中国がオーストラリアに次なる「制裁」発動か――その際あてにするのが、かの“中央アジアの北朝鮮”
中国とオーストラリアの対立が収まらないなか、中国側は次なる「事実上の制裁」として、オーストラリアからの天然ガスの輸入削減の動きをちらつかせている。その穴埋め策として、中国側が関係強化に乗り出しているのが、中央アジアのトルクメニスタンだ。王毅(Wang Yi)国務委員兼外相は今月、トルクメニスタン大統領の“世襲後継候補”と目される人物らと会談し、天然ガス供給での協力を確認した。
◇オーストラリアからの天然ガス輸入削減の動き
中国にとって天然ガス輸入は国家的な重要課題だ。経済情報メディア「証券之星」の17日付記事によると、2020年の国内の天然ガス生産量は1925億立方メートルだが、消費量は3240億立方メートルに達し、その差の1315億立方メートル、つまり40%以上を外国に依存しているためだ。
天然ガスの輸送には(1)中央アジアやロシアなどからのパイプライン経由(2)液化天然ガス(LNG=液化して体積を約600分の1まで減らす)に加工して大量輸送・大量貯蔵――の2通りの方法が取られ、中国では後者が60%以上を占める。
そのLNGの最大の供給国がオーストラリアであり、昨年の数字で見ればシェアは約46%に上る。
ところが、中国とオーストラリアの関係は、新型コロナウイルスの起源に関する国際調査をめぐって極度に悪化。中国はオーストラリア産の石炭や農産物などの輸入を制限する事実上の制裁を続けている。
この延長線上で、同国からの天然ガス輸入も削減するという動きが見え隠れしている。
米ブルームバーグ通信報道は今月10日、「中国の小規模LNG輸入業者のうち、少なくとも2社が今後1年間、オーストラリアから新たに購入しないよう政府関係者から指示された」と伝えているためだ。
◇「バラストストーン」
この状況のなか、王毅氏は今月10日、陝西省西安で、中国訪問中のトルクメニスタンのメレドフ副首相兼外相やセルダル・ベルドイムハメドフ副首相と会談した。
中国外務省によると、会談で両者は▽天然ガスでの協力をさらに強化・拡大し、エネルギー産業全体での戦略的パートナーシップを積極的に構築する▽資源以外の分野での協力も精力的に模索する――などで合意した。
王毅氏はトルクメニスタン側に「天然ガスでの長期的パートナーになってほしい」と語りかけたうえ、この分野での協力を、両国の「バラストストーン」(船の重心を下げて安定させるために使われる石)だと表現した。
香港の有力英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、天然ガス全体でみれば、中国への最大の供給国はトルクメニスタンとなる。両国間のパイプラインが2009年12月に稼働して以後、トルクメニスタンから2400億立方メートル以上の天然ガスが中国に送られ、中国の総輸入量の70%以上に達しているという。
◇中国に巨額の債務
トルクメニスタンは旧ソ連構成国で、独裁的な政治体制で内向きの国家運営が続いていることから“中央アジアの北朝鮮”とも呼ばれる。
新型コロナウイルスの感染についても、北朝鮮と同様、公式には「国内に新型コロナは存在しない」と主張し、世界保健機関(WHO)の集計でも17日現在、感染者は「ゼロ」となっている。
王毅氏と会談したセルダル・ベルドイムハメドフ副首相は、強権支配を続けるグルバングルイ・ベルドイムハメドフ大統領の息子。今年2月に重要ポストである副首相や、財政支出を監視する組織の議長、国家安全保障会議のメンバーに就任した。首相は大統領が兼任しており、副首相は父親の直属の部下となる。この人事が「最高権力の世襲に向けた布石」との見方を広げている。
同国経済は、世界第4位の推定埋蔵量を誇る豊富な天然ガスが支える。その最大の輸出先が中国だ。ただパイプライン建設の過程で中国に対する巨額の債務を抱えることになり、資金でなく天然ガスで代物弁済するという状況が続いている。