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6月初めの豪雨、東海道新幹線の対応は適切だったのか? 今後に生かせる教訓は

小林拓矢フリーライター
一定以上の豪雨では、さすがに新幹線でも規制がかかる(写真:イメージマート)

 6月2日から3日にかけて、台風2号にともなう線状降水帯による豪雨が東海道・山陽新幹線に沿うように降っていた。その影響で、東海道新幹線には大幅な遅延や運休などの大きな影響があった。

 運休により列車内に缶詰めにされた人や、予期せぬホテル手配を必要とした人も多くおり、とくに大人数の修学旅行生に大きな影響を与える事態となった。

 2日、東海道新幹線は雨が進むにつれて遅れがひどくなった。その後運休した。3日には規制が解除され、臨時の「のぞみ」が頻発して乗客をさばき、しだいに混乱は解消していった。

 その後、6月8日から9日にかけて大雨が予想された。「運転見合わせ」の可能性も告知された。旅行などの予定変更も呼びかけた。だが、想定ほどの豪雨にはならず、新幹線が大きく遅れることはなかった。

 東海道新幹線の豪雨対応は、はたして適切だったのか? 豪雨で運行できなくなるのは当然としても、駅で待つ人を減らしたり、列車内で宿泊させられたりする人を減らすことは可能だったのではないだろうか?

 ほかの鉄道ならいざ知らず、東海道新幹線はそれが可能なポテンシャルを持っている。その上で、予測された豪雨の際にどんな対応を取るのが適切だったのかということを考えてみたい。

事前の告知をもっと大々的に

 豪雨が起こることは、前々からわかっていた。その段階で、利用者に向けて早めの新幹線の利用に切り替えさせることをもっと徹底すべきだった。現在では新幹線の利用者は「エクスプレス予約」などのチケットレス決済が主流であり、この記事をスマートフォンでお読みの方ならば手持ちのスマートフォンに入れたアプリで簡単に予約を変更することができる。

 事前の告知については、もっと大々的に行うべきだった。鉄道関連の記者クラブを通じて、新幹線が運休になる可能性や、早めの新幹線を利用するように告知することなどを何度も伝える必要があった。実際に報道こそされていたものの、もっと多くの人が気づくようにする必要があった。

「エクスプレス」「スマートEX」などのためのスマホアプリ「EXアプリ」利用者には、プッシュ通知で運休の可能性と、早めの新幹線に予約を変更するようにとのお願いを流すべきだった。

 もちろん、メール配信でのお願いも必要だ。

 新幹線が動かなくなる可能性があるということを、多くの人にもっと知らせるべきだった。

東海道新幹線だからできる対応も

 東海道新幹線のダイヤでは、「のぞみ」を1時間あたり片道最大12本運行することが可能だ。そのダイヤを利用して、雨がひどくならないうちに臨時の新幹線を運行することも可能だったのではないか?

 2日には臨時に新幹線が運行された、という話もあるものの、もっと早期の対応をしてもよかったと考えられる。

 東海道新幹線のダイヤは、それほど多くない定期列車と、日によって運行されるかどうかが決まる臨時列車で成り立っている。東京から新大阪までの「のぞみ」の本数を日により変えることで、需要に応じた供給をていねいに行うことも可能だ。

 むろん、車両や人員の問題もある。だが車両に関しては、ゴールデンウィークや年末年始などの繁忙期に合わせて多くの車両が用意されている。JR東海は、車両運用を機敏に変えられるようなシステムを備えていると聞く。人員も、ピーク時に合わせて多くの運転士や車掌を雇用している。車内販売に関してはこういう状況なのでなくても問題はないだろう。

 ほかの鉄道会社ではできないような対応をできるだけの人や車両、設備、システムを備えているのが東海道新幹線であり、豪雨を前に多くの利用者を運んでしまうということも可能なポテンシャルを有しているのだ。

 その上で、臨時「のぞみ」の運行を決断し、乗客を目的地まで早めに送り込んでしまうことも可能だったと考える。

それでも評価したい「事後の対応」

 3日に新幹線が運転再開後、駅には多くの人が押し寄せ、混雑は激しかった。その際に、JR東海は臨時列車を何本も運転し、乗客をさばいた。駅の混雑はしだいに収まっていった。

 この「事後の対応」にも、東海道新幹線のダイヤの特性と、新幹線車両の本数がかかわっている。要するに、余力がある状態をふだんから作っているのだ。

 豪雨の対応については、初動に遅れが見られ、それゆえに混乱も起こった。駅では多くの人がどうしていいかわからなくなり、とくに修学旅行生は代わりの宿を手配するのが大変だったと聞く。

 だが雨量規制が解除されたあと、多くの新幹線列車を運行することで乗客をさばくことができた。これはJR東海だから可能だった。

 今後は、天気の状況を見極めた上で、乗客を適切に誘導し、移動できないという人を少しでも減らすように、早め早めの対応をしていくというのが教訓となった。

 なお、こういった対応はほかのJRにできるのか、ということも考えられる。また在来線特急では難しい。

 利用者の側としても、天気の状況をよく見て、柔軟に対応するしかないだろう。

フリーライター

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学教育学部社会科社会科学専修卒。鉄道関連では「東洋経済オンライン」「マイナビニュース」などに執筆。単著に『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。共著に『関西の鉄道 関東の鉄道 勝ちはどっち?』(新田浩之氏との共著、KAWADE夢文庫)、首都圏鉄道路線研究会『沿線格差』『駅格差』(SB新書)など。鉄道以外では時事社会メディア関連を執筆。ニュース時事能力検定1級。

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