ノルウェーの若者を「みじめにさせるメディアと広告」金賞は?大手新聞社の社会的責任とは
若者が選ぶ、企業にとって不名誉な金賞
ノルウェーは若者の消費意識に影響を与えやすい広告やメディアの規制に厳しい国だ。首都で比較しても、東京にこれまでかと溢れんばかりの広告は、オスロではほとんど見かけられない。それでも、多くのノルウェー人は、この国には国民の意識に悪影響を及ぼす広告が多すぎるという。
若者を、みじめで最悪な気持ちにさせる、ゴールデン・バービー賞
ノルウェー赤十字の運営する青年組織プレス(PRESS)は、青少年になにが「完璧」で、「まちがっている」か、一方的な美意識と価値観を刷り込ませようとする広告とメディア業界を批判して、不名誉な「ゴールデン・バービー賞」プロジェクトを2010年に開始。
日本でも人気のあるファッションブランドの「ヴィクトリアズ・シークレット」による モデルが全員同じように見える広告キャンペーン「A body for every body」、またファッションブランド「ディーゼル 」の広告「Sex Sells」などがこれまで受賞している。
賞の候補者は、数週間にわたり話題になり、国内メディアで大きく批判される傾向にある。ノミネートされた時点で企業は不名誉な印象を消費者にもたれることになる。
2015年の名誉ある3候補
- 男子に筋肉のある肉体美をすすめようとする、プロテインを販売するプロテイン・ファブリッケン社(Proteinfabrikken)。
- 小麦肌になりたい若者をターゲットとした、ビキニ姿のモデルの広告は街中で多くの人が目にしたことがあるであろう。日焼けサロンの「ブルン・アンド・ブリド」(Brun og Blid)社。
- ノルウェーの伝統的な大手日刊紙ダーグブラーデ(Dagbladet)。「新聞社が?」と意外に思う人がいるかもしれない。この新聞は、ダイエットや性行為などをあおる記事を、大文字の表紙で特集することが多い。
44%の支持で大手新聞社が優勝
3候補者が大々的に現地メディアで話題になって以降、13~30歳の1万2千人の一般市民がネットで投票。結果、優勝したのはダーグブラーデ紙だった(4日発表)。3候補が発表されてからも、特に注目を浴びていたのもこの新聞社で、編集者は言い逃れをするために国営放送局などの取材に必死に対応していた。
そもそも、今回の賞で、メディアという伝統的な大手報道機関が優勝したのも初めてのことだった。そのため、メディアの社会的責任などについて、若者を交えて議論が活発化した。
古い価値観を押し付ける企業
プレスの代表カロリーネ・ステーン・ニーランデールさん(19)は、一方的な古い価値観を押し付け、若者にストレスを与える企業が多すぎると取材で語る。
デジタル化で販売部数に悩む新聞社が、過激な表紙に頼るように?
「ダーグブラーデ紙は、デジタル化で紙媒体が売れなくなってから、白人の女性写真が目立つような表紙ばかりになった」と指摘。インターネットが普及し、売り上げに苦戦する新聞社の姿が露呈するかたちとなった。
かつて、オスロのハートヴィーグ・ニッセン高校で取材していた時も、「メディアの影響で、身体的な美を求めて、男女に限らず拒食症になる生徒が多い」と女子高生のマヤ・ローリクゥーンさん(18)が語っていた。
「現代問題を取り扱うのは、報道機関の役目」
不名誉な賞を授与されたダーグブラーデ紙の編集者は、メディアや自社の記事を通して、反論。今回の活動は意義があるものとして評価するが、自社が選出されたことについては根拠に乏しいと批判。そもそも、VG紙やTV2など、他メディアでも似たようなニュースを配信する傾向にあるとし、現代の若者の間で注目度が高い身体的なテーマを取り扱うことは、報道機関の役目だと主張した。
ニーランデールさんは、優勝者発表の場で、2016年度のノミネート候補者を出演者に問いかけ、その中には今話題のノルウェー人女性ブロガーの名前や、日本でも人気のあるファッションブランドH&Mが挙げられた。
Text:Asaki Abumi