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「櫻井翔の真意」か「ジャニーズのシナリオ」か──ジャニーズ事務所性加害問題『news zero』報道

松谷創一郎ジャーナリスト
日本テレビ『news zero』2023年6月5日より。

声をつまらせた櫻井翔

 6月5日、ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏による性被害を訴える元ジャニーズJr.の3人が、児童虐待防止法の改正を求める約4万人の署名を与野党に届けた。与党の反対が報じられており、今国会中に改正されるかどうかはまだわからない状況だ。

 一方、その夜の日本テレビの報道番組『news zero』では、ジャニーズ事務所所属の櫻井翔氏(嵐)が、ついに性加害問題について口を開いた。2分強にわたって、ときおり言葉に詰まりながら振り絞るように声を発する櫻井氏の姿からは、強い緊張が感じられた。

 発言全文は朝日新聞の記事(朝日新聞デジタル2023年6月6日付)などに譲るが、それは単純に受け止められるような内容でもなかった。本件に対するジャニーズ事務所のこれまでの消極的な姿勢や、過去のさまざまなメディアコントロールも考えれば、複数の読解を導けるものと言える。

 果たしてその発言は、「櫻井翔氏の真意」なのか、それとも「ジャニーズ事務所のシナリオ」なのか?

「外部スタッフ」か「ジャニーズの一員」か

 まず櫻井氏は、自分の立場がふたつあると述べた。ひとつが「問題の責任が問われている事務所に所属している立場」、もうひとつが「被害者側に見られうる立場」である。平易に言えば、加害者側とも被害者側とも見なされるという立場だと前置きした。

 これまで彼がこの問題に言及しなかった理由として、これは間違いないと考えられる。立場的に櫻井氏はジャニーズ事務所の社員ではなく、あくまでもジャニーズと専属の業務委託契約をしている「外部スタッフ」だ。しかし「ジャニーズの一員」として、長らく前線で活躍してきたのもたしかだ。

 つまり、たとえ契約上はひとりの外部スタッフだとしても、実際にはジャニーズ事務所の屋台骨だ。なにより、ファンや視聴者は櫻井氏の契約内容などはさておいて、「ジャニーズの看板的存在」と見なす。実際、一般企業の業務委託と異なり、芸能界におけるタレントは非常に特殊な存在だ。

 以上を踏まえて、その発言がどのように捉えられるかは、櫻井氏のふたつの立場──「外部スタッフ」か、あるいは「ジャニーズの一員」のどちらとして見なすかで変わってくる。

 そしてこの後に続く発言も、このどちらの立場と見なすかで意味が異なってくる。

二次被害の抑止を訴えたが

 続いて櫻井氏は、伝えたいことをふたつ話した。ひとつは、「臆測で傷つく人たちがいる」ことへの配慮の呼びかけだ。

 かつて同じジャニーズJr.として、同じ時間をともにしてきた大切な仲間の中には、すでにこの世界とは全く違うところで、新しい人生を歩んでいる人たちもたくさんいます。

 そういう人たちも含めて、あらぬ臆測をよび、今回の問題の対象となってしまうことは何よりも避けなくてはいけない、避けたい。そこを考える中で、私自身発言すること自体が、また臆測を呼び、広げ、無関係な人々まで傷つけることにつながるのではないかということを恐れています。

(日本テレビ『news zero』2023年6月5日)

 これは、過去にジャニーズに所属していたひとたちへの二次被害を防ぐ目的でなされた。ただ、今回のケースでもっとも二次被害を受けているのは、今回署名を届けた実名・顔出しで声をあげたひとたちだ。SNSで苛烈な誹謗中傷をいまも受け続けている彼らのストレスは計り知れないものがあり、将来的に大量の民事訴訟に発展しても不思議ではないほどだ。

 しかし、櫻井氏のこの発言は被害を訴えている彼らへの配慮ではなく、一般社会で仕事をしている元ジャニーズJr.への「憶測」を避けることが強調されている。そのくだりの発言途中に声を詰まらせていることからは、おそらくプライベートで関係が続いている元ジャニーズJr.のことが頭にあったと想像される。

 たしかにそれも必要なことではあるが、その一方で現在被害を訴えて法改正のための署名活動もするひとたちへの二次加害行為を諫める発言がなかったことには、やはり疑問が残る。

「調査」を求める姿勢だが

 より重要なのは、この先の発言だろう。

ただ、だからこそ、ジャニーズ事務所は話したくない人の口を無理やり開かせることなく、しっかりとプライバシーを保護した上で、どのようなことが起こっていたのかを調査してほしい。そして、被害を訴える方々ならびに、本日提出した署名をした皆さんの思いを重く受け止め、二度と、このような不祥事が起こらない体制を整えなければならないと思います。

 最後に、あらゆる性加害は絶対に許してはならないし、絶対に起こしてはならないと考えます。

(日本テレビ『news zero』2023年6月5日)

 ここで重要なのは、櫻井氏が「調査」という表現を出したことだ。櫻井氏は、ジャニー喜多川氏による加害行為の実態調査を求めている。

 これは『週刊文春』5月25日号の記事を裏付けるような内容だ。「〈闘争24年の小誌だけが書ける〉ジャニーズ性加害“放置”に櫻井翔、中丸雄一が決起」と題されたその記事では、他のタレントと異なり櫻井・中丸の両氏が第三者委員会の設置に賛成するという内容だ。これは筆者が掴んでいた情報とも重なる(2023年5月15日「ジャニーズ事務所・藤島ジュリー社長が『話したこと』と『話さなかったこと』」)。

 しかし、現在においてはこの櫻井氏の求める「調査」がかならずしも第三者委員会によるものを指すとは限らない。周知の通り、5月26日にジャニーズ事務所は今後に向けて3つの施策を発表した(ジャニーズ事務所/2023年5月26日)。そのうちのひとつが「再発防止特別チーム」の設置だった。

 当然のことながら「再発防止」のためには、過去になにがあったか調査する必要がある。ジャニーズ事務所が加害行為をはっきりと認めないのは、この調査がしっかりとなされていないからだ。よって櫻井氏の今回の発言は、「再発防止特別チーム」の調査に向けて道筋を作ったものだとも捉えられる。

「ジャニーズ事務所のシナリオ」か

 このとき問題となるのは、この「再発防止特別チーム」の調査にどれほど第三者性があるかということになるだろう。言い換えれば、前検事総長の林眞琴弁護士を中心とした3人のこのチームに、どれほど信頼が置けるかということだ。メンバーは、林氏の他には、精神科医で被害者支援都民センター理事長の飛鳥井望氏と、まだ名前が発表されていない臨床心理の研究者と発表されている。

 現状、この「再発防止特別チーム」がどれほど過去に遡行して調査するかなど、具体的なことはいっさい発表されていない。ジャニー喜多川氏の加害行為はジャニーズ事務所が渡辺プロダクション傘下だった1960年代から報道されており、それを踏まえれば長い期間にジャニーズ事務所に所属した数千人ものひとびとが調査対象となると想定される。

 よって、この3人だけでどれほどの調査ができるのかは疑問が生じる。また、林眞琴弁護士が前検事総長(検察のトップ)であることを考えれば、これは検察の捜査に対する牽制とも捉えられる。

 以上を踏まえれば、この櫻井発言の見方も異なってくる。つまり、「再発防止特別チーム」は極めて不透明なプロセスで限定的な調査にとどまる可能性もあり、今後の展開しだいでは櫻井発言がこの「ジャニーズ事務所のシナリオ」を強化するためだったとも捉えられることとなる。

 もしそうした展開になるのであれば、今回の櫻井発言は「ジャニーズの一員」として発せられたものだと見るべきだろう。それは決して被害者の可能性もある「外部スタッフ」=櫻井翔の真意ではなかったとも捉えられるようになる。

 つまり「櫻井翔氏の真意」なのか、それとも「ジャニーズ事務所のシナリオ」か──それは今後の「再発防止特別チーム」の調査内容しだいということになるだろう。

 その結果がもし納得度の低い不完全なものにとどまれば、ジャニーズ事務所がなにかの隠蔽を目的として、第三者委員会の代わりに「再発防止特別チーム」を提示した疑惑も生じる。そうなれば、ジャニーズ事務所はさらなる泥沼に陥ることとなるだろう。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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