煙者にはどのような禁煙サポートが効果があると思いますか。

藤田「禁煙治療の自己負担額はタバコ代よりも安いですし、禁煙により他の疾患の予防にもつながり、それは医療費の削減にもつながっていきます。もし自力で禁煙したいとお考えなら、今はアプリなどに禁煙日数や禁煙で浮いたタバコ代などが表示されるものがあり、数値として視覚的に禁煙のメリットがわかれば励みになり、禁煙維持にもつながるでしょう。他の依存症と同じように喫煙者本人に禁煙したい意志がなければ強制的に禁煙させるのは難しいのですが、禁煙に関心がなくても禁煙する方法の情報があれば、関心が向いたときにそれを活かすことができるので、さりげない情報提供は続けていく必要があると思います」

 同研究グループによれば、全体の禁煙継続率は、1年間で69.7%、2年間で62.4%、自力で禁煙する場合の1年間の禁煙継続率は69.1%、2年間で61.8%、バレニクリンを使った場合の禁煙継続率は1年間で76.4%、2年間で69.3%だったという。それぞれバレニクリンによる禁煙治療のほうが効果が高いことがわかる。

 また、禁煙治療中の12週間(5回受診)でバレニクリンを使った治療費は1人あたり5万2177円、保険適用を受けた場合は1万5653円だった。一方、禁煙外来へ行かず、喫煙者が薬局薬店で8週間、ニコチンガムを買った場合は約1万7000円、ニコチンパッチを買った場合は2万4000円かかる。

 今回のタバコの値上げをきっかけに禁煙にチャレンジしてみようと考える喫煙者も多いはずだ。新型コロナで受診をためらう人もいるかもしれないが、禁煙外来では遠隔治療をしているところも出てきたし、アプリ(CureAppなど)を使った禁煙外来もある。

 筆者にも経験があるが、タバコはなかなかやめられないものだ。医師に相談しながら禁煙補助薬を使って少しずつやめていく方法もあると覚えておきたい。

全国 禁煙外来・禁煙クリニック一覧(遠隔禁煙診療施設、禁煙治療費の助成を行っている自治体の情報もあります)

※1-1:Kate Cahill, et al., "Pharmacological interventions for smoking cessation: an overview and network meta-analysis" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD009329.pub2, May, 31, 2013

※1-2:Nicola Lindson, et al., "Smoking reduction interventions for smoking cessation" Cochrane Library, doi.org/10.1002/14651858.CD013183.pub2, September, 30, 2019

※2:Victor U. Ekpu, Abraham K. Brown, "The Economic Impact of Smoking and of Reducing Smoking Prevalence: Review of Evidence" Tobacco Use Insights, doi.org/10.4137/TUI.S15628, July, 14, 2015

※3:Takako Fujita, et al., "Cost-effectiveness analysis of treatment with varenicline for nicotine dependence compared with smoking cessation without pharmacotherapy in the real world" Pharmacoepidemiology & Drug Safety, doi.org/10.1002/pds.5359, September, 16, 2021

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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