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「豪雨と渇水が隣り合わせ」の時代を生きる

関口威人ジャーナリスト
6日未明の近畿・東海地方の気象レーダー。局地的豪雨に見舞われている

集中豪雨による被害が多発している。一方で、渇水に悩んでいる地域もある。

これだけ極端な地域差があるのが日本列島にとって異常かどうかは分からない。ただ、降るときと降らないとき、暑いときと寒いときの振れ幅が激しく、局地的になっているのは統計にも現れているし、多くの人が実感できていることだろう。

沖縄では「雨乞い」、愛知では節水

6月中ごろから小雨傾向の沖縄では「雨乞い」をしている島もあるほどだ。宮古島の知人は冗談ではなく、九州の大雨をこっちにくれーとつぶやいていた。

名古屋市でも8月5日夜から6日未明にかけて、1時間に100ミリを超える猛烈な雨が降った。詳細はまだ分からないが、局地的に浸水や冠水などの被害が発生しているようだ。

同じ愛知県でも東部の豊橋市は節水を呼び掛けている。降水量が平年の2割程度にとどまり、主要水源である豊川水系の宇連(うれ)ダム(同県新城市)の貯水率が4割を下回った。7月下旬から始めた水道、農業、工業の各用水に対する5%の節水対策を、5日から10%に強化したところだったのだ。

名古屋の雨を豊橋に回してあげたい。

ただ、「10%や20%の節水なら問題ない」という見方もある。

「10年に1回程度の渇水は必ずあって、ダムはそれに対応するように造られる。貯水率が5割を切ったら取水制限がおこなわれるのは普通の状態」

こう言い切るのはダムや河口堰に詳しい岐阜大学地域科学部の富樫幸一教授だ。

もともと豊川水系は水不足になりやすい。流域面積が狭い上に、河川の勾配が急で、降った雨がすぐ海に流れ込んでしまう。そこに74万人が住み着き、農業に加えて自動車産業などを発展させてきた。

ダムや頭首工、導水路や調整池…。ありとあらゆる河川開発をおこなって、「取れる水は取り切ってきた」(富樫教授)。

その開発の総仕上げが、最上流部に計画された「設楽(したら)ダム」の建設だ。

1978年から計画が本格化し、すでに住民の立ち退きが進んでいる。しかし民主党政権でストップがかかり、見直しが始まった。上の富樫教授の発言は、3日に地元で開かれたダム問題の公開の会議で交わされた意見の一つだ。

設楽ダムの建設予定地近くに掲げられているメッセージ(関口威人撮影)
設楽ダムの建設予定地近くに掲げられているメッセージ(関口威人撮影)

巨大開発には頼れない

設楽ダムの特徴は治水よりも利水が主目的であること。中下流部で水を「取り尽くす」ため、上流部に水を貯めて渇水時に流そうという発想だ。しかし、水需要が過大に見積もられている、環境や生態系に悪影響を与えるのでは、といった批判や疑念の声は絶えない。

そもそも当初の計画から30年以上が経ち、状況が大きく変わってきている。

会議で下流部の住民は言った。

「農家にとって水は『いのち』。設楽ダムを待っていられないから、ダムのない方法でどんどん(渇水対策を)改善してきた。だからもうダムはいらなくなった」

いま確かに言えるのは、ダムや河口堰、防潮堤などの巨大開発に頼って安心するのではなく、一人ひとりが自然の変化に対する感覚を鋭敏にして、いざというときに自らの判断で行動しなくてはならない、ということだ。

自然は極端なくらい、シグナルを発してくれるのだから。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。東日本大震災発生前後の4年間は災害救援NPOの非常勤スタッフを経験。2012年からは環境専門紙の編集長を10年間務めた。2018年に名古屋エリアのライターやカメラマン、編集者らと一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」を立ち上げて代表理事に就任。

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