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悩みを抱えた若者がインスタに。自殺者増の原因はSNSか、相談場所の不足か

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
オスロ国会前で抗議する市民 Photo: Asaki Abumi

昨年クリスマスにノルウェー王女の元夫が自殺した。メンタルヘルスに関しては日本よりもオープンに話されているノルウェーだが、「自殺」はタブーとなっていた。

王女の元夫の自殺を、家族や王室が隠そうとしなかった姿勢をきっかけに、世論の風向きが変わり始めている。

8日の夜、首都オスロにある国会前には市民が集まり、政府の自殺対策が不十分だと抗議運動をした。

このような点が課題となっている

  • 悩みを打ち明けてもすぐにカウンセリングを受けられない
  • カウンセリング中のコミュニケーションがうまくいかない
  • 医療者が適切だと思う患者との距離感を、患者は思いやりがないと思い込む
  • 居場所のない若者がネットの閉鎖空間に集まる
  • ネットで自殺予告をしている人がいると通報しても、警察に真剣に取り合ってもらえない
  • 医療者や心理学者が、若者とSNSの問題まで深く切り込む余裕や予算がない

SNSのインスタグラムには、心を病んだ人たちが集まる非公開グループがある。

ノルウェー公共局NRKは、この閉じられたグループにアクセス。自傷行為や自殺願望の傾向がある1000人以上のユーザーが、うつ状態とみられる投稿をしていることを突き止めた。

世界中からのユーザーが集まるグループのはずだが、そのうちの半数がノルウェー人とみられるアカウントで、過去数年間で少なくとも15人のノルウェーの少女が自殺をしていた。NRKと番組『Innafor』によると、その半数が自殺した当時に20歳以下、全員が精神科病棟や児童保護施設に通った経歴があった。

投稿内容がひどければひどいほど、彼女たちはインスタグラムでより多くの注目と思いやりを他のユーザーから受けていた。

それはまさに注目を得るための競争。

出典:NRK

王女と自殺した元夫の間に生まれた娘は、国民に生中継された父親の葬式で、「助けてくれる人はいるから、あきらめないで」と精神的に悩む人へと語り掛けた。

彼女の思いやりは勇気があると感謝された。一方で、カウンセリングを申請しても、却下されるのが現実だという声もあがる。

カウンセリングを受けても、医療者とのコミュニケーションがうまくいかない・「理解してもらえない」と思う若者たちは、ネットの世界で自分の居場所を探す。

心に傷が負った人たちが集まる「閉じた部屋」には、仲間同志で支えあう効果もあるが、相手から影響を受け、自殺願望をより強めるリスクもある。

「SNSで自殺予告をしている人がいると警察に電話しても、真面目に取り合ってもらえない」、「悩みを打ち明けても、医療機関や福祉施設で必要な助けを得られない」と、国会前のデモでは政府の対応を批判した。

私はこのデモを現場で取材していたが、自殺で子どもを失った母親も来ており、「あまりにもたくさんの命を失いすぎました。政治家が戦略や対策案を延々としゃべっている間に、若い人たちは死を選んでいます」と訴える。現場には泣いている人も多くいた。

自殺の対応改善を求める抗議運動は、北極圏にある街トロムソでも行われた。

インスタグラムのグループがなくなっても、心が病んだ人たちの最後の居場所がなくなるだけ。自殺者が増えている根源はSNSの非公開グループではなく、専門機関の人員増加や質の向上だとされている。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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