パリの「KIMONO」展 西洋人を魅了してきた日本の着物が面白い
今、パリで日本の着物の展覧会が開かれています。
会場はMusée du Quai Branly – Jacques Chirac(ケ・ブランリー・ジャック・シラク博物館)。エッフェル塔の近くに2006年にオープンした博物館で、アフリカ、アジア、オセアニア、アメリカなどの地域のアートを展示する国立博物館です。
展覧会のタイトルはそのままズバリ「KIMONO」。
実はこれは、2020年にロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムで企画された展覧会の巡回展で、パリでは、2022年11月22日からスタート。来年2023年5月28日まで、およそ半年間開催されます。
展覧会の様子はこちらの動画からじっくりとご覧いただけます。
この記事では、私が特に素晴らしいと思った点をご紹介したいと思います。
なんといっても衝撃的だったのは、200点近くの着物のほとんどが外国(主に英国)の所蔵品だということです。
展示品の根幹をなすのがイギリスの「Khaliliコレクション」。
Nasser Khaliliというイラン系イギリス人が一代でつくり上げた美術コレクションのKhaliliコレクションには、日本人も驚いてしまうほどの質と量を誇る明治時代の美術品、そして江戸時代から20世紀までの着物があります。
今回の展覧会では、その中の一級品がヴィクトリア&アルバートミュージアムの所蔵品などとともに展示されています。
ところで、パリでも日本の着物の展覧会というのはあります。しかも、以前ここでもご紹介したフランス国立東洋美術館(通称「ギメ美術館」)で2017年に開かれた展覧会は、日本の「松坂屋コレクション」の名品150点が特別に、はるばる海をわたってやってきたもの。着物好きの私などにとっては、東京上野の国立博物館、あるいは京都国立博物館の染織室を訪れたような“本格派”の展示にうっとりとしたものです。
けれども、今回の「KIMONO」展は、ほとんどすべてが外国で所蔵されているというところが決定的に違っています。では、そのクオリティは前者に劣るのかといえばさにあらず。日本染織の黄金期とも言える江戸時代の小袖の名品が次から次へと登場し、これほどの質と量の着物が海外のコレクターの手に渡っていたということに驚かされます。
もう一つ、とても興味深かったのは「世界のKIMONO」と題したコーナーです。
江戸時代、長い鎖国の間でも、オランダ商人の手を通じて日本の陶磁器が西洋に渡り、愛でられていたことは知られていますが、着物もまたそうだったのだ、ということが、この展示から伝わってきます。
例えば、クロード・モネの絵の一つに、金髪の女性が赤い着物をまとって見返り美人のようなポーズをとっている「ラ・ジャポネーズ」というのがありますが、このような絵画のモデルとしてだけでなく、上流階級の日常にも実は着物は浸透していたようです。
洋服の上に小袖を羽織った英国女性の肖像画。小袖の生地に施された繊細な染めや刺繍を画家がまるで実物さながらに丹念に描いているのですが、なんと、その絵の中の着物そのものも隣に展示されています。日本の染織品が西洋の上流階級に求められ、愛され、大切にされていたことが、保存状態も素晴らしいこの小袖が伝えてくれます。
また、江戸時代の日本人が着ていた着物そのものではなく、当時の染織技術を駆使して、初めから西洋人向けに作られた着物が存在していたことがわかります。生地や染織の技術は着物や帯のそれと同じですが、仕立て方を変えて、紳士の部屋着にしたものなどは、さまざまな工夫のあとが見てとれて、とても興味深いものです。
それとは逆に、西洋の染織品が日本の着物に取り入れられたことがわかる展示も秀逸。おそらくは九州の大名の奥方のものと解説にある打掛は、よく見ると日本の布ではありません。フランスはリヨンで1750―60年代に織られたブロケード(絹の紋織物)が打掛として仕立ててあるのです。これまた解説によれば、おそらく外交的な贈り物として伝わった生地なのでは、とのこと。
舶来の生地が珍重された例として、このほかにも、インドの更紗や西洋のコットンプリントなどが使われた男性の襦袢も展示されています。襦袢といえば、表着の下に着る、つまりは外からは見えない着物。表向きはとても地味なように見えて、羽織の裏に凝ったり、襦袢でおしゃれを楽しんでいた江戸の洒落者たちの気配が感じ取れるようです。
そのほかにも、文明開化や、軍国主義に席巻される世相を移した着物、英国のロックスターに愛された着物など、見どころが尽きないこの展覧会。来年5月までの開催ですから、パリにいらっしゃるご予定のある着物好きは、どうぞお見逃しなく!