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32年振りの快挙なるか? 日本人料理人によるパリ・ファイナルへの挑戦

東龍グルメジャーナリスト

日本におけるフランス料理の三大コンクール

「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」をご存知でしょうか。

「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」は「ボキューズ・ドール国際料理コンクール」、および、隔年開催の「エスコフィエ・フランス料理コンクール」と並び、日本における大きなフランス料理のコンクールのひとつです。

コンクール・ジャポンの第1次審査(書類選考)は8月2日に行われ、全国から応募した61 名の中から選ばれた8名が、9月6日に東京調理製菓専門学校(新宿)で行われた実技選考に臨んだ。

8名の参加者は2点の料理を5時間で制作し、コンクール・ジャポン最終審査はル・テタンジェコンクール国際規約にのっとって行われた。

コンクールの規則は、パリ、ブールヴァール・マジェンタ156番地法廷執行官ポーペール・リエヴァン事務所に提出されており、ポーペール・リエヴァン氏がコンクールの合法性を監視するものである。

出典:第50回<ル・テタンジェ>国際料理賞コンクール・ジャポン2016最終審査結果

私も「アメリカ食材、料理コンクールでアジアへ羽ばたく」「【クッキングコンテストの今】24回目を迎える日本系ホテルグループの料理コンクール」「【クッキングコンテストの今】実力ある若手料理人を辞めさせず育成するには?」などでコンクールの審査員を務めたり、「【クッキングコンテストの今】独学者 杉本敬三氏が優勝した「RED U-35」は何が新しいのか?」で記事を書いたりするなど、料理人のコンクールにはとても関心がありますが、この三大料理コンクールには特に注目しています。

ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「マンハッタン」料理長 吉本憲司氏
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「マンハッタン」料理長 吉本憲司氏

コンクール・ジャポンは2016年9月6日に決勝大会が行われ、「世界最高峰パティシエ徳永純司氏が移籍、その裏側を読み解く」「【最後のリノベーション】ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「マンハッタン」とは?」でもご紹介したホテル インターコンチネンタル 東京ベイ「マンハッタン」料理長 吉本憲司氏が見事優勝しました。

決勝大会

「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」決勝大会の結果は以下の通りでした。

1位:吉本憲司氏(ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ・東京都)

2位:鎌田英基氏(帝国ホテル・東京都)

3位:中野琢治氏(ザ・リッツカールトン大阪・大阪府)

課題は何を使ってどういう形にするなど、おおよその部分が決められていたので、オリジナリティを出すことはそう簡単ではありません。

グランプリ料理 牛フィレとフォワグラのパイ包み 香草風味のソース・マデール
グランプリ料理 牛フィレとフォワグラのパイ包み 香草風味のソース・マデール

そのような状況にあって、吉本氏はパイ生地にトマトを加えてローラーでレンガ模様を付けたり、グラタンを丘陵のような形にしたりし、目を引くようにしました。

見た目だけではなく、「最も神経を遣ったのは火入れ。コンクール当日は最高の火入れができたので、そこを評価していただいた」と話すように、料理の出来栄えも最高だったのです。

吉本氏は、「エスコフィエ・フランス料理コンクール」では初めての挑戦で優勝しましたが、「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」では、これまで2回チャレンジしてどちらとも優勝には至りませんでした。

「これまで2回出場したが、入賞すらできなかったので、次がダメだったらもう挑戦をやめようと考えていた。今回は50回目の節目でもあるので、自分の力を出し切り、頑張ろうと思った」と語ります。

調理する順番をクジ引きで決めるのですが、吉本氏は1番を引きました。1番は他の候補者の様子を見て参考にできないので不利です。しかし、「事前にしっかりと練習を積んできたので、本番でも落ち着くことができた」と振り返ったように、満足のいく練習をこなしてきたので、それが自信となり、落ち着いて調理できたのではないでしょうか。

強豪たち

カラフル・アート・テリーヌ 旬の恵みの閉じ込めたマーブル模様のテリーヌ
カラフル・アート・テリーヌ 旬の恵みの閉じ込めたマーブル模様のテリーヌ

今回の優勝をもって吉本氏は「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」と「エスコフィエ・フランス料理コンクール」という大きなコンクールの2つを制覇したことになります。日本における三大料理コンクールのうち2つで優勝することは並大抵のことではありませんが、実は吉本氏よりも先にこの2つのコンクールを制した料理人がいます。

それは、以下の経歴を持つ、浦和ロイヤルパインズホテルの竹下公平氏です。

2008年9月 「第42回ル・テタンジェ国際料理賞コンクール・ジャポン」決勝進出

2009年9月 「第43回ル・テタンジェ国際料理賞コンクール・ジャポン」優勝

2009年11月「第43回ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」第4位入賞

2010年8月 「第5回 エスコフィエ・フランス料理コンクール」日本大会優勝

2011年2月 「第3回 オーギュスト・エスコフィエ国際コンクール」世界大会優勝

出典:PR TIMES

竹下氏は「オーギュスト・エスコフィエ国際コンクール」の世界大会でも優勝を果たし、非常に輝かしい実績を誇ります。そして今回の「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」には、この竹下氏も参加しており、最終審査まで進んでいたのです。

最終審査(ファイナル実技審査)に望んだ8名のリスト

竹下公平氏 浦和ロイヤルパインズホテル

増田克也氏 デイズニーアンバサダーホテル

臼杵智近氏 東京デイズニーランドホテル

中野琢治氏 ザ・リッツカールトン大阪

渋谷昌孝氏 (株)オリエンタルランド

吉本憲司氏 ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ

鎌田英基氏 帝国ホテル

坂田昭氏  びわ湖大津プリンスホテル

さらには、第2位となった帝国ホテルの鎌田英基氏は2011年と2013年の「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」で2回も優勝を果たした実力者であり、優勝候補の最右翼でした。

つまり、竹下氏と鎌田氏という強豪が参加している中で、吉本氏は念願だった「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」の優勝を果たしたのです。当の吉本氏は「実力のある料理人も参加していたが、最終的には料理を作る自分自身との勝負」と冷静に述べますが、この2人を破っての優勝は大きな意味を持つでしょう。

パリでの本選

ブレス産のピジョンのロティとパルメザンチーズのリゾット
ブレス産のピジョンのロティとパルメザンチーズのリゾット

フランスのパリで行われる「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」の本選へと話を進めましょう。日本を含む8カ国から参加者が集う国際大会は、以下の通り行われます。

国際ファイナル・コンクール(パリ)

<日付>

2016年11月16日

<参加国>

フランス(アンドール公国、モナコ公国を含む)、ドイツ、日本、スイス、ベルギー、ルクセンブルク、オランダ、イギリス

・参加各国でのコンクール優勝者は、国際ファイナル(パリ)のフィナリストとして2週間前に招集状と共に国際ファイナルにおける一般テーマ(例:魚、甲殻類、肉、ジビエ、家禽等…)、を受け取る。

・コンクール前夜、法廷執行官立ち会いのもと、コンクールの明確なテーマ及び材料リストがくじで決められる。ファイナリストはその材料リストから必要な材料を選び出し、オリジナル・ルセットの料理制作にあたる。

・国際ファイナル当日、各参加者は5時間以内に料理を仕上げる。

吉本氏は11月7日に日本を出発して16日の大会に出場し、19日には日本へ帰ります。大会の2週間前に概要が、前日に詳細が発表されるまで、どういった課題が出されるのか分かりませんが、「魚料理であればこういったものを、肉料理であればこういったものをというように、色々な素材で何を作ろうかと日々考えている」と吉本氏は噛みしめるように話します。

レストランの料理長はただでさえ拘束時間が長いので、練習はどうしているのかと尋ねると「エスコフィエの国際大会の時には、仕事が終わった後に練習していた。明け方まで起きていたので、疲労が溜まってしまい、実力を出し切れなかった。今回はそれを反省し、朝早く起きて練習している。身体の調子もよく、頭も冴えている」と述べます。

日本人の入賞者

カナダ産活オマール海老のグリル 赤ワイン風味
カナダ産活オマール海老のグリル 赤ワイン風味

「ル・テタンジェ国際料理賞コンクール」本選における、日本人の戦歴はどうなっているのでしょうか。実際のところ、これまでの長い歴史に対して、日本人の歴代入賞者はそう多くありません。

パリ・ファイナルにおける歴代日本人の入賞者

1984年 優勝 堀田大氏(東洋軒、東京都)

1994年 3位 佐野文彦氏(大津プリンスホテル、滋賀県)

2001年 3位 中宇祢満也氏(浦和ロイヤルパインズホテル、埼玉県)

2002年 3位 佐藤浩氏(浦和ロイヤルパインズホテル、埼玉県)

2003年 3位 柏木健一氏(ホテルグランヴィア大阪、大阪府)

2008年 2位 下村康弘氏(株式会社オリエンタルランド、千葉県)

2010年 3位 大和幸義氏(帝国ホテル東京、東京都)

2013年 3位 鎌田英基氏(帝国ホテル東京、東京都)

2014年 3位 川本善広氏(ホテルグランヴィア大阪、大阪府)

(所属は当時)

今回のパリ・ファイナルの出場者について吉本氏は「イギリスからの出場者とフランスからの出場者は、2人とも2位を獲得したことがある。非常に力のある料理人が出場している」と表情を引き締めます。

ヨーロッパの国であれば会場のパリと陸続きになっていたり、距離が近かったりするので、普段使っているコンベクションオーブンも容易に運べます。また電圧も本国と同じなので、調理器具の動作も安定していることでしょう。パリから遠い日本からの出場は不利と言えます。

しかし、2回もパリ・ファイナルの出場経験がある帝国ホテルの鎌田氏から、会場の様子や荷物の取り扱いなどについて、アドバイスを受けるなど、吉本氏も日本でできる限りのことを準備しています。

32年振りの快挙なるか

グランプリ料理 牛フィレとフォワグラのパイ包み 香草風味のソース・マデール
グランプリ料理 牛フィレとフォワグラのパイ包み 香草風味のソース・マデール

吉本氏は「会社から時間もお金も負担してもらっている。他の料理人からの応援もたくさんいただいている。絶対に勝たなければならない」とプレッシャーを感じていますが、本番に強い料理人であるだけに、入賞を期待したいところです。

吉本氏にとって初めての国際大会は、2009年2月7日(土)スイス・ジュネーブで行われた「エスコフィエ・フランス料理国際コンクール」でした。4位という結果を残したことについて「日本と食材が違うので、特に魚介類については調理方法を変える必要があった。残念な結果になったが、初めての海外コンクール出場による経験をこれからにつなげていきたい」とコメントしています。

4位という結果は決して悪くないにも関わらず、まだまだ上を目指している吉本氏ですが、もしも今回優勝するようなことがあれば、掘田大氏が優勝した1984年以来、日本人の優勝は実に32年振り、しかも2人目となり、日本のフランス料理界にも大きな刺激がもたらされるのではないでしょうか。

日本人による世界への挑戦として、フランス料理に精通した方や食に興味ある方だけではなく、より多くのみなさんに注目していただきたいと考えています。

元記事

レストラン図鑑に元記事があります。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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