幸福な北欧ノルウェーで急増する「うつ世代」なぜ若者は悲しんでいるのか
ノルウェーでは、「若者をみじめな気持ちにさせる」メディアや企業などに、毎年「ゴールデン・バービー賞」が授与されます。
賞を発表しているのは、13~25歳の青年による団体「プレス」です。
金色でぴかぴかのバービー人形の体系や社会的な知名度は、本物の人間には実現できないもの。
完璧な女性を理想化し、たどり着けないのに、そこに向かわせようとさせる。若者のメンタルを破壊しているとするメディアや企業に、青年団体が「あなたたちは、金色のバービー人形だ」と警報を鳴らすものです。
先日、2020年度のゴールデンバービー賞の受賞者が発表されました。それは、「blogg.no」。
広告や加工写真ばかりのブログ世界
ノルウェーでは有名なブログサイトです。このサイトでトップランキングに入る人たちには、企業がスポンサーとして付きやすいため、有名になりたい・注目を集めたい若者にとっては、夢のような場所です。
一方で、整形手術や美化した日常づくりの「工場」や「見栄のはりあい」ともなっています。
「あの人のような服を着て、化粧をして、整形すれば、私も……」。いろいろな人のブログを見ながら、自分と他人を比較して、自己肯定感を低くする人もいます。
Blogg.noには責任感が欠けている。子どもや若者はロールモデルを通して、商業的な広告や整形業界の商品にされている。
プレス団体は、「若者がメンタルヘルスをより悪化させることで、誰かがお金を儲けているのは、不公平だ」と指摘しています。
この賞は毎年ノルウェーでは注目を集めます。
新聞社などがノミネートされることもありますが、公共局や大手新聞社、テレビ局は、毎年だれがこの「不名誉な」ゴールデンバービー賞を受賞したのか、大きく報道します。Blogg.no側は、受賞を「残念だ。批判を受け止め、改善に努める」と現地メディアにコメントしています。
うつの若者が増えるのはなぜ?
数日後、首都オスロのカルチャーセンターでは、「うつ世代」というテーマの議論が行われていました。
この国では、うつ状態の若者の増加が、よく議論されています。
「うつ世代」というのは、最近よく聞くようになった、新しい用語です。
今の若者が精神的に病んでいる原因のひとつとして、スマホやSNSが挙げられています。
しかし、大人は小さい頃からスマホやSNSと育った世代ではありません。今の子どもや若者の状況を自ら体験していません。
だからこそ、理解しようと、このような大人と若者を含めての話し合いの場が、よく持たれています。
「メンタルヘルス・若者オスロ」団体の代表であるトーニェ・グランモさんは、若者の代表として、大人たちに声を届けました。
声を聞いてほしい
「『元気?』という定番の挨拶では、『元気だよ』と答えるしかありません。本当はそうじゃないのに。結局、私は自分の体を傷つけることでしか、自分をなぐさめる方法がありませんでした」
「子どもや若者が必要としているのは、私たちを真正面から見て、話を聞いて、微笑んでくれる大人です。子どもや若者の精神的な悩みを、公共局などが報道してくれることは、重要です。でも、議論する前に、誰かが命を絶ってしまったら、悲しすぎる。政治家には、なんとかしてもらいたいと思っています」
心を病んだ数多くの若者たちを診療するカーリ・モグスタド医師は、メンタルヘルスについてオープンな議論が増えていることは良い傾向と話し、今の若者はあまりにも多くのストレスにさらされていると指摘します。
「ソーシャルメディアによって、あまりにも様々なことが透明化してしまった。もっと運動しなきゃというストレス。身体や外見を気にするストレス。孤独。過剰な社会に、若者たちの心は破裂しかけています。彼らの声を聞くことが重要です」
「子どもや若者はネットで育っているけれど、私たち大人は、後からネット世界に入り込んだデジタル移民。だからこそ、大人は自分たちでネットを使い、ソーシャルメディアで何が起きているのか、どのようないじめサイトがあるのかを知り、若者がヌード写真を送信していることを知る必要があります。親も、オンラインにいなければいけないのです」
大学病院で若者のケアをするソーリハーゲン医師とホルセット医師は、「今の若者は、あまりにも多くのことに『耐えなければ』と思っています。学校やソーシャルメディアの両方で、うまくやらなければとあせっている。他国の文化を背景にもつ若者は、違うカルチャーの間にも挟まれ、自分のアイデンティティが分からなくなっています」
国民の心の病気の責任は政治家に?
講演者の誰もが、市民のメンタルヘルスに責任があるのは、政治家だと口にしました。会場には国会から政治家も来ていました。
大人が子どもと同じオンラインにいて改善するのか
私はオスロ大学と大学院でメディア学を専攻しましたが、「保護者が子どもの使っているオンラインサイトを理解しなければいけない」ことは、専門家は常に指摘しています。
けれど、同時に、移り変わりが速いネットの世界で、子どものネット環境を把握しろというのは、かなり敷居の高い要求だなとも感じます。
会場からは、精神を病んでいると若者が勇気を出して口にしても、心理学者や精神科医の数が足りておらず、適切な時期に適切な助けを得られないことも指摘されました。
親にスマホを使えというよりも、恐らくこのような専門的なサポート環境を改善したほうがいいのでは、と私も思います。そうなると、確かにこの国の場合、医師や専門機関の増加には、政治的な介入が必要なのでしょう。
Text: Asaki Abumi