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独裁3カ国の“感染者ゼロ”は新型コロナの潜在的脅威

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
トルクメニスタンとタジキスタンの位置関係(外務省ホームページから。赤枠は筆者)

 新型コロナウイルスの感染拡大が地球規模で広がるなかでも、少なくとも17カ国(4月10日時点)で感染者の報告がない。大半が小さな島国だが、中には北朝鮮、トルクメニスタン、タジキスタンのように、独裁体制によって情報が統制されて「感染者ゼロ」と報告されている可能性のある国も。感染状況に不透明さが残れば、国際社会で感染拡大が収束したあともウイルスの脅威が温存される形となり、専門家は警戒を強めている。(参考資料:「二重の閉鎖」で北朝鮮経済にさらなる危機)

◇「中央アジアの北朝鮮」

 トルクメニスタンは中央アジア南西部にあり、西側はカスピ海に面している。人口は600万人弱。ソ連崩壊で1991年に独立。同国ではベルディムハメドフ大統領の崇拝が強制され、報道・言論の自由も厳しく制限されていることから「中央アジアの北朝鮮」と呼ばれている。

 中東で最も深刻なイランに接し、集団感染が始まった中国にも近い。だが、同国は公式発表で感染者を「ゼロ」としている。

 トルクメニスタンは2月初旬に中国や他国へのフライトをキャンセルし、すべての国際便を、首都から、検疫ゾーンが設けられた北東部トルクメナバードに迂回させるなどの措置を取っている。

 現地からの報道によると、住民たちが「新型コロナウイルス」という言葉を口にするだけで拘束され、公式文書とメディアでも使用が禁止されている。市民のマスク着用も「感染していることを連想させる」として禁じられている。

 住民の多くが「新型コロナウイルスが国内にある可能性をほのめかすこと」さえ恐れているため、普段通りの生活を送り、カフェやレストランは開店、結婚式のために人は集い、大規模イベントも実施される。ベルディムハメドフ大統領は「薬草を焼いた時に出る煙が感染症予防に効く」という持論を展開したこともある。

 こうした環境から、たとえ市民の感染が確認されても、地元当局がそれを隠す可能性が残る。トルクメニスタンの医療システムを研究するロンドン大学衛生熱帯医学大学院のマーチン・マッキー教授は英BBCの取材に「トルクメニスタンの公式健康統計は、悪名高く、信頼できない」と批判している。

◇タジキスタン

 中央アジアのタジキスタンは民主主義国家で大統領制をとるが、現職のラフモン大統領が1994年11月の初当選以来、四半世紀にわたって独裁体制を敷き、一族支配を続けている。

 中国に隣接するため、新型コロナウイルスの感染が拡大しているとの懸念がもたれているが、国連人道問題調整事務所(OCHA)ウェブサイト「リリーフウェブ」によると、4月3日現在、感染例は報告されていない。

 市場や公共交通機関などのすべての公共サービスは通常に機能し、大規模集会に対する制限もない。学校は10日間の春休みの後、4月1日に再開された。

 3月30日の段階で貨物輸送を除き、近隣諸国との国境はすべて閉鎖された。空港も封鎖されている。入国の場合、14日間隔離される――。

 トルクメニスタンもタジキスタンも、北朝鮮と同様、実際にどれだけ新型コロナウイルスによる感染が拡大しているか、外部から確認する手段がない。世界保健機関(WHO)の集計も各国の保健当局による報告に依存しており、各国側が「ゼロ」と伝えれば、その国は「ゼロ」とカウントされる。

「北朝鮮でどれだけ感染が拡大していても、われわれの側にはそれを確認できる手段がない。国際社会で感染が収束する段階に入っても、北朝鮮のような“情報の空白地帯”から再び感染が広がる恐れがあり、警戒を緩めるわけにはいかない」。日本の治安関係者はこう懸念する。北朝鮮に対する指摘は、トルクメニスタンやタジキスタンにも当てはまる。

◇残りは太平洋の島国とアフリカ2カ国

 このほか感染者未確認は、まず太平洋の島国12カ国(キリバス、クック諸島、サモア、ソロモン諸島、ツバル、トンガ、ナウル、ニウエ、バヌアツ、パラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦)。多くが南太平洋の離島で、食品や商品、観光など外部との輸出入に依存している。「国土が狭く分散している」「国際市場から遠い」などの慢性的な困難を抱えており、入国禁止措置が長引けば、経済への致命的な打撃となりかねない。

 もう一つが、アフリカのコモロ、レソトの両国。このうちレソトは新型コロナウイルスによる感染がアフリカで拡大する前、国民の外出を禁止するとともに国境も封鎖している。感染者は報告されていないものの、検査能力も備えていない。中国外務省によると、電子商取引(EC)最大手アリババグループの創業者、馬雲氏が3月26日、レソトに対して検査キットを寄贈している。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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