TPP閣僚会合、合意に足らず終了 安倍対中戦略にも痛手
アメリカ・ハワイで行われていたTPP(環太平洋経済連携協定)の閣僚会合は合意に至らず、日本時間で1日午後終了した。客観的には合意に至る可能性は極めて小さかったにも関わらず、日米政府は「大筋合意」という奇妙な決着の付け方を念頭に、強引ともいえる会合運営を図ってきた。しかしその目論見は外れ、知的財産権や酪農製品の市場開放をめぐって新興国やニュージーランドの頑強な抵抗にあい、解決の糸口を見いだせないまま時間切れとなった。TPPは対中国戦略としてアジアにおける日米軍事戦略と表裏に関係にある。集団的自衛権を前提とする安保法制(戦争法案)が市民の大きな抵抗にあって安倍政権の支持率低下に歯止めがかからなくなっているなかでTPP交渉が頓挫したことは、今後の政権運営にも大きな影響を与えそうだ。(大野和興)
日本時間で1日午後(現地時間31日)に開かれた交渉参加国閣僚が顔をそろえての共同記者会見では、「大筋合意には至らなかった」と明言。その上で、米国議会や日本の秋の国会日程も考え、「8月中にもう一度閣僚会合を開催して合意」に持って行くことも明言された。しかし、形だけでも取り繕おうということで、開会前から日米政府でしきりに強調されていた「大筋合意」が、その糸口さえ作れなかったことで、一か月以内で何かの進展が作れるとはとうてい考えられない、というのが大方の見方となっている。
この夏に合意に足らなかった場合、TPPは数年は動かないという見方が出ている。米国ではで米大統領選挙が本番に入る。16年1、2月には大統領予備選投票が開始され、7月両党候補者指名、16年の11月8日大統領選挙投票日という流れで、米国は長い政治的空白期間が続く。日本も秋には安保法制をはじめ緊迫した政治日程が続く。交渉参加国12カ国の中で、日米をのぞいて合意を急ぐ理由がある国は見当たらない。むしろ、これを機会に腰を落ち着けて自国の利益を追求し、有利な決着をはかろうという思惑が垣間見える。
深刻なのは日本政府で、TPPにからむ日米二国間の協議で、コメや牛。豚肉、乳製品など重要農産物で一方的な譲歩を重ね、逆に日本側が要求している自動車及び自動車部品関税ではほとんど何も獲得できていない状況となっている。交渉が長引くほどこの傾向は強まり日本側が一方的に追い詰められる状況にある。現在は安倍一強体制のもとで自民党党内の異論は封じ込められているが、来年夏には参院選があり、場合によっては「このままでは選挙はたたかえない」と不満が吹き出してくる可能性もある。
対アジア戦略でいえば、中国が主導してEU諸国も含めアジアのほとんどの国が参加しているAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対抗する道はTPPを成功させること以外にないだけに、日本政府は外交的に大きな痛手を被ることになる。