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「中国との向き合い方は日本に学べ」という知中派オーストラリア元首相の意味ありげなアドバイス

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
司会のラッド元豪首相(下)。上は王毅氏と崔天凱氏=YouTubeをキャプチャー

 中国とオーストラリアの関係がかつてないほど悪化するなか、「オーストラリアは日本から、中国への対処方法を学ぶべきだ」と勧めるのが元豪首相のラッド氏だ。中国の故事成語に精通し、流ちょうな中国語を話す知中派。声高に中国を批判するのではなく、状況を見極めながら声を上げるよう豪政権に促している。

◇「オーストラリアはメガホンを置け」

 香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が12月1日に開いた中国関連の会議で、ラッド氏は中豪関係を取り上げ、豪政権に対して「メガホンを置いて、日本外交の脚本から何かを学び取るべきだ」と主張した。

 ラッド氏の見解はこうだ。

「日本とオーストラリアの類似性を考えれば、日本政府が中国政府に対処する能力は、特に教訓のあるものだと考える。日本はオーストラリアと同様、米国の緊密な同盟国であり、日本はオーストラリアと同様、中国と巨大な経済関係を持っている。日本にはオーストラリアと同様、自由と民主主義がある。そして日本には、オーストラリアとは異なり、尖閣諸島をめぐる東シナ海での領有権問題がある」

「私が気づいたのは、上記の状況にかかわらず、安倍晋三氏と菅義偉氏の両政権とも、少なくともこの数年間、中国との関係をうまく管理し、日中関係が動揺の対象、つまり危機というものになっていないことだ」

 ラッド氏は、これからバイデン政権が発足して、米中関係が「再安定化」すれば、現在の状況に前向きな変化をもたらす可能性があると指摘。「米国が仮に、米中関係の再安定化を念頭に中国に関与しようと考えるなら、それは米国の戦略的思考である可能性があり、全体的な仕組みにもなり得ると思う。つまり、中国と近年こじれているカナダ、オーストラリア、その他の国々との関係も並行して再安定化させるよう、中国に促すことになるからだ」

「両国がメガホンを片づけ、昔ながらの手段に訴えよ。それは『外交』と呼ばれるものだ」

「『外交』が意味するものは、両国関係において相手側が問題視する事案を双方が受け入れることであり、『外交』のプロセスを使ってそれらを一つ一つ処理すること」

 SCMPはラッド氏について「メガホンを『机の下』に置き、政府が『すべての問題に寡黙なわけではない。選択的である。相手が沈黙しようとしない問題に対しては(声を上げる)』という外交政策を取る日本の手法を高く評価している」と解説している。

 ラッド氏はかつてオーストラリアの労働党(中道左派)=現在は野党=党首として首相を務めた。発言の中には、中国と対立を深めるモリソン現首相や与党・保守連合(自由党と国民党、中道右派)に関する直接的な言及はなかったという。

◇かつては「中国に対して弱腰」批判も

 ラッド氏は1957年9月、ナンボー(クイーンズランド州)生まれ。オーストラリア国立大で中国語・中国史を学び、81年に外務省に入り、84~86年に在中国大使館での勤務経験がある。退職後の96~98年にはオーストラリアKPMG社シニアコンサルタントで中国担当を務めた。

 労働党党首として臨んだ2007年12月の総選挙で勝利し、首相に就任。10年6月に退陣したあとは外相に。13年6月に首相に返り咲いたが、3カ月後の総選挙で政権交代を許し、退任した。

 中国情勢に対する理解が深いため、首相時代には一部で「対中融和路線」「弱腰」などと批判され、労働党も「親中」と指摘されたことがある。SCMPの会議でもラッド氏は、尖閣諸島について「日中間で紛争がある」と表現している。尖閣諸島は日本の領土であり、そもそも解決すべき領有権問題は存在しない。だがラッド氏は中国の「(尖閣は)自国の領土」との独自の主張を踏まえ、「紛争がある」との見解を示している。

 ラッド氏が所長を務める米国際交流団体「アジア・ソサエティー政策研究所」は18日、中国の王毅国務委員兼外相や崔天凱駐米大使を招いたオンライン会合を開いた。王毅氏は「中国の政権転覆を意図するならば、それは不可能だ」「国際社会で『反中同盟』づくりを狙っても、大多数の国は(米中の)二者択一を望んでいない」などと、自国の主張を繰り返し表明していた。

 この会合でラッド氏は司会を務め、中国語で「王外相をお迎えしてスピーチをいただくという機会を得られたことを大変光栄に思います」とあいさつしている。

 中国通のラッド氏だが、習近平政権の「既存の国際秩序を自国式に塗り替えるような言行」に対しては厳しい立場を取っているようだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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